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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
32/73

お茶目か、あるいは


「随分と突っ掛かってたな」

「あん?」


 王城に着き、通された部屋でソファに腰を落ち着け、城内の少し重たい空気を取っ払うように背凭れに凭れると、シオンがそう口を開いた。

 話そうとしているのは、さっき、オレ達をここまで案内してくれていたレンカの、その話にたいするオレの反応の事だ。


 ま、確かに、初対面なのに口から出てくるのは、説教じみた、知った風な科白(せりふ)ばかりだったしな。


「……気に喰わないんだ」

「何が?」

「レンカ・ロスティも、軍部の人間も、男性騎士も」

「ふぅん……? それであんなに喰って掛かってたのか」

「シオンは、思わなかったか? 立場に甘んじてまで『騎士』に拘るレンカにも、その第3隊とやらを嘲笑ってる騎士連中も、その上の人間も。なんてイライラする奴らなんだ、って」

「……まあ、頑張ってる奴らを嗤うのは好きじゃないなあ」

「だろ? だからオレは、言い方はちょいとアレだったが、道は1つ示したと思うぜ。『騎士』にならなくても、物語の騎士になる方法をな」

「お人好しだよなぁ」

「……るせえ。にしても、遅いな。向こうが呼びつけたんだから、すぐに参上するのが筋ってもんだろ?」

「まあ、いいじゃねえか。どうせやる事なんかないし、ゆっくりしようぜ」


 シオンはそう言いながら、両手を頭の後ろで組んで天井を見つめる。

 確かに、焦ったところで向こうがいつ来るかなどわからないので、仕方なくオレも同じ姿勢を取る。


「……真似すんなよ」

「一緒がいいんだよ。……きっとな」

「……ちょいちょい照れさせるような事言うな、お前」

「惚れたか?」

「言ってろ」


 なんて事を言いながら、2人でからからと笑う。

 と、その笑い声を遮るように、部屋のドアが4回ノックされた。


「……来たかな?」

「どうだろうな。……入ってくれ!」


 ドアの向こうにも聞こえるような声で言うと、数瞬の沈黙の後にドアが開き、男が3人入ってきた。

 1人は、豪奢な衣服に身を包んだ70代かそこいらの白髪の老人。

 1人は、それよりはちょっと……いや、6割くらいは地味に見える40代~50代くらいの落ち着いた雰囲気の男性。

 最後の1人は、30代前半~半ばくらいの、フルプレートアーマーに身を包んだ騎士の男性。


 それらが部屋の中へと入ってきて、騎士はドアの前に、老人はオレ達の向かいのソファに腰を下ろし、落ち着いた雰囲気のオジサマはその斜め後ろに立った。


「……お初に御目にかかります。私は、ソルダルにて《黄昏の双刃》というパーティで活動しているクロウ。こちらはパートナーのシオンです」

「うむ。わしはこの国の王をしておる、ロイ・オルガスト・アルトラじゃ。よろしくのう、ソルダルの冒険者達よ」


 そう言って、目の前の老人は好好爺然とした笑みを浮かべた。

 シオンもそれに笑みで返したが、オレにはどうにも違和感が拭えないでいた。

 もちろん国王の顔なんか見た事はないし、確証なんてどこにもないんだが、しかしどうにも、頭の片隅の何かが、彼は国王ではないと告げる。


「後ろに控えておるのはわしの補佐、名をアルフレッドと言う。そっちにおる騎士は王城警備隊の総隊長シンク・レナードじゃ」

「……はあ、どうも」


 違和感が拭えないままに、軽く会釈をして紹介への返事とする。

 補佐……ねぇ。

 それにしては随分と……動きがぎこちないような。


「……それで。国王におかれましては、一体どのような考えで、我々のような田舎者を王城にまで招いたのでしょうか」

「うむ。そなたらは……まだDランク冒険者であった時分に、Sランクとも取れるフェンリルを2頭も討伐したと聞いておる。間違いはないか?」

「確と証し立てる事は出来ませんが、先日の依頼で討伐したフェンリルは、1頭をロクソール、1頭をソルダルのギルドで買い取って貰いました。であれば、我々の言葉よりも、ギルドからの報告を根拠とするのがよろしいでしょう」

「……そうか。うむ。それでな、この度そなたらを呼んだのはな、その腕を見込んでわしの近衛になってもらえんかと思ってのう」


 老人からその言葉が放たれた刹那、総隊長と紹介された騎士が僅かに金属音を響かせた。

 きっと、突拍子もない話に動揺したのだろう。

 隣のシオンも随分と驚いた顔をしているし、実はオレもちょっと驚いた。


 辺境の冒険者風情を近衛に?

