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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
24/73

美人と喰うメシは美味い。美人とじゃなくても美味いもんは美味い


 上から降ってきた声に男Aの動きがピタリと止まる。……かと思えば、今度は肉眼で確認出来るくらいにガタガタブルブルと震えだした。

 な、なんだなんだ!?

 急に震え出したのもそうだが、マウント取られたままやられると余計に気味が悪いぞ!?


「……ねえ。何してるのって、訊いてるんだけど。どうして答えてくれないのかしら?」


 淡々とした、底冷えするような寒気をも感じそうな声が再び降ってくる。


「あ……いえ……あの……」

「なぁに? 早く答えて?」

「……ってました」

「聞こえないけど」

「……殴ってました」

「そう。でも、なんで? その子はソルダルから救援に来てくれた子で、あなたとは初対面のはずなのだけど」

「それは……」

「んー……でも、予想は出来るわね。大方、その子とシイナちゃんが仲良くしてたのが気に入らなかったんでしょう。まあ、とりあえずそこ退きなさいな」


 震える身体を両手で押さえつけながら、男Aがマウントポジションから退く。

 こいつら、ロクソールはそれなりに長いだろうから、それを考えるとカレンは逆らったらヤバい奴って事なんだろうな。

 いやぁ、おっかないなぁ……。


「ごめんなさいね、クロウちゃん。怪我してないかしら?」


 言いながら差し出されたカレンの手を取ると、その細身の身体からは想像出来ない力強さで引き上げられた。


「……ああ、平気だ。平気だから、そんなに身体を触らないでくれ」

「ダメよ。椅子やテーブルにぶつかったみたいだし、ちゃんと確認しなきゃ。……イイ身体ね。抱かれたくなっちゃう……」


 ぽつりと零れたその言葉に、背筋がゾクゾクする。

 せめて心の中に留めておいてくれよな……。


「も、もういいだろ。な? 別にどこも怪我してないからさ」

「……ん、そうみたいね。でも、どうして反撃しなかったの? アタシの見立てが正しいなら、こんなのすぐに倒せたわよね?」

「……まあ、一方的に殴られてんのと喧嘩とじゃ、騒ぎの度合いが違うからな。嵐は大人しくしてれば過ぎるもんさ」

「そうは言っても、クロウちゃんはロクソールの英雄みたいなものなんだから、殴られっぱなしじゃダメよ」

「気持ちはありがたいけど、何もしないってのは時として、何よりもの暴力になるもんだ。それより、もう出来たのか?」

「ふふふ。ええ。沢山作ったから、どうぞ食べてちょうだい」


 カレンのその言葉にシイナがいるテーブルを見てみると、周りのテーブルにあるのより倍は量がある料理の乗った皿がいくらか並んでいた。

 ガッツリ系って事で肉を使った料理が結構あって、大きめのパンとこれまた大きめのコップ、ナポリタンみたいに赤いスパゲティもあったりして、なるほど、確かにこれは良い。

 それに、どれもこれも美味そうだ。


「どう、食べられそう?」

「当然だろう。……しっかし、こう普段から大盛だと、大食いチャレンジみたいなのがあっても良いだろうにな……」

「……なぁに、それ?」

「喰い切れるか喰い切れないかギリギリの量のメニューを用意して、制限時間内に喰い切れるかどうかで、特典を用意したりするんだ」

「面白そうね。特典はなんでもいいのかしら?」

「まあ、その辺りは裁量次第だが、基本はそのメニューの代金を無料にするってとこだな。その代わり、喰い切れなかったら普通に代金を支払う。価格設定は、他のメニューより高めにしておくのがいいな。採算がとれる」

