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神様からの注意は素直に聞こう


 天照サマからの手紙を元通りに折り畳んでポケットにしまってから、その場に座り込む。

 今、一番大切な事はと言えば……


「まずは、状況の確認からだな。ここは天照サマがオレを転生させた場所。街が近いという事は、街道からはそう遠くないと考えていい」


 まあ、万が一、もしかしたら、天照サマがミスしてる可能性もなきにしもあらずだが、それは問題ないだろ。あれでも日本の最高神だ。

 ……大丈夫だよな? 天照サマって割とうっかりさんだし、まさかって事ないよな?

 とりあえず、ないって事にしておこう。天照サマの神威の為にも。


「手紙に書いてた、このアイテムボックスを利用してみるか」


 えっと、指で触れるだけで良かったんだったよな……?


「うおっ……!?」


 左手で指輪に軽く触れると、半透明の何かのリストらしきものが目の前に現れた。

 感覚としては、アレだ、ホログラム。

 いや、映画館で観る3D映画に近いかもしれない。

 でもこれ、閉じる時はどうしたらいいんだ?


「……やっぱ抜けてるな、天照サマ」


 ちょっとお間抜けな太陽神に溜め息を吐きながら、とりあえず最初に思い付いた手段として、もう一度指輪に触れてみる。

 すると、ホログラムのように目の前にあったリストがパッと消えた。うん、どうやらこの方法で問題ないらしい。

 それから、念じる事でも問題なく機能するという事だったのでやってみたが、流石は神々謹製という事で問題なく機能した。


「えーと……出雲専用武器と、天駆狼のブーツ? それから、神々からの注意書きが1から3まであるな……」


 アイテムボックスのリストの中には、天照サマの手紙には無かったものが多数見受けられた。

 オレはゲームの取扱説明書は最初に熟読するタイプなので、まずは『神々からの注意書き』1から3までを取り出して読んでみる。


『神々からの注意書き、その1。

 まずは転生おめでとう。それから、私の妻が本当に申し訳ない。

 天照だけでは説明不足な部分があると思い、この注意書きを入れておく事にする。ちなみに、私から話すのは、リストにあるはずの天駆狼のブーツの事である。

 そのブーツは武器と同様に、君専用に(あつら)えたものだ。それを履いていると、50万キロくらいは疲れる事なく、歩いたり走ったりする事が出来る。無論、足の疲労だけでなく、身体と精神の疲労に対して効果があるものだ。

 それから、そのブーツを履いてジャンプすれば100メートルは跳べるし、空中を歩く事も可能だ。是非、活用して欲しい。

 あと、僅かばかりではあるが、身体能力の強化もしてくれる。

 新しい世界で戸惑う事もあるだろうが、君の前途が明るいものである事を祈っている』


 うっわ、イザナギからの手紙だ、コレ。

 ブーツの解説はありがたいけど……何? あいつ暇してんの? 娘に仕事を任せて自分は優雅に隠居生活ってか?


「……ま、でも、解説はありがたいな。うん。それは間違いない」


 ……あれ? この注意書き、二枚目があるぞ?


『神々からの注意書き、その1の2。

 忘れないうちに書いておくが、君の黒いマントは玉藻静石の力を全て注ぎ込んだ特製の外套である。名前は『黒天洞』と言う。

 神話に詳しい君なら玉藻静石がどういった代物かなど、言うに及ばずだろう。

 つまり、その外套は、身に付けているだけで君の生命力と魔力を永続的に回復させる。それに加え、外套そのものの防御力もかなりのものになる。

 熱や冷気への耐性に加え、斬撃や打撃、刺突によるダメージの無効化。ついでに、暑い場所では涼しく、寒い場所では暖かくなるようにしてある。

 外套自体はアイテムボックス同様に、盗まれたりなどしても一定時間で君の手元に戻ってくるように設計されている。武器やブーツも然りだ。

 長くはなったが、私からはこれだけだ。

 いつか会う機会があれば会いたいものだ。それではこれにて失礼する』


 ……なんてこったい。

 レベルは1からでオレTUEEEEの心配がないの? マジで? やった、それはそれで楽しい!

 とか思ってたらこれだよ。過保護すぎない?


「ま、まあ、貰えるものは貰う主義だし? 貰っておこう……かな」


 ええい、次だ! 誰からの手紙でもオレは絶対に驚いてやらないからな!


