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女になった相棒と行く異世界転生冒険譚  作者: 光月
女になった相棒と行く異世界転生冒険譚
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問題の全容


「さて……では、何から話そうか」


 ギルド職員に書類を渡してきたらしいシイナに連れられてやって来たギルドマスターの部屋で、応接用のソファにそれぞれ腰を下ろしてから、シイナはそう切り出した。


「こちらが把握しているのは、このロクソール周辺で魔物が強化されているという事案がある事と、その中に並の冒険者では太刀打ち出来ない存在がいるという事くらいだ」

「……なるほど。では、どんな魔物かはギルドマスターも把握していないのだな」

「ああ。……シイナ。あんたは、見たのか?」

「……ああ、見た。この眼で、しっかりとな」


 確かな声色で告げるシイナの眼には、見た時の事を思い出してか恐怖の色が僅かに宿っている。

 Cランク冒険者ですら恐怖を感じるレベルの魔物か……。流石にちょっと拙いかもな。

 腕1本? いや、最悪死ぬか。最低でも腕の1本や脚の1本は覚悟しておくべきかな。


「……どんな奴なんだ?」

「……シルバリオウルフは知っているか?」

「まあ、一応は。シオンはどうだ?」

「…………何それ」


 この3ヶ月、人が口を酸っぱくして『本読んで知識入れとけよ』と言い続けた結果がこれだ。

 もちろん、仕事の忙しさはあった。

 だが、シオンは図書館に行く代わりにギルドに行って依頼を受けてきたのである。

 相棒ながら、まったく嘆かわしい。


「……悪いな、シイナ」

「いや、謝らないで欲しい。中にはそういう人もいるだろう」

「本当にすまん……」

「え? なに? 俺が悪いの?」

「当たり前だ。人があれだけ本を読んで知識を頭に入れとけって言ったのに……!」

「いや、だって、クロウがいるから、いいかなぁって……」

「チッ……! 仕方ないから、人の言う事を聞かなかったお前に、相棒であるオレが、シルバリオウルフの解説をしてやろう」

「お願いします」

「いいか、シルバリオウルフってのはな――」


 シルバリオウルフとは、討伐難易度Cランクの銀毛の狼の魔物の事だ。

 常に10匹前後の群れで活動し、Cランクになってしばらくしてからでないと、討伐するのは賢くないと言われている。まあ、先日、それを知らないシオンが依頼を受けてきて討伐しに行ったのだが。

 生態はとにかく狼そのもの。群れで活動するのもそうだが、一度獲物を定めると3日3晩は追いかけてくるし、狩りのやり方が実に狡猾らしい。

 討伐難易度はCランクに設定されているが、冒険者界隈では『ランク詐欺だ』と専らの評判である。


「……と、こういう魔物なわけだ。思い出したか? そして、記憶したか?」

「大丈夫」

「1週間経って忘れてたら殴るからな」

「覚えとく、うん、大丈夫、きっと大丈夫」

「……まあいい。それで? シルバリオウルフがどうかしたのか?」

「うむ……。実は、私が見たのは、そのシルバリオウルフを3倍くらいに大きくした魔物だったんだ。毛は銀で、妙にキラキラと光っていたな」

「……なんだと?」


 シイナの言葉を基にして、脳内知識に検索をかける。

 シルバリオウルフの3倍前後の体躯を持ち、Cランク冒険者さえも恐怖を抱き、体毛がキラキラと輝く、銀色の魔物。

 それは、すなわち――。


「――フェンリル」

「……なに?」

「討伐難易度はAとSの丁度中間。シルバリオウルフの3倍ほどの体躯を持ち、キラキラ輝く体毛の銀色の魔物は、それしかない」

「それは……本当なのか?」

「それはわからない。オレが持ってるのは知識だけで、実際に見たわけでも、シイナの見た魔物を確認したわけでもないしな。……だが、本当にフェンリルだった場合、普通の冒険者じゃ死にに行くのと同じだ」

「では……」

「下で転がってる木っ端冒険者共は生きている事が奇跡だ。普通は死ぬし、仮に生きていたとしても逃れられない」

「……よく、よく生きていたものだな……」

「まったくだ。……ともあれ、これで大体の予想はついたな」

「予想だと? 魔物が強化されている事か?」

「そうだ」


 心底不思議そうな顔をするシイナに、頷きで返す。

 フェンリルと思しき魔物の出現、周辺の魔物の強化……となれば、考えられるのは1つしかない。

 少なくともオレの頭では、だが。


「魔物ってのは、野生動物と同じだ。その話はお前にもしたよな、シオン」

「それは覚えてる。普通の動物みたいに縄張りがあって、そこに入ってきた他の魔物を殺して喰うって話だよな」

「……よく覚えてたな、お前」


 ちょっと意外だ。

 こういう事こそ、シオンは知らない、あるいは覚えてないはずなんだが。


「それで、それがどうしたんだ?」

「うん。シイナはオレ達のレベルってヤツがどうやって上がってるか、知ってるか?」

「……いや」

「実は、魔物は死ぬ時に、魔王級の魔法使いでも感知出来ない特殊な魔力を放出するらしい。で、この特殊な魔力が体内の魔力と結合して自分のものになる事を、『経験値を溜める』と言う。この経験値が一定の値を超えれば、そこでレベルが1つ上がる。……と、そういう事になっているらしい」

