昼寝ってたまにすると気持ちいいよね
『―――――!』
『―――――。――――!』
僅かに聞こえてくる喧騒に目を覚ます。
ごしごしと手の甲でまだ眠い目を擦って、それでも眠気が取れないから水を魔法で生み出して顔を洗い、ホロスリングから出したタオルで拭いて、風魔法で乾かす。
よし、さっぱりした!
「ん?」
眠気も取れてはっきりと見えるようになった目に映ったのは、盗賊風の格好をした男の集団だった。
男達は口々に怒鳴ったり、隣の奴に話しかけたり殴ったりしながら、結界をガンガンと叩いている。
察するに、寝込みを(エロくない意味で)襲おうとしたけど、結界は割れないし解除も出来ないしで殴って、段々イライラしてきて今に至る、という感じだろうか。
ご苦労様でーす。
「っく、ふあぁ……っ」
欠伸を1つして、隣を見る。
シオンは右隣で寝ており、フレイは更にその隣で身体を真っ直ぐにして、何かに祈るように胸の上で手を組んで寝ている。
……信心深いのかな?
時間は多分2時半とかそれくらい。夜寝る事も考えれば、そろそろ起こしておくべきだろう。
という事で、まずはシオンを起こしにかかる。
「シオン。おい、シオン。そろそろ起きろ」
「……へへ、だぁいすきぃ……」
なんの夢を見ているのか、にへらと笑みを浮かべるシオン。
ああ、ちくしょう……すっげえ可愛い……!
でも起きて!
「ほら、シオン。起きてくれ」
「うぅん……や、らぁ……」
「そっかぁ、嫌かぁ……」
なんとなく、ふにゃっとした様子のシオンに気勢を削がれて、別に寝たままでもいいかな、なんて考えてしまう。
……いやいや、いかんでしょ。
せめて寝るなら宿屋のベッドとかにしてくれ。
「しょうがない。これだけは使いたくなかったが、起きるのが嫌となれば致し方なし。恨んでくれるなよ、シオン」
念の為にシオンに向けて合掌をしておいてから、その手をそのまま、シオンの腹部にあてる。
そして格闘術Lv6を活かして、掌から魔力を衝撃波として……打ち込む!
「ごぶぅっ!?」
……およそ女の子が出してはいけない声が聞こえたが、シオンを起こすという当初の目的は達せられた。
故に問題なし!
「ぐ、げっほ、ごほっ……!」
「よう、シオン。おはよう」
「おはようじゃねえだろ! 殺す気か!」
「そんなわけがあるか。お前はオレの大切な相棒なんだ。仮に死にかけたとしても、全力で回復してやる」
「……お、おう。ありがと……」
頬を赤く染め、かりかりと人差し指でかきながら照れたように言うシオン。
おい、やめろ。なんだそれは。オレを殺すつもりか。自慢じゃないが、そこで『へへっ』なんて笑われた暁には命を天に返す事間違いなしだぞ。
「へへ……嬉しいな……」
はい死んだ! はい今オレ死んだよ!
天照サマ……来世はもっと、男心に優しい世界にしてくださいね……。
「……クロウ?」
「――はっ!? オレ、今死んでなかったか!?」
「はあ? なに言ってんだお前。俺の相棒はちゃんとここで生きてるよ」
「……そうか。オレは生きてるのか」
「……そういうのは私のいないところでして欲しいものだが」
いつの間にかフレイが起きてきている。
ちょっと騒がしくし過ぎたかな? まあ、起こす必要がないのは助かるけど。
「起こしたか?」
「いや、元より仮眠のつもりでの睡眠だ。すぐに起きるつもりだった」
「そうか。そうだな」
「うむ。……ところで、この周りの者達はなんだ? 先ほどから無駄に結界を殴っているようだが」
「寝る前にちょろっと話したろ。あれだよ」
「……なるほど。しかし、それならさっさと殺してしまえば良いだろう? どうせ、世間からあぶれた頭の悪い有象無象だ」
心底鬱陶しそうな冷めた目付きで結界を取り囲む男達を眺めながらフレイは言う。
一部の、そういう趣味を持つ人間にはたまらなくゾクゾクくるであろう……言うなれば『養豚場の豚を見る目』といったところだろうか。
「いやぁ、そうは言うけどなお前。人を殺すのって、結構大変な事だぞ? まあ、戦争経験者には釈迦に説法だろうが」
「シャカニセッポウがなんなのかは知らないが、殺人が大変なのは理解している」
「だったらわかるだろ? 70人近くもの人間を殺すのは面倒だ」
「魔法があるだろう?」
「シオンが『今回は魔法ナシで歩いて行く』っつったから魔法ナシ」
「結界は魔法ではないのか?」
「物事には例外ってヤツが必ず存在するんだ」
「……いいから早くしろ。こいつらのような有象無象に構っている暇などないのだぞ」
ちっ……もう少し引き延ばしたかったが、火急の用があるのも事実だ。
「シオン、いいか?」
「……しょうがない。いいよ」
少し残念そうにシオンは言うが、仕方のない事だと、どうか諦めて欲しい。
……さて。そうと決まれば話は早い。
さっさと周りの連中を無力化して、適当な町に押し付けちまおう。
「じゃ早速。拘束しろ!」
中空に向けて呼び掛けると、ズボボッと結界の周りにいる男達の足元から樹木が伸びてきて、5人ひとまとめで男達を拘束した。
なにやら男達がギャーギャー騒いでいるが、そんな事は知った事ではない。人が寝ていると思って妙な事をしようとするからバチが当たったんだ。
「拘束? 殺さないのか?」
「どこのサイコキラーだよ、お前は。こいつらを捕まえて衛兵にでも突き出せば、オレ達は謝礼が貰えるし、国は犯罪奴隷が増えて労働力に困らない。一挙両得だ」
「なるほど……」
得心がいったようで、フレイは『なるほど、なるほど』と何度も頷きながら呟いている。
「……なあ、クロウ……」
「……言うな。知らぬは本人ばかりなり、だ……」
そして、そんなフレイを横目にシオンと小声で話す。
まあ、別にフレイがぽんこつ騎士でも、オレは一向に構わないけどな。それはそれで、堅物そうに視えるフレイにも可愛い部分があったんだなと思える。
「さて。とにかく今は先を急ぐか。こいつらは王都辺りで押し付ければいいだろ」
「……ああ、せっかくののんびりした旅が……」
「まあ、良いではないか、シオン。帰りはのんびり帰ればいい」
「んー……それもそうかぁ……」
シオンの納得を得られたところで、結界を解除しつつ樹木を拘束を残したまま切って、同時に風魔法で男達ごと空中に浮き上がる。
「……貴様達、普段はこんな風に移動していたのか」
「クロウの魔法頼りだけどな」
「楽だろ?」
若いうちの苦労は買ってでもしろ、なんて言ったりするが、それは置かれている環境が優れているから言える戯れ言だ。
少なくとも、この異世界で苦労を買ってたら、間違いなく死ぬ。だから、楽をするに越した事はない。
もっとも、物事の効率化は誰でもする事だと思うが。
『うわああああああっ!? う、浮いてる!?』
『ひいいいいいいぃぃぃっ!!?』
『お、おれ、高いとこダメなんだよぉ!!』
盗賊っぽい男達が随分と情けない叫び声をあげているが、連中の事はもう気にしない事にした。
とりあえず王都に向かって全速前進!
音を置き去りにしてみたい!