『神々からの注意書き、その2。

 我は天目一箇神(あめのまひとつのかみ)である。貴様に与えた武器について、説明をしておこう。

 武器、とは言うが、実際のところは刀である。

 貴様の魂のみに呼応する刀ゆえに、貴様以外には扱えぬ事を覚えておくがいい。

 肝心の性能だが、まず、あらゆる物質、非物質を斬り裂く事が可能な刀となっている。

 そして、貴様の意志により、その刀身を大きくするも小さくするも自由だ。だが、何事にも限界というものは存在する。下限は半尺、上限は八尺だ。状況に応じて使い分けると良い。

 更に、この刀……銘を『黒刀《鴉》』と言うが、貴様の身体能力を増強する効果を持つ。

 貴様はこれまで武器さえ扱った事がなかったはずだが、その新たな身体、新たな魂では、如何な武具も十全に扱えるはずだ。

 我の鍛えたその刀。貴様の身体の一部となりて、新たな人生を歩む貴様の助けとならん事を祈ろう。頑張るが良い』


 天目一箇神ってあれか、作品によっては天目一個とか呼ばれてる鍛冶の神様か!

 えぇ……なんか、逆に怖くなってきたんだけど。なんで? なんでなの? なんでそんなに過保護なの、神様達よ? オレ、ただの一般人よ? そこまでしてもらう義理なんて無いよ?


「……ま、まあ、考えても仕方ないか。神様の考える事なんて、俗人のオレにわかるはずもないしな。次いこう、次」


 流石にこれ以上はないだろうと思いながら、『神々からの注意書き、その3』を開く。


『神々からの注意書き、その3。

 初めまして、天鈿女命です』


 げえっ、日本初の路上ストリッパーだ!!

 ちくしょうめ……。もしかして、オレが路上ストリッパーとか言った事がバレたか……?


『今あなたは、きっと『げえっ、日本初の路上ストリッパーだ!』などと思っているのでしょう』


 うわっ、バレてる。なんで? もしかして予知でもした?


『ちなみに、別に予知でもなんでもなく、私に対する日本人のイメージってそうなのかな、と思って書いてみただけです』


 あ、そこは冷静なんですね。

 きちんと自己分析出来てるようで何よりです。


『これは私の勘ですが、恐らく、今までに刀や外套や靴、それに指輪の説明は既に受けていると思います』


 なんでそんなに鋭いんですかね……。

 流石は神の一柱。単なるドスケベ路上ストリッパーではないという事か。


『では、私が何を説明するのかと言うと、あなたの転生後の身体についてです。

 その身体は、毒の類は効かず、身体能力は達人さえも及ばず、あらゆる病に罹らない、そんな身体です。

 個人的には、ちょっと過保護すぎるのではないかと思いましたが、イザナミ様のしでかした事に比べれば軽いものです。普通、神の私情やうっかりで人間の命を消してしまうのは、赦されない事ですからね』


 ああ、なるほど。

 同じ神……しかもイザナギの妻であるイザナミが私情でオレを殺したから、その補填みたいな感じなのか。


『ただ、そんな身体であるとは言っても死ぬ時は死にますし、天照ちゃんも制限がかかると言ってましたから、気を付けてくださいね。

 最近の日本人の若者は『俺TUEEEE』に憧れると聞きましたが、そういうのは普通、鍛練や修練あってのものですので、身体がハイスペックだからと言って驕る事の無いように』


 あ、はい、それは重々……。


『さて、多少短くはありますが、私からはこれまでにします。

 こういうものでしか伝えられませんが、実は私もあなたの事は好きなのです。

 なので、頑張ってくださいね』


 ……ごめん、ごめんよ。路上ストリッパーだからって邪険にしててごめんよ……。

 オレも好きだよ、うん。苦手ではあるけど、それと好き嫌いは別問題だからね。


『P.S.ちなみに、何故この手紙の題名が神々からの注意書きなのかと言うと、心理的にその方が読んで貰えると思ったから、って天照ちゃんが言ってました』


 ちくしょう、あの太陽神め。人間を好きになっただけあって、人間心理をよく研究していやがる。


「……でも、これは収穫だったな。刀もマントもブーツも、初心者救済セットと思えば気が楽だしな。よっし、状況確認完了!」


 アイテムボックスからブーツと刀を取り出すと、どちらも黒色だった。


「これはアレだ、オレが前世で黒が大好きだったのがバレてるんだ」


 とりあえずブーツは履いて、刀は大太刀くらいに伸ばしてみる。

 注意書きに書いてあった書き方だと刀身しか伸びないみたいな書き方だったが、実際は鞘や柄などまで含めて大きくなるようだ。便利だなぁ。


「さて、そんじゃあ行くか。街道がどこにあるかはわからないが……まあ、適当に歩いてれば街道に出るだろ」


 根拠の無い自信を胸に歩き出す。

 なぁに、オレには神様の加護があるんだ。どうにかなるさ! ……多分、きっと、恐らく……。


 その後、オレがブーツの力で上空から街道を探せばいい事に気付いたのは、30分ほど森の中を宛もなく徘徊してからだった。

 ……文化人とは一体なんだったのか……。



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