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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
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不穏な気配


 ソルダルを出発して、早くも3日が経過した頃。

 がさがさと草むらの揺れる音が聞こえ、『眼』に害意を持った存在が映る。


「止まれ」

「……どうした、クロウ?」

「招かれざる客のお出ましだ」


 1人、2人ではない。10人、20人単位で、オレの視界に赤い人影が映っている。

 当たり前だが、普通の人間にはそんな風には映らない。そもそも向こうは草むらの中や木の陰に身を隠しているので、普通なら見えるはずもない。


 では、何故見えているのか。

 単純な話、それが『魔眼』というスキルに内包された能力の一部であるからだ。

 能力名を『感知眼』。設定した条件に合致するものを、赤い影として視界に映してくれる、なんとも便利なスキルである。

 ちなみに、今回の条件は『オレ達3人に害意を持っている相手』。


「……何人いる?」

「両手の指じゃ足りないな。足の指を合わせてもまだダメだ」

「なんだそりゃ」


 視界に映る赤い影はその数を着々と増やしていっている。

 30人……まだ増える。

 40人……それじゃ利かない。

 50人……とっくに超えてる。


 結局、赤い人影は70人近くなってようやく収まりを見せた。

 ……ちょっと多すぎるんじゃない?


「なあ、シオン、フレイ」

「どうした?」

「なんだ、クロウ?」

「1人頭20人ちょっとだけど、平気?」

「平気なわけがあるか!」


 間髪入れずに反論したのはフレイだった。

 まあ、それはそうだろう。正直オレだって、この数を相手するのは勘弁して欲しい。


 そもそも、『アラクネがいるなら少しでも早く着くべきだ』とのフレイの言葉によって、今現在、割と強行軍なのである。

 有り体に言って、疲れている。オレも、シオンも、もちろんフレイも。


 が、しかし。向こうにとっては、そんな事は関係ないどころか渡りに舟。まさに鴨が葱を背負っているようなものである。


「誰だ! 魔法使わずに行こうって言い出したのは!」

「俺だけど、乗ったお前も共犯だろ!」

「2人とも、落ち着け!」

「うるせえ!」

「フレイのせいで強行軍してんだろ! 黙ってろよ!」

「なんだと!?」


 疲労からくる怒りによって生じた醜い(いさか)いが、そこにあった。


「……とにかく。とにかくだ。今大事なのは、どうやって切り抜けるか、だ。そうだな?」


 オレの言葉に、少しは冷静さを取り戻したらしい2人が頷く。


 とはいえ、切り抜けると言っても、バカ正直に70人近くも相手してたんじゃ、いよいよ疲れ果ててしまう。

 飽くまで効率的に、最低限の労力で倒すのが望ましい。


「……お前ら、魔法は?」

「わかってるだろ、クロウ。俺は魔法使えない」

「フレイは?」

「光属性に適性はあるが、流石に60人以上を殲滅する魔法なんか無理だぞ」

「……そりゃそうか」


 集団に対する戦闘力が皆無か、それに等しい2人を横目に、なんとなくギルドカードを取り出して『オープン』と口にしてみる。


 ―――――――――――――――


 名前:クロウ 性別:男

 職業:冒険者 種族:人族

 筋力:B+ 魔力:B

 体力:B  速力:A-

 幸運:B  器用さ:B


 《通常スキル》

 刀剣術Lv7 格闘術Lv6 錬金術Lv6

 火魔法Lv5 水魔法Lv6 地魔法Lv5

 風魔法Lv7 雷魔法Lv4 氷魔法Lv5

 樹魔法Lv3 光魔法Lv6 闇魔法Lv4

 聖魔法Lv7 魔力操作Lv6 料理Lv5

 魔眼Lv6 (鑑定眼、感知眼、真偽眼、魅了眼、催眠眼、追跡眼)


