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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
21/73

《黄昏の双刃》、帰還


「ん……うぅ……?」


 瞼が開き、意識が徐々に覚醒していく。

 目の前にあったのは程好いサイズの2つの膨らみと、金髪の美少女の顔だった。

 まだ僅かに残る微睡みから抜け出す為に深呼吸を1つしてから、眼だけを動かして周りの状況を確認する。

 陽は高い。時間にして午前10時とか、多分それくらいだ。

 地面にはゴブリンやコボルトみたいな低ランクの魔物の死体が転がっている。きっと相棒の仕業だろう。……死体が妙に傷だらけなのが気になるが。


「……ふむ」


 周囲の確認を終えたら、身体の確認をする。

 まずは指から動かし、次に手や足首から先、そして腕や脚に力を込めて、特に問題なく動くと確認して起き上がる。


「よっ……と。身体は問題ないな、体力もそれなりに戻ってる。魔力は……ダメか。まあ、反動だし仕方ないかな」


 適当に魔法を使おうとして魔力を練ろうとしてみるが、その感覚がまったく無い。魔力自体は回復してるから、魔力が消え去ったわけではないみたいだ。


「シオン……は、随分お疲れみたいだな」


 振り返って相棒を改めて確認する。

 木に凭れるようにして眠るシオンの身体や鎧には所々汚れが付いていて、オレが眠っている間に寄ってくる魔物を片付けてくれていたんだと解った。


「……ありがとな、シオン」


 言いながら頭を撫で、そのまま頬に手を持っていく。

 眠るシオンの顔色は少し悪く、どうやら魔力があまり回復していないのが見て取れた。

 きっとこの分では眠り始めてからそう時間は経っておらず、もうしばらくは起きる事はないだろう。もちろん起こすつもりもないが。

 聖属性魔法でとりあえず回復させてやりたいが、魔法を使えない今はそれが出来ないのが本当に口惜しい。


「……まあ、来る時は魔法で来たから、帰りはゆっくり帰ろうか。なあ?」


 返事はない。まあ、当然だが。


「――よっこらせ」


 穏やかな寝息を立てて眠るシオンを背中におぶって、何度か上下して違和感のないように調整した後、街道のある方角に向かって歩き出す。

 シオンがいなかったら、間違いなく死んでたな。ほんと、感謝感謝だよ。


  ◆


 銀の大狼2頭と戦った場所から3時間ちょっとかけてロクソールに戻ると、早速シイナが出迎えてくれた。

 割と近場であるにも関わらずオレ達が戻らなかったから、Cランクである自分が救援に、とギルドを出ようとしたところで、職員や他の冒険者に引き留められていたらしい。

 ちなみに、その職員達や冒険者達は、オレとシオンの姿をみて、まるで幽霊でも見るかのような顔をしていた。

 まったく、失礼な。


「……しかし、驚いたな。五体満足で帰ってくるとは思わなかった。いや、死ぬとも思っていなかったが」

「まあ、戦闘中は怪我したそばから治したからな。厳密には五体満足とは言えねえよ」

「それでも、今、君達は無事だ。それで、討伐は出来たのか?」

「ああ。……ただな」

「……どうした?」


 あの事を言うべきか否か少し逡巡して、しかしやはり言っておいた方が良いだろうと結論付けて、口を開く。


「ロクソールで確認してた件の魔物は1頭だけだったんだよな?」

「ああ。それは間違いない。……それがどうかしたのか?」

「いや……うん。実は、例の魔物は2頭いたんだ」

「なんだと!? で、では、フェンリルを2頭相手にして、2人だけで五体満足で帰って来たと言うのか!?」


 そう言いながら、シイナは驚愕に眼を見開く。


「そういう事になるな」

「……すまない。私達がきちんと把握出来ていれば――」

「気にするなよ、シイナ。結局オレ達は無事だった……いや、まあ、うん、無事だったんだから」

「……実はどこか痛めているのか?」

「いやぁ、ただでさえ力の及ばない相手だったから、ちょっと身に余る力を使ってしまってな。反動で魔法がしばらく使えないくらいで、体力とか魔力は問題ない。身体ももちろん無事だ」

「本当か?」

「本当だ」

「……本当に、本当か?」

「本当に本当だ」

「本当の本当に――」

「シイナ。流石にくどいぞ」

「す、すまない……」


 段々眼がヤバい感じになっていたシイナを止める。

 まあ、信じ難いのはわかる。

 実際に戦ったオレですら、『あれは単なる夢だったんだぜ』って言われた方が腑に落ちる感じするし。

 なんだろうな、非現実感っての?

