騒動のその後で sideフレイ
たまにはこういう視点でも。
王城警備隊第3隊隊長、フレイ・クルセイド視点となります。
普段はキリッとしてるのに、惚れてる相手の前だとポンコツになっちゃうのとか好きです。
めっちゃ好きです。
不思議な事もあったものだ。
というのも、だ。
あのクロウとかいう男と、相棒らしいシオンという女性が投獄されてから数日して、国王自らが、私達、王城警備隊第3隊のいるところに来たのだ。
「実は先日、とある冒険者に君達の事を聞いた。いわく、王城警備隊第3隊は役立たずだの穀潰しだのと呼ばれ、不当な扱いを受けている……と」
王は、私達のもとに来るなり、そう仰った。
とある冒険者。その言葉が誰を指しているのか、今となっては想像に難くない。
……クロウだ。
どういう経緯で国王に話を取り付けたのかはわからないが、そんな事を……そんなバカげた事を『言ってくれた』のは、他ならないあの男しかいない。
「すまなかった」
――心臓が飛び出るかと思った。
王が……我らがロイ国王が、役立たず部隊である私達に頭を下げたのだ。
「あ、頭を上げてください! 我々は確かに目立った功績はありませんし、訓練も他の騎士達のようには出来ていませんから、文字通り役立たずの部隊ですから!」
慌ててそう言ったが、頭を上げた王は『それは違うだろう』と仰った。
「そのドレスアーマーは――」
「はっ! 元は王国から支給された鎧であったのですが、件の冒険者に……その……改造されてしまい……」
「……そうか。やれやれ……私はあとどれほど彼らの世話になれば良いのやら……」
「は……? 陛下……?」
「いや、詮無い事だ。それより、その鎧にしてからはどうだ?」
「それが……以前よりも訓練効率が良く、どの隊員も十全に身体を動かせているように感じている、との事です」
「なるほど。……わかった。それは私の権限で、我が国の女性騎士の標準装備としよう」
王のその御言葉に、また驚く事になった。
本来ならば、王国支給のものを、勝手に改造どころか錬金術を用いて形を変えてしまったのだから、その分を賠償しなければならないはずだ。
だと言うのに、それを不問にするどころか、今着ているドレスアーマーを女性騎士の標準装備にするだなんて、普通は信じられない事だ。
クロウという男は、どれほど影響を与えれば気が済むのだろう。
そもそも……そもそもだ。
あんな男は、今まで私の周りにはいなかった。
私や他の隊員が抱く『騎士』への憧れを肯定し、不当な扱いを受けていると知れば怒り、そればかりか冒険者ならば実力を正当に評価してくれると誘ってくる。
そんな男、私は知らなかった。他の隊員に聞いても、知らないと言った。
騎士は男がなるもの。
そういう固定観念があったわけではないが、『そういうもの』だと思って生きてきた。
物語の騎士だって、実際にいる騎士だって、どちらにせよ男ばかりだ。
どこかの国の騎士団は女性ばかりだと風の噂に聞いた事もあるが、真偽は定かではない。
だからこそ騎士=男だと思って生きてきたし、しかしそれでも諦められずに騎士を目指した。
そんな『私達の世界』を破壊したあの男……いや、彼には、感謝しなければならない。
私達の有り様を、この在り方を認めてくれたのは彼だけなのだから。
「それから。近く、辺境に騎士を幾らか派遣する話が挙がっている」
「……騎士を、ですか?」
「うむ。というのも、辺境は人の数が少ない故に、強い魔物が出やすい地域なのだ。このアルトラで言えば、ソルダルやロクソールがそうだ」
「は……。しかし、その話を何故我々に?」
「本題はそこだ。実のところ、騎士を派遣して更なる戦力の向上を図ろうという話なのだが、場所が場所であるがゆえに、それなりに実力を有した騎士達でなければならないのだ」
ニヤリと悪戯小僧のように笑みを浮かべて、王は仰った。
「実は、クロウ殿とシオン殿は2人きりでフェンリルを2頭も討伐した猛者であるのだが、そのクロウ殿の目に留まった君達ならば問題はなかろうと思ったのだ」
「は……陛下? 今、なんと……?」
「クロウ殿の目に留まった君達ならば――」
「いえ、そこではなく」
「猛者であるのだが――」
「違います。もう少し前に」
「2人きりでフェンリルを2頭も討伐した――」
「…………はい?」
フェンリル?
フェンリルと言うと……輝く銀の体毛を持った、Sランク下位ほどの脅威度があるという、あのフェンリル……?
