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18話 魔法陣と決意

「魔法陣は様々な種類があり、その数は無限にあるのではないかと言われています。この余りにも多過ぎる種類、という点が研究が進まない原因です」



 無限にあると言われるぐらい多過ぎる種類、か。そんな思いをしたことあるな。



「例えば、この魔道ランプの魔法陣は昨日説明した通り、[ライト]を発現させます。ですがこの魔法陣とは全く異なる別の魔法陣でも、この魔道ランプと全く同じ[ライト]を発現させる物があります。逆に一見しても分からない程似ている魔法陣が、それぞれ別の魔法を発現させる例もあります」



「その似ているとか似ていないって一番外側の円の中の模様の事? それとも円の部分が三角とか四角とかの話?」



 魔法陣という言葉の先入観に惑わされそうになるが、もしかしたら多角形の魔法陣も存在するかもしれない。


 

「模様の事です。ちなみに坊ちゃまが仰った魔法陣の一番外側の円は魔法円と呼ばれています。これから説明するつもりでしたが、全ての魔法陣は円形です。これは魔法陣について発見された数少ない例の一つですね」



「そうなんだ」



 多角形の魔法陣は存在せず全ての魔法陣は円形か。杞憂で終わって良かった。



「それ以外に魔法陣について解明されていることは、魔法円とその内側にある内円と呼ばれている円、この二つの円の間に特殊な魔法記号と呼ばれる記号が使われていること。そして魔法陣の線は魔力を通しやすい物で書かれていることです」



「……それだけ?」



「これだけです」



 魔法陣について分かっていることが少なすぎない? それとも滅んだ古代文明が余程優秀だったってこと?



「こんなこと言ったら今までの研究者の人全員に怒られると思うんだけど……本当に研究してたの?」



 予想以上に謎が解明されていなかったので、悪いと思いつつもどうしても聞きたくなった。



「坊ちゃまの仰りたいことは分かりますがこれが事実なのです。かつては国が主体となって研究をしていたくらいですから」



「かつてってことは今はもうされてないの?」



「その通りです。三代前の王が即位した時を最後に魔法陣の研究は廃止されました。代わりに魔道具の用途に関する研究が主体として進められるようになりました。余談ですが、この時に魔法実験刑が制定されたのです」



 あ、この国って王政なんだね。

 ……そんなこと今はどうでもいいか。

 

 

「もし坊ちゃまが魔法陣に興味がおありでしたら、書庫に様々な魔法陣が載っている本があるので、それを読んでみてはいかがですか?」



「え、家に書庫なんてあったの!? 全然知らなかったよ!」



 まさか我が家に書庫なんてあるとは……。

 そういえば僕はこの家のこと全然知らないな。いつもトレーニングで1日潰れていたから家の中を探検する暇が無かったせいもあるけど。『記憶』には食堂に台所、サーシャ、アンナ、父さんと母さんの部屋の場所しか無い。

 今度暇を見つけて家の中を探検しようかな。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。



「サーシャ、今から書庫まで案内して?」



「承知しました」



 僕が今すぐに書庫に行きたがるのを予想していなかったのか、サーシャは少し驚いていた。

 確かに魔法陣の事を聞く前は好奇心のみで動いてたからここまでテンションが上がらなかっただろう。

 だが、先程のサーシャの説明で幾つか気になったことがある。それを今すぐにでも確かめたいのだ。

 


「サーシャ! 早く行こう!」



 気が急きすぎていたのか、自然とその場で駆け足をしていた。

 そんな僕を見てサーシャはメイド服のスカートを手で少し持ち上げながら前を走り出した。

 ……アンナが走るときはスカートの下に履いているズボンの姿で走っているから気付かなかったが、メイド服のスカートって意外に長いんだな。サーシャを走らせてしまった事に少し罪悪感を感じてしまった。 



◇◆◇◆◇◆



「ハァ、ハァ、ハァ……」



「坊ちゃま。ここが書庫です」



「ご、ごめん。少し休憩させて……」



 部屋を出てから少しの間はサーシャが僕のスピードに合わせて走ってくれた。そこまでは僕が当初思い描いていた《書庫まで走って案内してもらう》図と一緒だった。

 だが彼女はチラリとこちらを見ると途中からグンッとスピードを上げたのだ。

 もちろんサーシャを見失わないように僕も全力で走ったよ、『待って!』って叫びながら。待ってくれなかったけど。

 そしてなんとか見失わないで書庫まで来れたのだが、しんどすぎて書庫に対する感動や、さっきまでのワクワクドキドキが全て吹っ飛んだ。



「魔法陣が書かれている本はこちらになります」



 そんな僕を無視してカツカツと奥に歩いていくサーシャ。

 もしかして走らせた事に対して怒らせたかも知れないな……。

 サーシャの後ろ姿をヘロヘロになりながら追いかけていると、彼女はチラリとこちらを見た。

 ……今、笑ってたな。ということは怒っていたわけじゃなくて、単に弄られてただけか。

 