 いまいち実感湧かないんだよなぁ。


「それで、これからどうするんだ?」

「どうするって言うと……?」

「素材の売却とか、これからの予定だ。しばらくロクソールにいるのか?」

「……いや、シオンが起き次第ソルダルに帰るよ。あまり長居してもな。待ってる奴もいるだろうし」


 頭に浮かぶのは《黄昏の水面亭》の看板娘ことジュリアス。

 日帰りのつもりでいたから宿には何も話していない。だから多分……いや絶対に、帰ったらジュリアスに怒られるだろう。

 以前、一度怒らせてしまった時があったが、あの時は本当に酷かった……。だから、なるべく早く帰って赦しを乞いたい。


「そうか……。またロクソールに来る事があれば、何か手助けをさせて貰いたい」

「……良いのか? そんな仲じゃないはずだが」

「構わないさ。私が君を……君とシオンを気に入ったというだけの話だからな」

「まあ……それなら、断る理由はないか」

「ふふ。……それで、件の魔物はどうするんだ?」

「2頭分あるから、片方はここで買い取ってもらう。もう片方はソルダルだな」

「ほう? そのこころは?」

「今回は両ギルドマスターの連名での依頼だったからだな。まあ、代わりに報酬はたっぷり貰うけど」


 元々めちゃくちゃな依頼だったし、Sランク門番の魔物を2頭も相手にして、しかも討伐して帰って来たんだ。

 それに、制限を解放したとは言っても、頑張って首を落として、綺麗なままで斃したんだ。

 報酬はたっぷりと弾んで貰わないと、割に合わないってもんだろう。


 今に見てろ……ヴァイス、そしてオルガ。

 迷惑料やら何やら込み込みで、法外とも思える報酬を要求してやるからな……!


「ど、どうした……? 随分悪い顔をしているぞ?」

「……ハッ!? いや、うん、なんでもない。早速行こうと思うんだが、来るか?」

「ああ、是非同行させてもらおう」


 即答したシイナを連れて、早速ギルドの受付カウンターに。

 討伐証明部位を出せるかと訊かれたが、そもそも、どの部位がそうなのか知らなかったし、件の大狼のサイズが大きすぎると説明すると、それなら……と、ギルドが管理している倉庫に連れて来られた。

 この倉庫と同じものは、もちろんソルダルにもある。

 まあ、倉庫と言うか、解体所を内包した素材保管庫って感じだが。中には魔物の解体を専門にしているギルド職員がいて、手数料は買い取り額から差っ引かれるが、確かな腕前で解体してくれる。


