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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
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王都エクスアルマ


 ヴァイスの書いた書状を持ってソルダルを発ち早くも3日半が経過して、オレとシオンは王都エクスアルマにやってきていた。

 空を飛ぶ道中……道中? 道中、盗賊団を見掛けて壊滅させたり、魔物に襲われていた人を助けたりしたが、まあ、そんな事は些末な事だ。


 そんな事より王都だ王都。

 ソルダルより遥かに栄えてるなぁ。

 こんな事を言うとジュリアスに怒られそうだが、《黄昏の水面亭》より良い宿とかメシの美味いとこもあるんだろうなぁ……!


「……おい、シオン。口開いてるぞ」

「……………」

「おーい。シオンちゃーん、元気ー?」


 オレの隣でぽかんと口を開けて呆然としているシオンの顔の前で手を振ったり、頬を引っ張ったり、耳を触ったりしてみる。

 へんじがない ただのしかばね……ではないけど、まるでマネキンみたいだ。

 ……よく考えると、屍に話し掛けるって相当ヤバい人間だよなぁ。


「……ま、いっか。えっと、まずはギルドに顔を出せばいいんだったな」


 相棒の復活を早々に諦めて、ヴァイスから教えられた王都での手順を頭の中で繰り返す。

 まず、冒険者ギルド本部に行って、ヴァイスからの書状を見せてグランドマスターと顔合わせをする。

 そうするとグランドマスターから王城の方に連絡が行くから、適当に時間を潰して、王城から来るはずの迎えを待つ……と。


「よし、行くか。ほら、シオン。しっかり歩いてくれよ」

「――はっ! お、おい、クロウ! 王都だぞ、王都! 綺麗だな!」

「お前の方が綺麗だわ。それよりギルドに行くぞ。さっさと終わらせてソルダルに帰りたい」

「ふあぁっ!?」


 奇声をあげたシオンの手を取って、ヴァイスからあらかじめ聞いておいたギルド本部へと向かう。


 王都の門から入って、そこから伸びる大通りを歩く事30分。

 もしかしてそういう伝統でもあるのか、噴水広場の真ん前に、ギルド本部は構えられていた。


 早速ギルドの中に入ってみると、ドアから入ってすぐのところにカウンターがあり、受付嬢が1人いた。

 ギルドはソルダルやロクソールと変わらず、1階には酒場を内包している。


「冒険者ギルド本部へようこそ。ギルド本部は初めての方ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 立ち止まってギルド本部を眺めていると、すぐそばの受付嬢からそんな言葉が投げ掛けられた。

 おっと、用事を忘れちゃダメだな。


「ソルダルから召喚されて来た、《黄昏の双刃》のクロウとシオンだ。これはソルダルのギルドマスターヴァイスからの書状だ」


 簡単に自己紹介をして、ヴァイスから渡されていた書状を渡す。

 受付嬢は書状に眼を通すと


「し、少々お待ちください……っ!」


 と、何やら慌てた様子で、書状を持って2階へと続く階段に向かい、上がっていった。


「……ふむ。話が届いてなかったのかな?」


 受付嬢の様子から、なんとなくそんな空気を感じた。

 まあ、あるいはただ、こんなに早く来るとは思ってなかったとか、そんな感じかな?


「……な、なあ、クロウ?」

「あ? どうした、シオン」

「さっき……綺麗って言ったよな、俺の事?」

「まあな」

「ほ、ほんとか?」

「ああ、綺麗だぞ」


 髪がな。

 いやー、まさかアニメみたいな金糸の髪に巡り会えるとは思わなんだ。

 異世界ってやっぱすげぇわ。


「……なんか、噛み合ってないような?」

「はぁ? 何言ってんだお前。それより、多分今からグランドマスターに会う事になるから、ビシッとしとけ。おのぼりさんは一瞬で充分だ」

「仕方ないだろー? 王都なんて初めてなんだから」

「オレだってそうだよ」

「……その割には感動が薄いな?」

「別に憧れてはなかったしな。それに、オレは観光で来たかったんだ。こんな仕事で寄っただけみたいな状況は嫌だよ」

「まあ、それはわかるけどさ」


 出張じゃないんだから、仕事で寄っただけなんて状況は勘弁して欲しかった。

 企業勤めのリーマンじゃないんだから。


 もっとゆっくりしたいよなぁ……。

 ヴァイスはしばらく王都で過ごしても良いって言ってたが、そうじゃないんだよな。

 例えば、こう、何かお祭りがあるとか、そういうイベント事の時に来たかった。


 まあ、愚痴ったところで状況が変わるわけではないから、あんまり文句は言わずにおくけど。

 でも、ちょっと贅沢を言わせて貰えるなら、せっかくシオンみたいな美少女と一緒なんだから、観光デートみたいな感じで来たかった。

 元男で相棒だけど、一応美少女だし。


「……クロウ、なんか変なこと考えてないか?」

「いや? 気のせいじゃないか?」

「そうかぁ……?」

「お前ってさぁ……」

「なんだよ……?」

「……いや、やっぱいいわ」

「言えよ! 気になるだろ!」

「気にすんな」

「無理だろ!」


 まったく、妙なところで勘が働くな、こいつ。

 その勘をもっと、仕事に活かしてはくれないもんですかね。


「――おう、お前らか。ヴァイス先生の秘蔵っ子ってのは」

「あん?」


 きゃんきゃんと喧しいシオンを物理的に押さえていると、そんな風に声が掛けられた。

 振り向いてみれば、50代半ばに差し掛かるかどうかといった感じの、右目に眼帯をした男が受付嬢の後ろに続く形でやってきていた。


「秘蔵っ子かどうかは知らないが、オレ達が《黄昏の双刃》で間違いはない。オレはクロウ、こっちの金髪がシオンだ」

「おう。王都エクスアルマの冒険者ギルド本部までよく来たな。俺はランバート。グランドマスターをしてる」

「今回は世話になる」

「なぁに、元はと言やあ、こっちから呼んだんだ。応じてくれて感謝するぜ」


 良くも悪くも、豪快さが滲み出ているランバートは、そう言って右手を差し出してきた。

 それに応じてこちらも右手を差し出し、握手を交わすのだが……何故か握手をした途端、手をぎゅっと力を込めて握られた。

 ……なんだ?


「……っち。これくらいはワケねーって事か」


 何故力を込めて握られたのか考えて疑問符を浮かべていると、ランバートは少し悔しそうにして言った。


「今のは、なんだったんだ?」

「あ? あー、いや……ちっと脅してやろうと思ってやったんだが、無駄だったみたいだな」

「なるほど……。まあ、これでビビってたら冒険者なんかやれないしな」

「ハハッ、違いねえや! おし、とりあえず上行くか。王城に連絡もしなきゃならんしな」

「大変だな、グランドマスターは」

「ああ。代わって欲しいぜ」


 眉尻を下げて困ったような表情でランバートは言うが、どうも満更ではないようだ。

 偶に代わって欲しくなるけど、誇りある仕事として考えてる……ってところかな?

 羨ましいね、それは。


 ……さて。

 それはともかく、後は王城からの迎えを待つだけだな。

 このまま何もなく、平和に終われば良いなぁ。



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