「らしい、とは……?」

「随分昔に、そういう研究をした学者がいたそうだ。レベルとは何か。どうやって上がるのか。それを、その学者は研究していたらしい」

「なるほど。それで、それが今の話と……いや、まさか……!?」

「そのまさか、なのかも知れないな。ロクソール周辺の魔物は、フェンリルの腹を満たすには足りなかった。だが、自分が縄張りを荒らしたとは言っても、降りかかる火の粉は払わなくちゃいけないわけで……」

「フェンリルの攻撃で弱った魔物を、別の魔物が喰らってレベルが上がった……?」

「そう考えるのが自然だと思う。魔物ってのは、いくら冒険者でも驚異には違いない。一般人や学者みたいな、戦う力を持たない奴なら余計にだ。だからこそ、人為的なものだとは考えにくい」


 まあ、もしかしたら、万が一、そういう事もあり得るのかも知れないけど、現実的じゃない。

 魔物がレベルアップしてるって方が現実的じゃないか。ローグライクゲームじゃねえんだしな。

 でも他に思いつかないんだよなぁ……。


「う、む……。私もそれを否定出来るだけの材料を持ち合わせてはいないからなんとも言えないが、しかし、突飛過ぎるのではないか?」

「まあ、実際のところはオレにもわからんさ。ただ1つ言えるのは……」

「言えるのは?」

「……魔物達の世界は、どうしようもなく弱肉強食。実力至上主義な世界だって事だ」


 弱きは悪で、強きが正義。

 本能で生きる生き物達の常識がそれだ。

 一見弱そうに見えても、妙な能力を持ってたりするから侮れない。

 動物や魔物というヤツは、つまりそういう存在なわけだ。

 まあ、食物連鎖の頂点には勝てないだろうが。


「……ともあれ、大体の対策は出来そうだな。良かったな、シオン。高く売れるぞ」

「ああ。……今、宿代っていくらだっけ?」

「まだ言ってんのか、お前。ちょっと実入りが良い話になると、すぐ宿代の話すんのやめろよ」

「ご、ごめん。ちょっと混乱しちゃってさ……」

「宿代? シオンはクロウに宿代を借りている身なのか?」

「昔……って言っても3ヶ月前の話だけどな。オレ達はパーティだから、まとめてオレが支払ったってだけの事だ」

「ああ、そういう事か。だが、それなら何故貸し借りの話に?」

「真面目ちゃんなんだよ、こいつは。今まで何度『気にするな』って言ったか……」

「ふふ……いいパーティだな」

「シイナはパーティは……?」

「たまに誰かのパーティに入る事はあるが、基本はソロだ。あまり、気の合う人間がいなくてな。パーティを組まずにいたら、ずるずるとCランクだ」


 ふふ、と苦笑しながら言うシイナは、しかしどこか寂しそうに見えた。


「まあ、色々試してみればいいんじゃないか。見た感じオレ達とそう歳も変わらんだろうし、たまにパーティ組んで、気の合う人間を探すのもいいだろうさ」

「……ああ、そうしてみるよ」

「ああ。……さて、行くかシオン。とりあえず準備しよう」

「だな。何が要る?」

「んー……パッと思い付くのはないな。店で見ながら考えようぜ」

「そうすっか。じゃあ、シイナ。また」

「行ってくるよ」

「あ、ああ……。えっと、まさかとは思うが、斃すつもりなのか?」

「そりゃあ斃すだろう」


 そもそも今回の依頼は、ロクソール周辺の魔物強化現象とCランク冒険者でも手が出せなかった魔物の調査と、その解決だ。

 調査の方は問題ないとして、解決しようと思ったらフェンリルと思しき『魔物X』とでも呼ぶべき魔物を斃すしかない。

 依頼を達成すれば報酬は美味しいし、斃した魔物の素材を売ればもっと美味しい。

 こんなの、解決しないなんて選択があるだろうか。いや、無い。


「まあ、シイナはロクソールでのんびり待っててくれ。なかなか難しい戦いになりそうだし、今日中には帰って来れないかも知れないしな」

「いや、それは……」

「というわけで行ってくる。下に転がってる冒険者は行き掛けに治癒しとくから、後で確認してくれ。じゃあな」

「…………は?」


 呆然とした表情のシイナを1人置いて、シオンと2人、ギルドマスターの部屋を退室する。

 さて……フェンリルが出るか、他の何かが出るか。

 楽しみではあるが、ちょっと怖いな。

 あんまり大きい怪我はしたくないが、一応覚悟はしておこう。

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