「――お? どうした?」


 中に入ると、最初にこちらに気付いた若い男性職員がやってきた。


「実は、最近問題になっていた例の魔物の持ち込みという事で……」

「例の魔物って……かなりデカいっていう、狼の魔物か? そんなの、どこにいるんだ?」


 訝しむように表情を歪めて言う男性職員に、『それが……』と受付嬢がちらりとこちらに視線をやる。

 それに気付いた男性職員はその視線を追うようにこちらを見て、シイナの姿を認めて、にこやかに話し始めた。


「ああ、シイナさん! もしかしてシイナさんが?」


 若干喜色の入った声色で問い掛ける男性職員に少し苛立ちを覚えていると、シイナは苦笑して首を横に振った。


「えっ……。じゃあ、誰が……?」

「彼だよ。例の魔物を倒したのは、彼と彼の相棒だ」

「………見ない顔ですね?」

「それはそうだ。彼はソルダルの冒険者だからな」

「ソルダル!? まさか、例の魔物の素材を独占しようなんて――」

「ちょっと!」


 男性職員のかなり失礼な発言を受付嬢が遮る。

 うーむ……倉庫の職員にはあまり会った事はないが、大体こんな感じなんだろうか。

 自分のとこの冒険者に信用を置いているのはまだ良いが、それで他のギルドの冒険者を貶めるのはいただけないな。


「……すまないな、クロウ。決して君達を貶したいわけじゃないんだ」

「まあ……別に構わないんだけどな。ソルダルに持っていってもいいんだし」

「いや……うん。本当にすまない」

「シイナは謝る必要ないだろ。オレよりランクも高いんだし、簡単に頭下げるなよ」


 大体45度の角度で頭を下げたシイナに頭を上げるように言うと、おずおずと頭を上げて、しかしやはり申し訳なさそうな顔だった。


「……お前は?」

「初対面の相手に横柄過ぎるだろう、あんた。まあ、別に良いけど……。オレはソルダルの冒険者ギルド所属、《黄昏の双刃》のクロウだ」

「《黄昏の双刃》? お前が?」

「ま、証明は出来ないけどな。それで、解体はしてくれるのか?」

「はんっ。ブツがないんじゃやれないな」

「そうか……そうだな。ほら」


 確かに、物がないのでは仕方ない。

 男性職員の言葉に納得して、適当な空きスペースに、ホロスリングから銀の大狼の頭と身体を取り出す。


「これでいいか?」

「―――――」

「……? なあ、おい、どうなんだよ?」

「――あ、ああ……いいぞ」

「そうか。じゃあ、解体を頼む。出来れば今日中に済ませてくれるとありがたいな」

「……………」

「……なんだよ? オレの顔になんか付いてるか?」


 男性職員がこちらをじっと見つめてくるので、顔を両手で触って何か付いてないか確認する。

 んー……? 何も付いてないっぽいんだけどな?


「……お前、今、何した?」

「は? 見てなかったのか? そこに『例の魔物』とやらがいるだろ?」

「そうじゃない! それをどこから持ってきたんだ!」

「どこから……?」

「そうだ!」

「……どこからと訊かれると、ここから2時間半くらい行ったとこの森の中だけど」

「違う! どうやって運搬してきたんだって話だよ!」


 イライラしたように言う男性職員のその言葉に、ようやく得心がいった。

 なんだ、そんな事か。それならそうと言ってくれればいいのに。


「これだよ。この指輪。これに入れてきた」

「……は? お前、おちょくってんのか?」

「なんでおちょくる必要があるんだよ。本当なんだぞ? これはアイテムボックスだからな」

「「「アイテムボックス……!?」」」


 男性職員、受付嬢、そしてシイナの声が綺麗にハモる。

 あー……そういえば、アイテムボックスってヤツは、今の時代では失われた技術(ロストテクノロジー)なんだっけか。

 そりゃあ驚くよなぁ……。ソルダルじゃすっかりお馴染みだったから、忘れてたわ。


「まあ、そんな事はどうでも良い。解体は? してくれるのか?」

「あ、ああ……してやる」

「そうか。じゃあ、よろしく頼んだ。手数料は、その横柄な態度の慰謝料で相殺って事にしとくよ。傷付かなかったわけじゃないしな」

「……………」

「じゃ、あとはプロに任せるわ。故意に傷付けたり、量を誤魔化したりしないでくれよ。それと、肉は戻してくれ。喰ってみたいんだ」

「……わかった」

「よし。んじゃあ、行くかシイナ。……シイナ?」

「――え? あ、うん、そうだな。行こうか」


 未だにぽかんと口を開けて呆けている受付嬢と、複雑そうな表情の男性職員を置いて、シイナと2人で倉庫を後にする。


 フェンリル……フェンリルかぁ……。

 どれくらいの金になるかな? 白貨? それとも、紅貨までいくかな?

 しばらくぶりの大型収入になりそうだ。

 いやぁ、楽しみだなぁ……!

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