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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
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冒険者としての心構え


 昼食にと決まったところで、適当な空き地を見つけて早速腰を落ち着ける。念の為に聖魔法で結界をいくつか張ったら、いよいよ昼食の準備に取り掛かる。


 とはいえ、結局のところは昼食と言ってもソルダルの屋台で買っておいた軽食ばっかりだ。

 ちなみに、夏に入ったからか、最近では果汁ジュースが売られていたりする。

 みんな大好き100%ジュースだ。美味い。

 当然ながらこれも昼食のメニューの一部である。


「じゃあ、はい」

「うむ。……しかし、なんだろうな。これまで行軍中の食事と言えば、どれもこれも冷めきったものだったが……」

「俺はもう慣れたぞ」

「半年近くも行動を共にしていて慣れないのがおかしいだろう……?」

「いや、2ヶ月経ったんだからお前も慣れろよ」


 自分が慣れていないのは普通の事であるかのように言っているフレイに、冷ややかな視線を向けてみる。

 まあ、フレイ達はシオンと違って行動を共にしたりしなかったりだから慣れていないのも仕方ないのかも知れないが、それにしたっていい加減に『クロウが同行している時は冷たい食事ではない』くらいの認識はして欲しい。


 んー……でも、あれだな。

 屋台の品物も代わり映えなんてしないから、いよいよもって飽きてきたよなぁ。失礼な話なんだけどさ。

 天照サマの話じゃ、レシピは自前でどうにかしろって事だったから食材と自由に出来るキッチンさえあればどうにでもなるんだが……。

 まあ、今はまだしばらく、ジュリアスの世話になっておきたいかな。


「……ん、どした、クロウ?」

「ん? ああ、いや、ちょっと考え事。大した事じゃないから気にすんな」

「そうか? なんでもいいけど、飯食べたらしっかり休めよ? ただでさえ魔法使ったりして俺達より苦労してんだから」

「クロウだけになー……」

「そういうくだらないシャレが言えれば十分か」

「……そういうもの、なのか?」

「そうだぜ、フレイ? こういうくだらないシャレがウケるようになったら末期だ。即座に気絶させて、強制的に睡眠を摂らせた方がいい」

「そ、そうか。うむ。覚えておこう」


 フレイが少し引きながらも頷く。


 疲労してる奴が、『クロウだけに苦労してる』なんてどうしようもなくくだらない駄洒落で笑い始めたら、もうそれは壊れ始めている。

 肉体もそうだけど、精神的に。


 だから、可及的速やかに催眠、あるいは気絶等の手段を用いて眠らせておかないと、あっという間に廃人の出来上がりだ。

 前世では、それで知人を2人ばかり失った。

 悲しいかな、その時のオレにはどうする事も出来なかったのだ。知人も知人で、ブラック企業勤務であんまり会えなかったし。

 願わくば、あの知人とこの世界で再会出来たらと思う。まあ、オレは前世とは容姿が違うけど。


「……はぁ。なんか、しばらくぶりにゆっくり出来た気分だな」

「……すまない」

「謝るなよ。別にお前のせいだって言ってないだろ。焦る気持ちもわかるけどな」

「うむ……。しかし、クロウ達はどうしてそうのんびりしていられるのだ? 依頼なのだから、早く行って早く解決するに越した事はないだろう?」

「まあ、それはそうだな」

「だったら……!」

「それはそうなんだけど、だからって無理な行軍で身体を壊したら意味がない。対象と戦う頃には既にズタボロで、討伐のつもりが殺されましたなんて、笑い話にもなりゃしない」

