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80話 固有魔法とオレンジ色

 何故ギルドマスターに魔人モードの僕のことがバレている? 昨日は声も姿も完璧に変えていた。だから絶対にバレないと確信したうえであんな行動をとったのだ。

 にも関わらずギルドマスターは僕のことを見破っている。嘘をついている様子もかまをかけている様子もない。これは確信している顔だ。

 だけどここはとぼけるしか僕には選択肢がない。




「何の事でしょう?」




 サラッと自然な風を装ってそう答える。

 完璧だ。




「……坊主、嘘つくの下手くそすぎだろ」




 な、何故ばれた!?




「いや、そんな何故ばれた!? って顔をしなくても分かりやすすぎるんだよ」




 心の内を読まれた!?

 



「……坊主は交渉事とかそういうのに向いてないタイプだな」




「ギルドマスターと同じですね」




「やかましいわ」




 ギルドマスターとミアさんが何やら話しているが今の僕には全く頭に入ってこない。僕の頭の中はなぜバレたのか、その原因を必死になって探すことでいっぱいなのである。

 するとギルドマスターが僕の注意を引くような声色で再び声をかけてきた。




「あー、まぁ、簡単に説明するとだな。坊主の顔が分かりやすいってのもあるが、一つはさっきのやりとりだ」




「さっきのやりとり、ですか?」




 さっきのやりとりとはあの気配を察知することだろう。

 そう感づいた時僕は一番初めにミアさんの首を狙った攻撃のことを思い出した。




「そうだ! ギルドマスター、さっきのミアさんの首を狙った攻撃はどういうことですか! 僕があの時気づいていなければ、ミアさんは今頃死んでいますよ!」




 フツフツと再び怒りが腹の底から沸いてきて、それがエネルギーとなり僕の声のボリュームを上げる。

 するとギルドマスターは何やら頷き、ミアさんは驚き目を見張っている。

 そのミアさんの様子から僕は確信する。やっぱりミアさんはあの気配が分からなかったんだ、と。

 それはつまり、僕があの時、ギルドマスターが剣を振るう気配に気付かなければ本当にミアさんが死んでいたことを意味する。

 そのことについて僕が憤っていると、ギルドマスターはとんでもないことをしてきた。




「それはな、こういうことだ」




 ギルドマスターがそう言った直後、ギルドマスターと僕、そしてミアさん以外の気配がギルドマスターの横に現れた。だが、それは気配だけでそこには何もいない。確かに呼吸音や服の布が擦り切れる音が聞こえるのに、そこには誰もいないのだ。まるで幽霊が目の前にいるのかと錯覚してしまう。

 するとその気配が動いたのが分かった。

 同時に何かを虚空に向かって何度も振るう音も聞こえてきた。




「……え? え?」




 視覚からの情報と他の感覚からの情報の齟齬に頭が混乱する。

 するとミアさんが横から説明をしてくれた。




「これはギルドマスターの固有魔法である[ノーティン]です。ギルドマスター曰わく気配だけを出現させる魔法らしいですよ」




「固有魔法……」




 固有魔法という言葉を聞き、半ば反射的に集中力をかき集めて、ギルドマスターの魔力の流れを感じる。




「おい、坊主?」




「……はい」




 ……なるほど。ただ単に人の形の魔力を作り出すのではなくて、要所要所に魔力隠蔽を施しながら人形を動かすような感じか。

 で、足音や呼吸音を鳴らす際はそこに魔力を集めて擬似的に気配を作っている、というわけか。




「……昨日の魔人はどうした?」




「……倒しましたよ」




 剣を鞘から出す音や振るう際に発する僅かな音までも再現しているのか……。これは相当魔力操作の技量が高くないとできない芸当だな。こんな大柄なギルドマスターには似合わない固有魔法……って、あぁ!?




「僕今なんか言いました!?」




 数秒程遅れて自分が発した言葉を理解し、無理矢理無かったことにしようとするも、時すでに遅し。ギルドマスターとミアさんは揃って同じような顔をしている。




「……ちょろいな」




「……そうですね」




 もはや言い逃れなどできないと観念する……。

 ……いや、こうなったらもういっそ開き直って何故バレたのか聞いてみよう。それでこの二人に口止めすれば……うん。そうしよう。




「坊主の顔に全て書いてあるから話すが……そうだな、もういっそ最初から全て話すか。坊主が昨日の……あー、隻眼の魔人とでも仮称しておくか」




 どうやらギルドマスターは本当に僕の顔を見て僕の心の内を悟ったらしい。このあたりは流石ギルドマスターと言うべきか。……絶対僕が分かりやすい顔をしているとかではない、はず。

 しかし隻眼の魔人、か。魔人モードよりも格好いいな。今度から僕も魔人モードの事を隻眼の魔人と呼ぼう。

 そう思っているとギルドマスターは続きを口にした。




「その隻眼の魔人だと分かったのは、まず一つ目に坊主の並外れた魔力量だ」




「……僕の魔力量、ですか?」




 はて、ギルドマスターの前で魔力量を喋ったりしただろうか?

 ……いや、してないな。というよりネイと宿にいるとき以外そういう話しはしてなかったはずだ。

 そうやって過去を思い返しているとギルドマスターは呆れたように口を開いた。




「覚えてねぇのか……。俺と坊主が初めて合った時、坊主は魔力隠蔽をして体全身から尋常じゃない量の魔力を垂れ流していただろうが」




「……え? それほど魔力を垂れ流したつもりはないんですが……」




 この人と初めてあった時のことは覚えている。僕とネイが初めて冒険者ギルドにやってきた時、僕に向かって魔法を使うなと注意してきた男。それがこのギルドマスターだ。

 だが実際にあの時垂れ流した魔力は、僕の総魔力量を百としても五といったところだ。尋常じゃない量と言われてもピンとこない。

 するとギルドマスターがひとつため息をついた。




「坊主、お前さんスライム紙で魔力量を測ったことくらいあるよな?」




「え、それはもちろんありますけど……」




 急な話題転換にその意図が掴めず、頭がついていかなくなる。

 それで僕が少し混乱状態に陥っているとその隙を突くようにギルドマスターは衝撃的な発言をした。




「坊主の魔力量、オレンジだろ」




「「え!?」」




 言い当てられて驚く僕と、何故か驚くミアさん。

 するとミアさんが僕達の会話に割り込むように言葉を発した。




「ちょ、ちょっと待ってください! ラインさんの魔力量がオレンジって本当ですか!?」




「そ、そうですけど……」




 ミアさんが目を見開き、勢い良くそう言ってくるのを半ば引きつつそう答える。

 いったいミアさんは何に対してそんな驚いているんだ? 魔力量がオレンジ色なんてサーシャやアンナでも一緒なのに。それこそネイだってだいぶ赤寄りだが、見方によってはオレンジ色だ。




「坊主が分かってねぇようだから教えてやる。まず坊主の年で魔力量がオレンジなんてのは異常だ。だからミアがこれだけ驚くのも無理はねぇ」




 ……そうだったのか。

 でもネイも同じオレンジ色なんですけど……という言葉は飲み込んでおく。プライバシー大事。




「それでスライム紙の話しに戻るが、スライム紙の最上級の色、白色とその一つ手前の赤の間には絶対に越えられない壁ってやつがある」




「絶対に越えられない壁……?」

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