 《固有スキル》

 魔法の素養 不老の加護

 神々の加護 太陽神の加護

 制縛の鎖錠


 ―――――――――――――――


 仕様の通りにオレの情報を表示してくれているギルドカードを眺める。


 広域殲滅となると、やっぱり魔法しかない。

 ただ、なるべくなら自然に被害を出さずに、そしてどちらかと言えば殲滅より拘束がいい。

 というのも、盗賊や山賊といった賊は、捕まえて衛兵にでも突き出せば謝礼が出るからだ。

 捕まえた賊は犯罪奴隷に落ちて国の労働力に変わり、賊を捕まえた側は国から謝礼を貰えるという、まさにwin-winの関係が出来ているのである。

 ……まあ、賊が死んでても謝礼は出るっちゃ出るらしいけど。それにしたって雀の涙程度だって話だ。


「……ん? 拘束?」


 改めてギルドカードを確認して、ふと思い至る。

 ああ……そうだ。なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。

 転生してきた当初も、無駄に森の中をさ迷ったし……おかしいな、前世じゃこんなバカじゃなかったはずなんだが。


「よし、決定!」

「ん? 何が?」

「いや、特に苦労せずに連中を無力化する方法を思い付いたから、そうしようって話」

「それは、貴様がギルドカードを眺めていたのと関係があるのか?」

「もちろん。まあ、とりあえず歩こう。……言っとくけど、強行軍は今日までだぞ」

「む……しかしアラクネは……」

「アラクネがいるってわかってんのに、わざわざそこを通るバカがいるかよ」

「……それもそうか」


 普段は取っ付きにくい空気を纏っているフレイだが、中身は案外ポンコツなので、割と簡単に騙されてくれて助かる。

 アラクネがいたって、商人は交易のために通らなきゃならない場合もあるのにな。


「じゃ、行こう。早めに着きたいのはそうだけど、いざ戦う時に疲労で身体が動きませんなんてシャレにならないからな」

「うむ、そうだな。……すまないな。どうにも気が逸ってしまって……」

「気にすんなよ、フレイ。早く行きたいのは、俺もクロウも同じだって」

「そうそう。けど、急いては事を仕損じるって言うし、冷静にな」

「……そうだな!」


 とりあえず、不自然にならないように再び歩き始める。相手はこちらを把握している、と向こうに思わせたら意味がないからな。


 それにしても、70人近くもいる盗賊団の話なんてあったかな? そんな話があったら、レインあたりが言ってきそうなものなんだけど。

 突発的に発生した盗賊団ってわけじゃないだろうし、どこかから流れてきたか、あるいは余程隠れるのが上手いか……だな。

 警戒しないわけにもいかないけど、警戒しすぎて相手に悟られても意味がない。程ほどにしておかないと……。


「……そういや、この先王都までの間に町とか村とかあるのか?」

「あるぞ。もう半日も歩けば、1つ町がある」

「へえ。なんて町だ?」

「メイオールだ。土地としてはコルナート辺境伯の領地だな。葡萄を栽培していて、ワインの産地として王都でも有名だ」

「ほぉ……。ん? コルナート辺境伯……って誰だ?」

「クロウ……貴様、ソルダルにいて領主の名も知らないのか?」


 フレイが憐れなものを見るような目でこちらを見てくる。

 そんな顔されても、知らんものは知らんさ。


「そんな事言ったら、シオンだって知らないと思うぜ?」

「いや、知ってるぞ」

「……マジ?」

「そりゃ、俺だってコルナート辺境伯の領民だからな」

「あ、そっすか……」


 ……まあ、そりゃそうか。

 自分が生まれた土地を統治してる人間の事くらい知ってるよな。

 前世で言えば、大統領や首相の名前を知らないって事だし、そう考えたらまずあり得ないよな。


「コルナート辺境伯ね……。まあ、領民に不自由を強いるような人間じゃなきゃ、誰が統治しててもいいんだけどさ」

「また貴様はそんな事を……」

「まあまあ。フレイは貴族だからそういうのも知ってるって話だろ。俺だってクロウみたいな生まれだったら、領主の顔も名前も知らずに育ってたよ」

「むぅ……それは、そうかも知れないが……」


 シオンに言われて、フレイがまだ納得は出来ていないような表情で、しかし一応の納得を見せる。


「助かったよ、シオン」

「別にいいけど、ちゃんと覚えとけよ、クロウ?」

「わかってる。いつ出くわすかわからないしな。名前だけでも知れたのは良かったよ」


 知識だけでも、あるのとないのとでは違いがあるから、それは本当に良かったと思ってる。


「ところで、クロウ、フレイ」

「どうした?」

「なんだ?」

「……腹、減らないか?」


 ……言われてみれば、確かに。

 空を見上げてみれば太陽も中天に差し掛かっているし、そろそろ昼食にしてもいい頃だろう。

 盗賊達……と思しき影は気になるが、腹が減っては戦は出来ないと言うし、疲れもある。

 ここいらで少し腰を落ち着けるべきかも知れない。


「んー……じゃあ、ちょっと早いかもだけど、昼ご飯にするか。言われて気付いたけど、オレも腹減ったわ」

「だろ?」

「確かにな。では、昼食にするとしよう」


 満場一致で昼食に。


 ……昼ご飯が終わったら、ちょっと昼寝しよう。そうしよう。

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