「フレイはまだ、魔物相手の遠出ってした事なかったっけか」

「確かに、私……というか、第3隊は魔物の討伐依頼での遠出はした事はないが……。しかし、それがどうしたと言うのだ?」


 フレイの言葉に、シオンが呆れたように溜め息を吐いた。

 知らないのも無理はないかも知れないが、それくらいの知識は仕入れておいて欲しかったな。


「なあ、クロウ」

「別にいいだろ。意識の違いは今に始まった話じゃないんだから、ここらで理解させといた方が良い」

「そっか。……じゃあ、フレイ。よく聞いてくれ」

「う、うむ……?」

「クロウが言ったように、俺達は……冒険者は、基本的に生きる事が最優先だ。それはわかるよな?」

「もちろんだ。命あっての物種だからな」

「だよな。でも、魔物の討伐っていうのは、不確定な要素が多い。そこに向かう道中もそうなんだけど、魔物と戦ってる最中でさえ油断出来ないんだよ」

「それはわかっている」

「わかってないから言ってんだよ、俺もクロウも。……確かに、フレイの言う通り、早く解決するに越した事はない。だけど、強行軍で急いで、道中の不確定要素にも対応してってやってたら、休む暇がない」


 そう。結局はそこだ。

 放っておけば、なるほど、確かに被害は拡大するだろう。

 しかし、だからって強行軍に強行軍を重ねて、その上、道中襲ってくるだろう盗賊達や魔物に対応していたら、身体がいくつあっても足りない。


 それに、遠出の必要がある依頼となれば、該当の地域の状況さえわからない。

 今回の事で言えば、アラクネがいて被害が出ているという事はわかっていても、周辺状況がまったくわからないわけだ。

 アラクネ以外の魔物はいるのか、いるとして、どの程度の強さなのか。どれくらいの数がいるのか。それらの情報が欠落している。


 これが例えば戦争なら。人間が相手なら。

 斥候を放って、敵や周囲の地形などの状況を逐一確認しながら行軍し、万全の体勢で戦闘に臨む事が出来るだろう。

 だが、冒険者の相手は魔物だ。人じゃない。

 人間なんかよりも遥かに強大な存在を相手にするためには、多少時間がかかったとしても、準備は万端に、身体は万全にしておかなければならない。


 フレイには、その意識が足りない。

 実際のところはわからないが、どこか、魔物ではなく人間を相手にするような思考をしている気がする。


「……なるほどな。わかっているつもりではあったが、意識が足りなかったか」

「……まあ、フレイのその気持ちは褒められたもんだとは思うけどな。人間でない以上、万難を排して臨まないといけないんだ」

「俺もクロウも、被害が増えるのをよしとしてるわけじゃない。だけど、俺達を頼ってきた依頼で、俺達が死ぬわけにはいかない。早い話が、そういう事だよ」


 まあ、なんだかんだと御託を並べてみたところで、とどのつまり『ミイラ取りがミイラになったらダメじゃん?』って事だ。

 討伐を望まれてるのに逆に討伐されました、なんて、頭の悪い話にも程がある。


「……うむ、よし。ようやく理解出来たみたいだ。ところで、私達は今、狙われているのではなかったか?」

「まあ、そうだな。手は出せないだろうが」

「む、そうなのか?」

「ああ。だからまあ、しばらく寝ても問題ないぞ。具体的には半日くらい余裕だ」

「……本当に狙われている、のだよな?」


 怪訝そうにこちらを見つめながらフレイが問うてくる。

 まあ、そう言いたくなるのもわからないではないけどな。盗賊風情じゃ絶対に割れないし、解除も出来ない結界だから、そこは安心して欲しい。


「そうか……。まあ、私にはその盗賊の姿は見えていないから、どうにも出来ないが……」

「変に気にせずにフレイもちょっと寝とけよ。俺は寝るぞ」


 すっかり慣れたシオンは、既にいそいそとドレスアーマーを脱ぎ始めている。ドレスアーマーの下は以前服屋で買った衣服だから、別に何かを心配する必要はない。


「オレも寝るから、フレイも寝とけ。睡眠はちゃんと摂らないと、どっかでぶっ倒れるぞ」

「……そうだな。では、私も眠るとしよう」


 覚悟完了、みたいな顔をしてドレスアーマーを脱ぎ始めたフレイを横目に、芝生に身体を投げ出して目を閉じる。

 夏だから日射しはいくらか強いが、爽やかな風が夏の暑さを少しだけ和らげてくれていて、気持ちよく眠れそうだ。


 しばらくして本格的に睡魔がやってきたところで、オレは意識を手放した。

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