無詠唱魔法の教え子
ギルドマスターの部屋……もう面倒だから執務室でいいか。
執務室にランバートと一緒に上がると、ランバートはすぐに通信用魔導具を使って王城に連絡をとった。
「おっし。これで後は待ってりゃ迎えが来るぜ」
「世話になるな、グランドマスター」
「構わねえよ。ヴァイス先生んとこの秘蔵っ子だからな」
「グランドマスター。その『ヴァイス先生』って誰なんだ?」
大体の予想は出来る。
出来る……が、どうせならこの予想は外れていて欲しい。
いやほんとマジで。
「ヴァイス先生と言やあ、無詠唱魔法のヴァイスだよ。ほら、今はソルダルでギルドマスターやってる、あのヴァイスだ」
やっぱりかぁ……。
いや、なんか共通する点が多いなーって思ってたんだよ。まさか本当に本人だったとは……。
「先生ってのは、なんなんだ?」
「俺だけじゃねぇんだが、ヴァイス先生に無詠唱魔法を教わった奴らがいんのさ。まあ、結局誰も習得出来なかったがな」
「そうなのか」
「まあ、俺は元々魔法は得意じゃなかったんだが、魔法が得意な奴もダメだったからな。あれは多分、エルフみたいな長命の奴しか扱えねえんだろうよ」
「ふーん……?」
「へえ。でもクロウはよくやってるよな、詠唱なしで魔法使うの」
「なんだと……!?」
「……シオン、そこは黙っとくところだろ?」
「……そうなの?」
すっとぼけた顔でこちらを見つめるシオン。
ああ、いや、これはマジでわかってないヤツだ。
グランドマスターでも出来なかった事が冒険者になって数ヶ月の奴に出来るなんて、顰蹙買うわ。
「クロウ! お前、無詠唱魔法が使えるのか!」
「あー……まあ、うん、一応?」
「一応じゃないだろ。普段の戦闘の時なんか、詠唱が煩わしいって言って無詠唱ばっかじゃねえか」
「シオン……」
「なんだよ。間違った事は言ってないだろ?」
間違ってないけど!
でも今は間違ってない事が問題なの!
「お前……本当に無詠唱魔法が使えるのか……」
「いや、あの……うん、まあ、うん……」
「ヴァイス先生に教えて貰ったのか……?」
「山奥で師匠に教えて貰ったんだよな。……いや、教えて貰ったのは基本的な魔法だけだっけ」
その設定よく覚えてたなあ、シオン。
口から出任せのテキトーな設定なのに。オレも今の今まで忘れてたわ、HAHAHA。
まあ、ここまで来たらむしろ隠すのは悪手だし、大丈夫な部分まで公開するか。
「いやまあ、魔法や武器の扱いとか格闘術は師匠がいるんだが、無詠唱魔法は自前だ」
「ど……」
「ど?」
「どうやって、どうやって使えるようになったんだ! 教えてくれ! 頼む、この通りだ!」
がばっ、と勢いよく頭を下げるランバート。
そんなに無詠唱魔法が良いのか……魔法得意じゃないって言ったのに……。
「……まあ、教えるのはいいんだが」
「本当か!?」
今度は勢いよく顔を上げるランバート。
いや、そんな食い付かんでも……。
「でも、グランドマスターは魔法は得意じゃないんだろ? 無詠唱魔法なんか習得してどうしたいんだ?」
「……言っても、笑わないか?」
「……確約は出来ないな。余程滑稽な理由でもないなら別に笑わないと思うが」
「まあ、とりあえず言ってみてくれよ、グランドマスター」
「おう……。いや、実はよ、ヴァイス先生の門下は今でも交流があんだ。もう30年になるがな。ちょくちょく会ったりもしてるんだが……無詠唱魔法を習得したんだって、威張りてえんだ」
「なんだ、そんな事か」
「そ、そんな事?」
「そりゃ、『そんな事』だろ。新しい知識や技術をひけらかしたい、なんて、健全過ぎる欲望だしな。……それで、ヴァイスはどう教えてたんだ?」
ランバートの欲望は理解したが、無詠唱魔法を教えるにあたっては、前任者であるヴァイスが何をどう教えていたのかを知りたい。
場合によっては補足説明するだけで済むかも知れないしな。
「それがな……ヴァイス先生は、想像力が大事だって事くらいしか教えちゃくれなかったんだ」
「……………」
頭痛くなってきた……。
いくら面倒だからって、自分の教え子にする説明まで省きすぎだろう。