「いかにも。そして、そうした理由から、私は、君達をこそ行かせるべきだと考えている。それに何より、君達もクロウ殿の世話になったのだろう?」
「はい。……陛下は、彼らをどのように思っておられるのですか?」
「……ふむ。シオン殿は、良くも悪くもアルトラで生まれ育った者の気質があるように思う。が、クロウ殿は……どうだろうな」
「と、言いますと……?」
「うむ。クロウ殿は、己が敬意を払う相手を選んでいるように思う。……つまり、相手次第で態度を変える人間だと思っている」
「相手次第、ですか……」
「うむ。敬意を払うべきと断ずれば敬意を払い、そうでないならそうはしない。一見不遜に見える態度も、言葉も、あるいは他の誰かの為と思えば不思議もない」
「……彼は、陛下に何を?」
「……ふふ。我ながら恥ずかしい話なのだがな。私は彼に『お前は自分の膝元の世話も出来ないのか』と、言外に叱られてしまったのだ」
三度、心臓が飛び出るかと思った。
いやむしろ、私はここで死んでしまうのではないかとすら思えた。
彼が、陛下を叱った……?
それなら、不敬罪で処刑するべきではないのだろうか?
「確かに、法に当て嵌めればそうだろう。だが、私はそれよりも大切な事を教わった気がするのだよ。だからこそ、私は彼らを処刑はしない」
「法よりも大切な事、ですか」
「うむ。……おっと、あまり長居もしていられないな。王城警備隊第3隊。君達には近く、ソルダルへの出向を命じる命令が下されるだろう」
「はっ!」
「この国を更に磐石なものにするため。安心して次代に託せる国を作るため。君達も尽力して欲しい」
「謹んで拝命いたします」
「……いや、まだ命令ではない。飽くまで予定、なのだから」
再び悪戯小僧のように笑みを浮かべた王は、そのまま身を翻して王城の中に帰っていった。
◆
あれから数日が過ぎ、私達、王城警備隊第3隊はソルダルの地を踏みしめていた。
下された命令は、『辺境の地ソルダルにて、現地の冒険者と協力しつつ魔物を狩り、戦闘力の更なる向上を目指せ』というもの。
そして、さしあたり私達は、国王自らが事前に連絡を取った冒険者と会う事になっている。
つまり、その冒険者が私達の協力者というわけだ。
冒険者ギルドで話を聞いてみると、その協力者である冒険者は《黄昏の水面亭》という宿屋にいるらしかった。
「――すまない。少しいいだろうか?」
「ん? あんた、騎士さんかい? 珍しいね、ソルダルに騎士さんが来るなんて」
とりあえず、近くにいた従業員らしき紅髪の女の子に声をかける。
「うむ。とある命令を受けて来ているのだが、こちらに協力者がいると聞いて来たのだ」
「協力者……ああ! そっか、あんたがあいつらが言ってた人なんだね! わかった。呼んでくるから、ちょっと待っててくれよ」
「あ、ああ……」
紅髪の少女は階段を駆け上がり……しばらくして、2人の冒険者を連れてやってきた。
「いやー、助かったわジュリー。危うく寝るところだった」
「そんな事だろうと思ったよ。シオンは何してたのさ?」
「いや……言いくるめられたっていうか、流されたっていうか……」
「あんたって奴は……。あ、騎士さん。連れて来たよ。こいつらだろ、協力者ってのは」
しばらくぶりに見る顔だ。
最初に会った時は、なんて奴なんだと怒りに燃えていただろうか。
レンカから話を聞いて、私達の在り方を否定された気がして、それで、つい失礼な態度を取ってしまった。
しかし、それから詳しい話を聞いて、手合わせをして、鎧を改造されたりして。
そうしていたら、投獄されていて。
もしかすると私は、私達を思いやってくれた人にお礼すら言えずに終わってしまうのかと思って。
あれから、1日足りとも彼の事を考えなかった日はなかった。
訓練をしていても、何をしていても、何故か彼の顔が、姿が、頭から離れなくて。
もしかしたら今回の任務の協力者は彼かも知れないなんて口にして、隊員にからかわれたりもした。
このソルダルに来るまでの時間がもどかしくすらあった。
「よう、フレイ。しばらくぶりだな」
いつだったか、それは恋だと隊員に言われた。
言われて、そうなのかもと考えると、胸が苦しくて、切なくて、恥ずかしくてたまらなかった。
けれど、ここまで来て。しばらくぶりに、彼に私の名を呼ばれて、わかった事がある。
「――ああ、しばらくぶりだ。シオン殿も、壮健そうで何よりだ」
「そっちこそ。聞いてるぜ、第3隊の待遇が改善されたって」
「ああ。どこかの誰かが、余計な世話を焼いてくれたお蔭でな」
「よく言うぜ。元はと言えば、お前が対処を間違えたくせに」
「……まあ、それは反省している。ああ……それより、クロウ。もし会えたら、1つ言いたい事があったんだ」
「ん? 言いたい事? ……なんだ?」
「うん。……実はな。私は、ずっと君に会いたかったんだ」
「…………は?」
「……また強敵か」
「金髪はシオンだけで充分だ!」
私は、クルセイド侯爵家次女。
名前は、フレイ・クルセイド。
騎士に憧れ、騎士になり……そして今は、1人の男に惹かれる、普通の女の子でもある。
「フレイ! クロウはそう簡単に渡さないからな!」
「そうだ! クロウが欲しけりゃ、アタシとシオンを倒して行きな!」
「オレは誰かのものになった覚えはない……!」
……意外と、ライバルは手強いかも知れない。
頑張ろう。




