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38話 盗賊と少女

「おいおい! 何一つ持ってないくせして、ゴブリンとしか戦ったことがないだぁ? 笑わせんのも大概にしろよ!」




 大男がそう叫んでくる。

 そういえば今の僕は、荷物を何一つ持っていないんだった。飛ぶ前に全ての持ち物を[ストレージ]入れてたのを忘れてたよ。

 ……けど、まぁ大丈夫か。見た感じこの男たちはアンナとサーシャより強く無さそうだし。それでも油断はしないが。




「ほら行くぞ! 死ねぇ!」




 すると大男がご丁寧に叫びながら剣を大きく振りかぶり、切り込んで来た。

 そんな隙だらけの攻撃が僕に当たると思っているのだろうか。

 だとしたら、甘すぎる。

 右半身をずらして、大男が振り下ろしてきた剣を避ける。

 ヒュッという風切り音を鳴らしながら大男の剣が僕の目の前を通過した。

 遅いな。

 アンナだったら今の瞬間だけで後三発は攻撃してくる。




「ちっ」




 剣はそのまま慣性に従い地面に突き刺さるかと思ったが、大男はそれを途中で無理矢理止めた。

 そして舌打ちをしながらもすぐさま次の攻撃を仕掛けてくる。

 剣を少し回し、刃を僕の方に向け、そして横に凪払ったのだ。

 それを僕は膝を曲げ、しゃがむことによって余裕をもって避ける。

 頭上を風切り音を発しながら通過していく剣。

 その音から速さはともかく、威力だけはあるようだと察する。




「おらよ!」




 すると大男が剣を振り切った体制から蹴りを繰り出してきた。

 しゃがんだ僕の顔にめがけてとんでくる。

 それを僕はバックステップで落ち着いて避ける。

 そのまま少し移動し、盗賊達全員が視界に入る場所に立つ。僕の後ろには人間はいないことは魔力探知で確認済みだ。これで挟み撃ちされる心配が無くなった。



 これで思う存分対人戦の訓練が出来る。初めてのアンナ以外の対人戦だ。相手としては不足があるが、まぁこれも経験と思えば悪くない。




「おい! なるべく早く終わらせろよ! こっちはもう終わったぞ!」




 これからだ。そう思った時、少女を囲んでいた男達の内一人がそう叫んできた。そちらに目を向けると少女が剣を奪われ、縄で捕縛されて地面に転がされていた。

 ……やばい。遊んでいる場合じゃなかった。そういえばこの場には僕と盗賊以外に女の子もいるんだった!




「うっせぇ! 分かってる!」




 大男は此方を向き、剣を構えながら仲間に向かってそう叫んだ。

 僕も今にも連れて行かれそうな少女から目を離し、ひとまず目の前の大男に向き直る。

 そいつと対峙しながら頭の中で素早く少女救出作戦を考える。

 大男を放置して先に少女を助けるか? いや、それだと少女を守りながら戦う事になる。少女の実力はどれくらいか知らないが、捕まっている事からこいつらより実力は下だろう。だとしたらこの人数差は少しキツいな……。最悪少女が殺されてしまう。