まあ、一応的外れではないだけ救いがあるのは確かだが、それにしたって説明しなさすぎだ。
「……わかった。じゃあまず、基本的なところから順を追って説明しよう」
「おう、頼む」
「グランドマスターは、どうして詠唱をする必要があるのか、って考えた事あるか?」
「……いや、ねえな」
「そうか。まず、この詠唱ってヤツは、想像を補う意味が強い」
「想像を……補う?」
魔法は、普通は詠唱をする。
では、例えば、槍の形をした炎とか、盾の形の水とか、そういうのはどうやってその形を成しているのかと言うと、魔法発動者の頭の中にあるイメージをそのまま投影しているのだ。
じゃあ、想像力が豊かなら、好きな形を作れるじゃん! なんて考えてしまうが、残念ながらそうではない。
いくらイメージを投影しているとは言え、無詠唱で魔法に好きな形を取らせるのは、相当な技術を要する。
だから、それで上手くいかない部分を補うために、詠唱をして、イメージをより現実に近付ける事で、魔法の発動を簡単なものにしているのである。
ちなみに、この説明は『今日から始める無詠唱魔法 ヴァイス・エルサーディア著』から引用したものである。
ソルダルの図書館で見つけた時は、そりゃあ驚いたもんだ。
「つまり、想像力と技術力さえしっかりしてりゃ、無詠唱魔法が使えるって事か?」
「理論上はそうだ。難しいのが難点だが」
「……どうすりゃいいんだ?」
「まずは、魔力を知覚するところからだな。魔力は自分が持ってるのとは別に、大気にも漂ってるんだ。まあ、大気中の魔力は今は関係ないが」
「魔力を知覚? 魔法使いなら、そんな事は朝飯前だろ?」
「ある程度実力のある魔法使いなら、確かにそうだろうな。ただ、オレが言ってるのは、肉眼で魔力を認識出来るか否かの話だ」
「肉眼で……? そんなの出来るのか?」
「出来る。人の持つ魔力には色があるから、それを見る事が出来るようになれば、第一段階はクリアだな」
「色か……」
「この色は、その人の適性も表す。例えば、火の魔法に適性があれば赤だし、雷に適性があればライムグリーンの色を帯びる」
「お、俺はどうなんだ?」
「それはグランドマスター自身が詳しいだろう。だが、魔力は……そうだな、赤と茶の色がある。火属性と地属性に適性アリだな」
ゆらゆらとオーラのように揺らめく魔力を見ながら言うと、ランバートは驚いたように目を見開いた。
どうやらアタリのようだ。
「で、問題はどうすれば魔力を肉眼で見れるようになるかって話だが……」
「あ、ああ、どうしたらいいんだ!?」
「まず、魔力を自由自在に動かせるようになる事だな。これは、魔力を動かすってのを意識してやってれば、そのうち出来るようになる」
「……どれくらいかかるんだ?」
どれくらい……?
うーん……まだ誰にも教えた事がないから、ちょっとわからないな……。
まあでも、3ヶ月もあれば魔法が苦手でも大丈夫だろ。たぶん。
「ま、3ヶ月くらい毎日続けてたら大丈夫なんじゃないっすかね」
「な、なんでそんな適当な感じなんだ……!」
「いやぁ、こんなの教えるの初めてだし、加減なんかよくわからんしなぁ……。まあ、続けてればそのうち出来る。うん、たぶん」
「クロウ……せめて断言してやれ……」
「いやまあ、そのうち出来るから、マジで。それが出来れば、自然と魔力を見る事も出来るようになってる」
「そ、そうか……」
「そうすると後は無詠唱魔法を使うだけなんだけど……まあ、これは魔力が見えるなら出来るはずだ。言うほど難しくないし」
「……コツみたいなのはないのか?」
「ないではないけど、グランドマスターはその前段階がまだだからな……。魔力が見えたら、ヴァイスを通じて連絡くれればまた教えるよ」
「そうか……。ま、やれない事は1つずつ潰していかねえとな」
うんうん、と頷くランバート。
ま、腐っても鯛っていうか、グランドマスターだし、そういうのはきっちり順序だててやるだろうな。
……待てよ?
無詠唱魔法を使う段になったらヴァイスに任せても……いや、最後まで面倒見よう。
そういや、迎えって誰が来るのかね。
王城勤めの騎士達かな?
あるいは……王様が直接来たりしてな!




