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34話 一年と変化

 秘密基地が完成してから早くも一年が経った。

 あれからこの世界の事を色々と調べ、さらには錬金術や魔法学、鍛冶や裁縫まで、興味が湧いた物は全てやってきた。好奇心とは怖いもので、普通に学ぶよりも数倍早く習得できてしまった。それだけでなく、それらを学ぶ上で魔法を使う過程が多かったからこそこれだけ早く習得出来たというのもある。

 前の世界ならこれらに興味を抱くことは無かっただろう。しかしこの世界は娯楽が少ないため、時間を潰すものがないのだ。だから色んな物に興味を持つことができた。

 そしてそのおかげか色々な技術を身につけることが出来、自分が人間的に大きく成長出来たと感じている。




◇◆◇◆◇◆




 緑、緑、緑。周りを見れば全てが緑だ。

 僕は今、砂漠に向かう途中にある森の中にいる。

 一年間、雨の日以外毎日この森を通っていたが、ゴブリン以外の魔物に遭遇したことがなかったので、僕はここを勝手にゴブリンの森と名付けている。本当はエルローの森と言うらしいのだが、まぁいいか。




「お、ゴブリン発見」



 

 そんなゴブリンの森で今日もまた、前方に森の緑より少し薄い色の肌をした小鬼の集団を発見した。数は五匹。例のごとくゴブリンだ。

 気配を隠しながら素早く木の影に隠れる。




「ギャギャッギャ」




「ギャギャ」




「ギャギャギャギャ」




 何やら陽気に喋っているようで、こちらの存在は気付かれていない。まぁ今更ゴブリンに気づかれるなんて恥はかくわけにいかないのだが。

 そんなゴブリン達は草を掻き分けながらガサガサと派手な音をたてて歩いている。直接見なくても奴らがどこにいるのか丸分かりだ。まぁ知能の低いゴブリンにそんなことを言うのは酷かもしれないが。

 そのゴブリン達がこちらの方に注意を向けていないことを今一度確認する。それを確認すると、僕は木陰から掌を出して魔法を唱える。




「[風撃]」




 僕の放った[風撃]は五匹いたゴブリンの内、三匹の真ん中から僅かに右辺りの胸を貫通させた。こちらから見てちょうど三匹が縦に並んだので、それを狙って打ってみたら上手く三匹共打ち抜くことができた。ちなみになぜ胸の真ん中を貫通させなかったかというと、そうしてしまうと心臓部にある魔石が取れなくなってしまうからだ。



 [風撃]も一年という月日が流れるに連れて、その威力もかなり洗練されてきた。

 一年前の[風撃]は、空気の圧縮が甘く、それを解放する際の指向性の制御も完全とはいかなかった。しかし今の[風撃]は違う。

 まず空気の圧縮は去年までは掌の大きさに圧縮していたが、今は小指程の大きさにまで圧縮している。それもかなりの範囲の空気を圧縮して、だ。

 そして指向性の制御も殆ど完璧と言っても良いほど制御出来ている。去年は大体まっすぐ飛べば良いと、そこで満足していたのだが、時間がたつにつれその認識は変わっていった。今では五十メートル先のゴブリンの目玉を余裕で打ち抜ける。



 [風撃]を使い、その結果を見る前に素早く、今度は開いていた掌を、親指はそのまま、人差し指と中指だけ揃えて他の指は握る。所謂銃の形にするのだ。




「[炎弾]」




 そう唱えると指先に銃弾の形をした炎の弾が浮かび上がり、次の瞬間には残りのゴブリンの内一匹の眉間を貫き、もう一匹の頭の中で爆発した。



 [炎弾]は僕が新たに作った攻撃魔法の一つだ。凝縮された炎を弾丸として放つ殺傷力の高い魔法である。

 最初は書庫にあった参考書のような本に記されていた[ファイアーボール]を使っていたのだが、僕がそれを使うと本に記されている程の威力が出なかった。恐らくボールの形をした炎というものが上手くイメージ出来なかったからだろう。