 なら、どうするか……。

 纏めて全員相手をして勝てる自信はあるが、それだと少女を巻き込みかねない。ならば各個撃破、または対少人数で撃破していくか、だ。

 それなら……どちらにせよ、まずはこの大男を倒すのが先か。




「おらぁ!」




 大男が下から上に剣を振り上げてきた。

 それを紙一重で避けると、僕は男のがら空きになった懐へ入り込む。

 ここに入れば、剣なんてもう関係ない。

 僕は大男の腹部に右の手のひらを添える。




「ちぃ、ちょこまかとーー」




「うるさいよ」




 大男の言葉を途中で遮る。




「[雷掌]」




 右手に電気を纏わせ、それを一気に大男に流し込む。

 すると大男は声を出さずに、二度、三度、ビクビクッと痙攣した。

 さらに少しの間そのままにしておくと、バチバチという派手な音を鳴らしながら、大男は膝をつき、そのまま地面にドサリと倒れた。



 [ブースト]も[ゾーン]も使う必要が無かったな。恐らくこの大男は今まで力技で何とかしてきたのだろう。そのおかげか隙だらけで戦いやすい相手だった。

 後はアーツを使ってこなかったのも勝敗を決した大きな要因だろう。




「さて、と。次は誰だ?」




 後ろをゆっくりと振り返りながら盗賊達に問いかける。すると盗賊達だけでなく少女までもが目を見開いて驚いていた。




「……チッ。そこのお前ら三人はこの赤目のガキを見張っとけ。後の二人は俺についてこい。この調子に乗ったガキを殺るぞ」




 木の上にいた男が他の男たちに命令している。どうやらそいつがこいつらのリーダーみたいだ。

 そのリーダーに僕は挑発をする。怒りで冷静さを失ったらやりやすいからだ。




「その調子に乗ったガキ一人に大人が三人がかりとは。一人一人はお前達が言うガキより弱いってことの証明だな」




「んだとこらぁ!?」




 リーダーに連れられた二人の内一人が僕の挑発に引っかかり、怒りをまき散らすように叫んだ。よし、あいつのあだ名はチンピラだな。




「おい、ガキの言うことに一々耳を貸してんじゃねぇよ。落ち着け」




 しかしリーダーが言葉でチンピラを落ち着けさせた。なるほど。少なくともリーダーは少々の事では動じない性格のようだ。

 それに僕一人に対して三人がかりで相手をするってことはかなりの慎重派だな。

 対してチンピラは僕の挑発に易々と乗ってきたことから短気で攻撃的な性格をしていると分かる。まさに典型的なチンピラだな。

 それとあと一人は……何も喋ってないし、表情も対して変化がない。感情の振れ幅が小さいのか、それとも顔に出ないだけで内側に溜め込んでいるのか……。体全体が力んでいるように見えるから恐らく後者だな。こいつのあだ名は……モブでいいか。しっくりくるあだ名が思いつかなかったし、このあだ名を使うのもこの瞬間だけだから、いいよね。



「やるぞ」




「「あぁ」」




 あ、モブ。返事はするんだね。どうでもいいか。

 リーダーの声に従いチンピラとモブが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 最初に攻撃してきたのはチンピラ……じゃなくてモブだった。

 無言で次々に攻撃してくる。

 その攻撃自体はそれ程苦もなく避けられる。

 だがモブの攻撃は荒々しく隙も大きい。



 やはりモブは内側に溜め込むタイプか。

 こういう人間は一旦感情を外に出すと周りが見えなくなる傾向がある。

 しかし……




「うらぁ!」




 モブの攻撃が一瞬止んだかと思ったら、今度はチンピラが叫びながら攻撃してきた。

 なるほど。

 何事も僕の思い通りに行くわけではないと思っていたが、まさかモブが怒りながらも周りに合わせることができるとは。これは予想外だ。

 だけどチンピラは僕が思った通り攻撃的な性格のようで真正面から防御を捨てて果敢に攻撃を繰り返している。

 それを僕は右に左に、時にはしゃがみながらそれらを次々と避ける。

 こいつらはアンナ程動きが鋭くないため[ゾーン]を使わずとも余裕で避けられるな。

 