 さすがにそれは冗談が過ぎるだろう。


「ふふ、冗談ではないぞ?」

「……しかし、そうなれば冒険者稼業は廃業しなければならないでしょう」

「ふむ。であるから、近衛という仕事を用意してあるのであろう?」

「ですが、我々は好きで冒険者をしているのです。急に近衛にならないかと誘われて、二つ返事で受けられるものではないでしょう」

「……ふむ」

「それに、王城警備隊にだって我々より腕の立つ人間はいるでしょうし、冒険者にも名実共にSランクの冒険者もいるはずです。なぜ、我々なのですか?」

「……………」

「明確な理由……。こちらを納得させられるだけの理由があるならば、説明を」

「理由か。……強いて言うならば、なんとなくじゃな。確かにそなたの言う通り、そなたらよりも強き者はいる。じゃが、何故じゃろうな。わしはそなたらが良いと思ったのじゃ。それでは駄目かな?」


 好好爺然とした笑みを浮かべたまま、老人は言う。

 駄目かどうかと言うならば――


「そりゃダメだろ。一国の王ともあろう人間が聞いて呆れる。まるでゴブリンのような思考回路。まったく恐れ入る」

「…………は?」

「…………え?」


 オレの言葉に、目の前の老人、隣のシオン、総隊長の騎士までもが呆気に取られていた。


「傭兵でも相手取ったつもりか、ロイ・オルガスト・アルトラ。金を積めば、立場を用意すれば、権利を掲げれば、まさか総て思い通りに事が運ぶなどと思っているんじゃなかろうな?」

「――き、貴様、国王に対してそのような……!」

「飼われるだけの犬は黙ってろ」


 オレを罰しようとした総隊長を睨み付けると、彼は気圧されたのか動きをピタリと止めて、少し後退った。


「それとも、己は今まで欲しいものは総て手に入れてきた、と。……そんな世迷い言をほざくつもりか?」

「クロウ、お前……! ……? お前……どこ、見てるんだ……?」

「どこ? オレが見ているのは、アルトラ王国の国王、ロイ・オルガスト・アルトラだ」

「いやでも……それは……」


 オレの視線の先にいる人物を見て、いよいよシオンは混乱して口を閉ざしてしまう。


 まあ、それはそうだろう。

 何せ、オレの両眼は目の前の老人ではなく、更にその後ろに立つ男を見ているのだから。


「王城警備隊第3隊を知っているか、ロイ国王。女性騎士ばかりを集めたその隊は、他の騎士達や街の人間からは『穀潰し部隊』と呼ばれているらしいぞ」

「……………」

「どうやら、戦争で目立った活躍もなく、ただ漫然と資源を消費するだけだから、そう呼ばれているんだってな? あんた、知ってたか?」

「……………」

「知らないよな。知ってれば改善されるはずだもんな。――女性にフルプレートアーマーを着せるなんてバカな事をしてるんだから」


 言葉を重ねるが、男の顔は、眼は、ピクリとも動かない。


「王城警備隊の総隊長殿は、それに関してはどう考えてるんだ? まさかとは思うが、お前が煽動してるわけじゃねえよな?」

「ば、バカを言うな! 私はそんな事はしてはいない!」

「ふぅん? ……ま、いいか。ところでシオン、この話受けるか? オレは嫌だけど」

「……嫌なのか?」

「そりゃ嫌だろ。自ら客を招いたくせに、その客を騙してんだぜ。いくら安定した収入が得られるからって、そんな主には仕えたくねえな。大体、稼ぎたいなら冒険者のが向いてるし、早くソルダルに帰りたい」

「お前それ、最後のだけマジの本音だろ……」

「……どうかな?」


 じっとりとした半目でこちらを見てくるシオン。

 いやまあ、一応全部本音だぜ? うん。


「ま、クロウがいないなら近衛なんかゴミと一緒だし、俺もいいかな。冒険者のが稼げるだろうし」

「だよなあ。……時間余ったし、適当に観光して帰るか」

「ジュリーに土産買ってってやらないと、怒られるぞ」

「あー……そうか。そうだな。という事でロイ国王、我々はこれで。たいへん興味をそそられる話ではありましたが、残念です」


 そう言ってシオンと2人立ち上がり、部屋のドアに向けて歩を進める。


「――待て」


 そのオレ達を、今まで1度たりとも響かなかった、初めて聞く声が呼び止めた。


「何故、私を王だと言う」

「気になりますか?」

「ああ、気になるな」

「……では、僭越ながら。まず、貴方は使用人であるにしては身のこなしが素人過ぎる。使用人は、いざとなれば主の身を守り、敵を撃退するだけの力量が求められる。貴方には、それがなかった」

「……そうか」

「それが1つ目。2つ目は、自己紹介。国王が自己紹介だけをするならともかく、使用人や護衛の紹介までするでしょうか? いや、あるいはする主もいるのでしょうが、1つ目と合わせて考えれば違和感しかない」

「……ふむ」

「そして最後。これは、動作や対応から推測したものではなく、貴方の失態(ミス)だが……オレが貴方をゴブリンのような思考回路と揶揄した時、明確な怒りと殺意が、一瞬だけこちらを向いた。それはそこの総隊長ではなく、間違いなく貴方から感じられたものだった」

「……………」

「一国の王が、阿呆な真似をしたものです。では、我々はこれにて」


 軽く頭を下げてから、心配そうな表情でこちらを振り返っているシオンの背中を押して、部屋からの退出を促す。

 すると、背後から、心底口惜しいといった様子で


「すまなかった。機会があれば、またいずれ」


 と聞こえてきた。


 ……ふむ。ゴブリンのような思考回路と言ったのは撤回するか。

 誰の入れ知恵かは知らないが、あの実直そうな国王だけなら、また会ってみるのもいいかもな。


 ……不敬罪で罰せられたりしないかな、オレ。

 うわ、なんか、今さら不安になってきた……!

 だ、大丈夫だよな? 元々悪いのはあちらさんだもんな。平気だよな。

 向こうが騙そうとしてきたから不遜な言葉遣いになったんだしな。……うん、よし、平気だな!

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