「なるほど……。ソルダルにはそういうのがあるの?」

「いや、ない。オレの頭の中に生まれた考えさ」

「じゃあ、アタシが第一号ね」

「そういう事になるな。……っと、流石に出来立てを喰わないのは失礼だな。喰っていいか?」

「ええ、どうぞ。この子達にはアタシからキツく言っておくから。ごめんなさいね」

「オレの方こそ、メシ屋だってのに埃立てて悪かったな」

「いいのよ。さっ、テーブルについて、早速食べてちょうだい」

「ああ、いただくよ」


 シイナのいるテーブルに戻って椅子に座り、合掌して『いただきます』を言ってから、木製のフォークを手に取って、早速ナポリタンチックなスパゲティから食べていく。

 スパゲティの具は、玉ねぎとベーコンと、ピーマンに似た野菜のパルカ。

 ていうか、これナポリタンだわ。甘辛いケチャップの味が懐かしさを呼んでる。


「美味いな……」

「そうだろう? やはりカレンさんの料理は美味しい。毎日でも食べたいくらいだ」


 いつの間にか復帰していつの間にか食べていたシイナが、料理に舌鼓を打ちながら言う。

 毎日……毎日か。

 流石に毎日これくらいの量だと食費が嵩みそうだけど、料理は美味いから、普通の量で毎日ならアリだな。

 でも、あのイケメンに作ってもらうってのは、ちょっと……こう、色々危ない気がするな。せっかくなら恋人か嫁さんに作って貰いたい。


「つーか、復帰したんだな」

「ああ。……すまなかった。我々ロクソールの冒険者は君に感謝しなければならない立場なのに、恩を仇で返すような真似を……」

「……まあ、気にするな。自分の憧れてる奴が、どこの誰とも知れない相手と仲良さそうにしてりゃ、そりゃあ面白くないだろうしな」

「そう言ってくれると気が楽だよ。……だが、反撃して良かったんだぞ? 何故しなかったんだ?」

「腹が減ってたから、動くのが億劫だったんだ。そういう事にしといてくれ」


 あの男Aを含めた3人は、大きく見積もってもDランク一歩手前くらいの実力。

 それに反撃しようなんて、弱いもの虐めが過ぎるってもんだ。


「ふふ……クロウは優しいな」

「そうでもないさ。……それより、あの時床に転がってた連中はどうだ? その後の経過って言うか、そういうのは」

「ああ……うん。クロウのお陰で、特に不自由なく動けているようだ。何から何までありがとう、クロウ」

「いいって。そもそもシオンがいなきゃ、今回の依頼を受ける事すら無かったんだ。礼なら未だに眠ってるあいつに言ってやってくれ」

「ふふ。ああ、そうしよう。ところで、シオンはどこか怪我をしていたりとかは無いのか?」

「あー……どうかな。あいつが今寝てんのは単なる徹夜のせいだろうけど……まあ、目立った怪我はなかったな」

「そうか。いや、フェンリルと……しかも2頭も戦わせてしまった手前、気になってしまってな」

「優しい事で。……まあでも、あんまり気にしなくていいぞ。どうせすぐに治るしな」

「ふふ。治らなければ冒険者はやれないからな?」

「そういう事だ」


 口角を吊り上げてにやりと笑い、料理をまた口に運ぶ。

 いやしかし、ほんと美味いな。

 ソルダルでもこれほど美味いのは……《黄昏の水面亭》以外だと、オレにはちょっとわかんねえな。レインとかジュリアスなら知ってるかな?


「……ふむ。それにしても、クロウは随分とシオンに遠慮がないな。長いのか?」

「いや、3ヶ月程度の付き合いだぞ」

「……? 思ったより短いな?」

「まあ、色々あるのさ。色々とな」

「なるほど……恋人か」

「違うわ。ただの相棒だよ」

「なんだ、隠す事はないだろう?」

「別に隠してはねえんだけどな……。シイナはそういうのは見つからなかったのか? 気の合う仲間というか……」

「ははは。いや、どうか笑ってやってくれ。私はどうも、この言葉遣いや振る舞いで一歩引かれてしまってな。気の合う人はいたが、仲間というわけにはいかなかったよ」

「ふぅん……? ロクソール(ここ)じゃ、そういうもんなのか」

「……というと?」

「ソルダルは特にそういうのは無いからな。良かったら遊びに来ると良い。場所が違えば心地も違うもんだぜ?」

「ふふ……機会があれば行こう」

「そうすると良い」


 くくく、ふふふ、と2人で笑い合う。

 うん、楽しいメシの時間だ。

 シイナをソルダルに誘ってはみたけど、オレやシオンがロクソールに住むんでもアリかなぁ。

 ……やっぱナシだな。

 またホロスリングなんかの説明をするのは、ちょっと面倒だし。


 今は美味い昼メシを楽しむか。

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