「[ストライク]」




 すると僕から見て左側、つまり眼帯を付けている死角からリーダーがアーツを使って突きを放ってきた。

 確実に僕を潰すつもりか。

 だが、甘い。

 胸を狙ってきた突きを僕は後ろにジャンプする事で避ける。

 そしてそのままバックステップで下がり続け、一旦三人から距離を取る。




「……おい。今の死角からの攻撃は完璧だったはずだ。どうしてそれを避けることができた」




 向こうは僕を深追いせず、その場に残った。そしてリーダーがそんな質問を投げかけてきた。勿論その質問に対する僕の答えは決まっている。




「ひ・み・つ」




 安易に情報を相手に渡したりしない。何が命取りになるか分からないからだ。

 だから僕はふざけたように返答し、べーと舌を出して更に挑発する。




「というかさぁ。お前達弱すぎじゃない? なにあのおっそい剣速? 特にそこのチンピラ。あんなんでよく今まで生きてこれたよね?」




「てめぇ!」




「おい待て!」




 すると狙い通りチンピラがリーダーの静止を聞かずこちらに向かって走り出してきた。



 先程三人を相手取った時には常に一人が攻撃し、後の二人は僕の隙を伺い何時でも不意をつけるように立ち回っていた。……チンピラだけは攻撃することしか考えて無かったようだが。

 しかしどちらにせよ僕は反撃が出来なかった。反撃していたら即座にその隙を突かれてやられていただろうからだ。

 だからわざと左側の死角を晒し、隙を突かせることで一旦攻撃の手を休ませた。隙をついてもダメなら深追いはもっと危険だと思わせるために。



 しかし今は違う。協調性が一番無いチンピラだけをこうしておびき寄せることによって、バックの二人がいない状況を作りだせた。

 これで遠慮なく攻撃出来るというものだ。



 左手に魔力を集め、その手をチンピラに向ける。

 その瞬間チンピラは攻撃されると気づいたのか僕の左手の射線上から逃れようと横に飛ぶ。

 だが、遅い。

 僕の魔法は既に出来ている。




「[風撃]」




 極限まで圧縮された空気の塊が、チンピラに向かって放たれる。

 その不可視の弾丸は、誰の目にも止まることなく、まるでティッシュに台風の風を一点に集め、放ったように軽々とチンピラの胸を貫通した。

 そしてチンピラの胸を貫通した[風撃]はそのまま勢いを弱めることなく林の木々を次々に貫通し、やがて消えていった。

 ……初めて人に向けて撃ったから変に緊張してしまった。魔力を込めすぎたな。



 ドーンドーンと、林の木々が倒れる音をBGMに、少女を含め呆然とする一同。

 [風撃]を受けたチンピラは地面に転がりながら少しの間苦しそうに胸を押さえていたが、やがて事切れた。



 今まで人型の魔物であるゴブリンを散々倒してきたせいか、人を殺めるのに抵抗が殆どなかったな。でもこの世界は殺らなければ殺られる世界だ。これでいい。

 非常に酸っぱい物が喉元まで込み上げてくるが、それをなんとか飲み下す。そしてそう自分を無理矢理納得させ、残りの盗賊達に向き直る。

 両手を盗賊達に向けて。




「っ!? 逃げろ! こいつはただのガキじゃねぇ!」




 リーダーが突如そう叫ぶと、少女を囲っていた男たちも含めてここにいる全ての盗賊達が三々五々に林の中に散っていった。

 それを見届けて、僕は束縛されている少女に駆け寄る。




「大丈夫?」




「うん。ありがと」




 縄を解き、彼女に声をかける。すると、下を向きながらだが返事が返ってきた。



 土で汚れてしまったのか、少しくすんだ明るい茶色の髪。ポニーテールにしている。そしてほっそりとした、それでいて小柄な体。



 地面に座ったままの彼女に手を貸し、立たせる。すると彼女の顔を正面からハッキリと見ることができた。



 小さい顔に大きな目。今はシュンとしているが、笑ったらさぞ可愛いだろうと思われる顔をしている。

 しかしそれに対して彼女は貧相な身なりをしている。幾つもの継ぎ接ぎがあり、何度も何度も使い回されたであろう布。そんな布をさらに集め、縫い合わせて作られたような服を着ている。



 そうやって少女を観察していると、彼女は不意に慌てて周りを見回し始めた。何やら必死で辺りを見ているので心配になり声をかける。




「どうしたの?」




「あたしの……あたしの剣がどこにいったか知ってる!?」

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