 だから僕は殺傷力のある弾丸をイメージして、形を変えてみた。その時、単純に弾丸の形をした炎というものがイメージ出来なかったので、目の前に浮かばせた[ファイアーボール]を凝縮していき、赤色の弾丸を無理矢理作り出した。そうして出来たのが[炎弾]である。

 そしてその[炎弾]を繰り返し使っている内に自分の中でイメージが定着してきたので、今では自在に使いこなせるようになった。



 そんな[炎弾]をゴブリンに使うとは些かオーバーキルだった気がするが、そんな事は気にしない。とにかく今はゴブリンの素材が殆ど傷一つ無く取れたことに対して喜ぼう。

 ゴブリンからは魔道具の燃料である魔石だけでなく、他にも様々な素材が取れる。例えば目玉や唾液は錬金術の素材に使われ、皮や血液は魔道具の素材になる。

 これらの素材を全てとるには時間が掛かりすぎるので簡単に取れる素材だけを取って、後は放置しておく。もし素材が足りなくなるようだったら、明日になればまたここら辺をうろつくゴブリンがいるだろうからそいつらから取ればいい。もっともこの森にくるたびにゴブリンと遭遇しているので素材が足りなくなることはしばらく無いだろうが。



 そんなことをつらつらと一人で考えながらゴブリンから素材を回収し、足を進めていると大きな岩山が見えてきた。秘密基地だ。

 この一年間幾度もここに足を運び、色々とやってきたが、この岩山の外見だけは手を着けていない。まぁ外見だけで、中身は色々と変わってしまっているのだが。



 秘密基地がある岩山の前まで来ると、念のため周りに目をやり、誰もいないことを確認する。もはやこの行為は習慣となっている。

 確認を終えると洞窟に入り、適当な所に手をあて、魔力を少し流し込む。するとガコンという音と共に壁の一部が凹み、横にスライドしていく。

 最初は入り口にどんでん返しを採用していた。しかしこちらのほうが防犯の面から見て優秀だったので途中で取り替えたのだ。

 この半自動扉は魔道具の実験や錬金術などを学んでいくうちに、いつの間にか作れるようになってしまっていた。自分でも驚きである。



 そして中に足を踏み入れると、再びガコンという音を響かせながら扉が閉まる。それと同時に天井に複数セットしている小型魔道ランプが次々に点灯していき、部屋までの通路を明るく照らしだす。

 そうして照らし出された通路を歩き、部屋に入る。するとここでも通路と同じように天井にセットされた魔道ランプが部屋を照らし出した。

 岩の壁に岩の長机、そして無骨な岩の床。これらは一年前と変わっていない。

 だが椅子はバージョンアップした。岩の椅子をベースに、座る場所と背もたれに綺麗に洗ったゴブリンの皮と羽毛で作られたクッションが付いたのだ。これだけで椅子の座り心地が段違いなのである。当たり前か。ちなみにこのクッションに使われている羽毛は、近くを飛んでいた鳥を適当に数羽撃ち落として毟った物どある。

 他には部屋の温度を快適な物にするためのクーラーもどきや扇風機もどき。飲み水として使える水が出てくるポッドもどきなどがある。他にも鍛冶で使う炉や裁縫で使うミシンもどき、錬金術で使うコンロもどきなど、趣味で作った物も沢山ある。

 ちなみにこれらの魔道具の名前は考えていない。自分が分かればいいやと思ったので。例えばクーラーもどきなんかはクーラーと呼んでいる。

 そんな感じでこの一年間で作った様々な魔道具や道具がゴチャゴチャと、この秘密基地には存在している。



(さてと。今日は何をしようかな)

 クーラーと扇風機をつける。うむ。どこも調子が悪く無さそうだな。快適だ。

 それを確認し、羽毛椅子にボフッと座る。

 しばらくの間クーラーと扇風機の風を浴びながら何をしようかと考える。ここ最近はもっぱら裁縫にハマってしまっていたが、それも段々飽きてきた頃だ。

 とは言っても他に何もすることが無い。手慰みに途中まで縫っていた穴空きの服を[ストレージ]から取り出す。こうやって何か作業していると、やりたいことがそのうち頭に浮かんでくるだろう。チクチク。






