97話 成績と差
「また、住みたい住宅が他の人間と被った場合は入学試験の成績が良い方が優先される。以上で住宅の説明は終わりだ。何か質問はあるか?」
うーむ……他に聞きたいこと、ねぇ。何かあるかな……あ、あるわ。
「先生、質問いいですか?」
「なんだ、ライン。言ってみろ」
再び僕が手を上げるとブレソウル先生含め、この教室にいる全ての人間の視線が僕に集まる。まぁ、だからといってどうということはないが。
「何時までに住宅を決めれば良いんでしょうか?」
そう僕が質問するとクラスメイト達の視線が一斉にブレソウル先生に向いた。するとブレソウル先生は僅かに口角を上げて僕の質問に答えてくれた。
「良い質問だな、ライン。住宅の受付期間は今日から三日間に渡り行われる。そしてそれは早い者勝ちだ。さっき言った住みたい住宅が他の人間と被ったら、という話しは、同じ日に受け付けた住宅が被った場合のことを指す。気をつけろよ。他には質問はあるか?」
僕の質問に答えたブレソウル先生は再び生徒達にそう問いかけるも、僕を含め質問した生徒はゼロだった。
「ならこれで住宅に関しての説明を終える。今日のところはこれで全ての説明を終えたわけだが、何か質問はあるか?」
うーん。特にこれといって今聞きたい質問はないなぁ。強いて言えば入学試験の時に得た魔物の素材と魔晶石についてだけど、それは迷宮探索権を得た後でいいし……。
「はい」
するとジョゼット君が手を挙げた。お、黄金マント君は何を質問するのかな?
それは他の皆も同じ気持ちだったのだろう。一斉に皆の視線が黄金マント君に集まった。
しかしそこは第一王子。そんな目など気にすることなくハキハキと先生に質問をぶつける。
「入学試験の詳しい成績を見せてもらうことはできますか?」
ほう。その質問内容から察するに入学試験で間違えた問題のやり直しをしたいというわけですな? やはりこのクラスの生徒は皆勤勉なようだ。……僕以外は。
「あぁできるぞ。試験の結果は持ってきているからな。ちなみにこれもゴールドクラスだからこそできることだ。そこのところは忘れるなよ。[ストレージ]」
ブレソウル先生はそう言って[ストレージ]から何枚かの紙が纏められた束を取り出し、黄金マント君に渡した。あれが入学試験の成績が書いてある紙なのか。
すると黄金マント君はそれをチラリと一瞥した後、先生に向かってさらなる要求をした。
「では、ライン君とネイさんの分の成績も見せていたたげませんか?」
「「はぃ!?」」
黄金マント君のその言葉に思わず僕とネイは声が出てしまった。
瞬間、クラス中の視線が僕達に集まる。
そして次の瞬間には全てのクラスメイトが先生に目を向け、次々に手を挙げた。
「僕も見せて下さい!」
「私も!」
えぇ……。皆そこまで僕らの成績が見たいの? あんまり見せたく無いんだけどなぁ……。
そんなことを思っているとブレソウル先生が見せても良いか、と聞いてきた。流石に個人の成績を勝手に閲覧することはゴールドクラスでもダメみたいだ。
だけど皆が僕らの成績を見たいと言っている前で流石にノーと言える勇気はない。
僕らはその先生の質問に渋々とだが頷いた。
「ラインとネイも自分の成績を見るか?」
ブレソウル先生が僕達の成績が載っているであろう紙の束を黄金マント君に手渡しながらそう聞いてきた。まぁ、一応気になるっちゃ気になるので頷いておく。
「な!?」
すると黄金マント君が驚くような声をあげた。そこで再びクラス中の視線が集中する。だが黄金マント君はそんなことを気に止めることなく僕らの成績を凝視している。
あんまりジックリと見ないで欲しいんだけど……。
「ジョゼット、満足したら次の奴に回せ」
「……はい」
僕らを除く八人の生徒全てにその生徒の成績表を配り終えた先生。
その先生にそう言われた黄金マント君は、何やら顔を俯かせて、隣に座っているフレンダさんにその紙を回した。
「まぁ!?」
するとフレンダさんもまた、それを見て黄金マント君と同じような驚きの声をあげた。……そんなに驚くようなものなのか?
そうして僕らの成績をクラスメイト全員が見終わった時、その紙の束が僕とネイの前に回ってきた。ちなみに反応の大小はあったものの、全員が驚いていたので、自分でもどんな成績か気になっていたりする。
それはネイも同様なのか、僕がネイと僕の机の間にその紙の束を置くと、彼女は前屈みになり、覗き込むようにしてそれを見る。
「え!?」
いや、ネイも驚くの? 自分の成績だよ?
そんなことを思いながら僕も自分達の成績を見た。
「はぁ!?」
いや、これは驚くわ。
だって僕とネイの成績は五点差だったのだから。あっぶな。七歳の女の子にここまで追い詰められるとはさすがに予想していなかった。
……この成績を見てしまうとネイがどれだけ天才なのかが改めて分かるな。
これはのんびりと学園生活を送るというプランが無くなったかもしれない。これからは自重無しで全力で学園生活を送るとしよう。
そう心に決めて僕はこの紙の束を先生に返した。
「皆もラインとネイの成績を見たからこの二人の実力がどれだけあるのか理解したと思うが、入学試験でここまでの成績を叩き出すことができる生徒はまずいない。だからこの二人から学べることは全て学んでおくことだ」
そう言ってブレソウル先生は僕とネイの入学試験の成績を[ストレージ]にしまった。そして他に質問が無いことを確かめると締めの言葉に入る。
「以上で今日は解散だ。なるべく早い内に住居を決めておくように。それとラインとネイは後で職員室に来い。話がある」
えぇ……。入学式当日に先生に呼び出しを喰らうなんて幸先悪いな……。僕ら何も悪いことしてないぞ……。
そう思いつつ僕らが返事をすると、ブレソウル先生は教室から出て行った。
「はぁ……。ネイ、職員室に行こうか」
「うん」
ネイと二人で職員室に向かうために教室の扉を開けてそこから出る……直前に、僕の肩にポンと誰かの手が置かれた。
「ちょっと待て」
手が置かれたと同時にそんな声が後ろから聞こえてきたので僕とネイが揃って後ろを振り返ると、そこには黄金マント君やフレンダさんを含む全てのクラスメイトが、少し遠巻きにだが立っていた。
「……何?」
八対の目が僕らを捉える。その中には当然黄金マント王子だけでなく大貴族の子供もいる。それらの視線を受けたネイが少し怯えた様子を見せたので、視線をネイから僕に集まるように一歩前へ出てネイを僕の陰に隠す。
僕がそうすることによって、自然と僕と黄金マント君が正面から対峙するような形になった。すると黄金マント君が口を開いた。
「……あるんだ?」
「……なんて?」
前半部分がやや小声だったので最後の部分しか聞き取れなかった。なのでそう聞き返すと、黄金マント君はキッとこちらを睨みつけ、半ば叫ぶようにこう言ってきた。
「どうして三位の俺とおまえ達の成績が三倍以上もの差があるんだと聞いているんだ!」