「ん?」




 しばらくの間集中して縫い物をしていると手元が段々とオレンジ色に染まってきた。これが空気穴から入ってきた外の光だと気づいて、すぐさま壁際に置いてある魔石時計に目を向ける。



 この魔石時計は魔法陣が魔法を発現させ続けることによって消費した魔石の量から、大体何時間が経過したかが分かる機能を持つ。なお時計と言っても、時間を見ることは出来ない。起動させてから何時間が経ったかのみ分かるのだ。ちなみにこれは僕がこの部屋に入ってきたと同時に起動するようになっている。もちろんこれも僕が作った。



 その魔石時計を見ると僕がここにきてから既に五時間が経っていた。もう帰らないといけない時間だ。飽きてきたと言ってもやはり裁縫は面白い。思った以上に熱中してしまったようだ。



 ささっと机の上に出していた糸や針なんかを[ストレージ]に放り込み、急いで帰宅の準備をする。あ、その前に[ストレージ]からコップを取り出して水を一杯。うまい。



 粗方片付け終わると秘密基地から出て扉がきちんと閉まったのを確認する。

 そして洞窟を出て空を見上げれば、一面オレンジ色と赤色のグラデーションで染まっていた。太陽がもう半分も地平線に沈んでしまっているためだ。

 これは本気で走らないと夕飯に間に合わないかもしれないな。




「[ブースト]!」




 身体能力を魔法で無理矢理上げて、家に向かって一直線に走る。



 [ブースト]もこの一年で変わった。いや、正確には[ブースト]の使い方が変わったと言うべきか。

 [ブースト]を習い始めた時は体全体に魔力を張り巡らしながら動いていた。だがこの[ブースト]の使い方は、どんな時でも必ず無駄に魔力を消費している事に気がついた。

 例えを上げるとすれば表情筋だ。  

 走っている時や戦っている時に、強化した表情筋を使って表情を変えるなんてことはしないし、そんなことをする必要もない。つまり表情筋には魔力を費やさなくて良い。ならばその分の魔力を他の主要な筋肉や骨に使った方が良いに決まっている。

 まぁ何が言いたいかというと、このように無駄に魔力を消費している部分を徹底的に削り、その分の魔力を主要な骨や筋肉に費やす事によって、より効率的に[ブースト]を使えるようになったということだ。

 するとどのような変化があったかというと、まず走る際のスピードが上がった。さらに[ブースト]を使いながら攻撃すると、その威力も段違いに上がった。



 高速道路を走る車から見た景色と同じように周りの全てがどんどん後ろに流れていく。そんな景色を横目に、まっすぐ前を見ながら走っていると鬱蒼としたゴブリンの森が見えてきた。




「[ゾーン]」




 流石にこのスピードで森に突っ込むのは自殺行為なので、[ゾーン]を使い擬似的な集中状態に入る。この魔法を使うことで全ての世界がスローモーションで動くように見えるのだ。そのため真正面に生えている木がゆっくりと迫ってくるように感じる。それを避け、森の中に[ブースト]を使ったまま突っ込む。



 [ゾーン]の使い方も一年前より進歩した。とは言っても[ゾーン]は消費した魔力に応じて、認識している世界が遅くなる事を発見しただけなのだが。

 ちなみに[ブースト]も消費魔力に比例して効果も上がる。



 

「よっ、ほっ、とうっ」




 正面からゆっくりと近づいてくる木々を最小限の動きで回避しながら、猛スピードで森を走り抜ける。

 そして森を抜けると前方に家が見えてきた。太陽を見ると、まだ沈みきっていない。何とか夕飯に間に合ったようだ。




「ただいまー」




 扉を開け家の中に入ると、美味しそうな香りが玄関まで漂ってきている。今日のご飯は何かな?

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