 サーシャに走らせた事を謝り、息を整える。そうしないと休憩させてもらえなかったからだ。



「じゃあ改めて案内頼むよ」



「走りますか?」



「歩いて行こう……」



 もう走るのはカンベンしてくれ……。

 


 改めてこの書庫を見ると、小さい図書館かと思うぐらい沢山の本で溢れかえっていた。

 壁に等間隔に貼り付けられている略地図を見ると階段がある。この書庫はどうやら三階まであるみたいだ。結構大きいな。



「ここが魔法学に関する本棚です。確かこの辺りに……」



 しばらく歩くとサーシャが一つの本棚の前で止まった。ここに目的の本があるらしい。本棚の側面にも魔法学という文字が書かれている。

 どうやら魔法はこの世界では学問になっているようだ。

 どんな本があるのか気になり、本の背表紙に書かれているタイトルを見る。

 『ゴブリンにも分かる回復魔法!』

 『これで安心、火魔法の使い方!』

 『水なんていらない水魔法!』



「……なにこれ」



 手にとってパラパラと中を見てみる。

 ……もしかして、この世界の参考書みたいなものか?

 でも魔法は経験を積む必要はあるものの、イメージするだけで色々と出来る。だからこんなの要らないんじゃない?

 すると僕の呟きを聞き取ったのか、サーシャが一旦本を探すのを止めてこっちに来てくれた。



「あ、邪魔しちゃってごめん」



「いえいえ。気になさらないで下さい」



 そう言って僕が見ていた本をサーシャも見た。



「坊ちゃまは、やはり色々な魔法を使いたいですか?」



「まぁ、本音を言えばそうだけど……。けど、サーシャから言われたことだからね。ちゃんと守るつもりだよ」



 僕はサーシャから[ライト]以外の魔法を使う事を禁止されている。

 部屋の中で魔法を使う際、安全かつ周りに被害を出さないようにするには[ライト]以外無いから、らしい。

 もっと他にも色々とありそうだが、[ライト]で経験を積ませるのが普通とのことなので、大人しく言いつけを守っている。



「もう少し坊ちゃまが経験を積めば外で魔法の訓練をしましょう。その時は私が、坊ちゃまがやりたい魔法から順に教えて差し上げますから」



「うん。楽しみにしているよ。僕も早く次の段階に移れるように頑張るからさ」



 今すぐにでも[ライト]を使って経験を積みたいが、ここは僕の部屋ではないので使えない。もどかしいな。



 本棚を眺めるのを止めてサーシャと一緒に目的の本を探す。

 えーっと、どこだー?



「坊ちゃま、見つけました」



 程なくしてサーシャが見つけたようだ

 彼女の元まで早歩きで行く。



「これです。坊ちゃま」



「おも……」



 そう言って渡されたのは、今の僕が両手で抱えてやっと持てる大きさの本。

 その本の名前は『魔法陣集 1巻』

 このタイトルの本が11巻まで出ている。

 あまりにも重かったので、サーシャに持ってもらい先に中身だけ見せてもらう。



「うわぁ……」



 一ページ開いただけで、軽く引いてしまった。いくつもの魔法陣が一ページ内にびっしりと書かれていたのだ。

 えっと、縦5の横4だから表裏合わせて一ページ40個の魔法陣。それが…………は? この本2000ページを越えてるんだけど。この本を書いた人は大丈夫だろうか? 書いている途中、絶対手を痛めているよね?



「ねぇ、これって何で家にあるの? だれか魔法陣の研究でもしてたの?」



 『魔法陣集』を凝視したままサーシャに訪ねる。



「いえ、これは一部の貴族様方が国王陛下から下賜されたものです。ここにはこれまで明らかになった魔法陣が記されています」



 一部の貴族達に国王が下賜した物、ね。



「今の僕にとっては嬉しいけど、普通ならこんなもの貰っても要らないよね」



 ただただ魔法陣だけがズラーッと書かれている本。僕みたいな魔法陣に興味を持っている人以外には無用の長物だろう。



「まぁ有効活用させて貰うけどさ」



◇◆◇◆◇◆



 サーシャが言うには、この書庫には読書スペースが存在するらしい。そこでこの本を読む事に決め、サーシャに案内してもらう。

 


「ねぇ、サーシャ。今までこの魔法陣について、言うなれば、この魔法陣の謎に何人の人が挑んだの?」



「……沢山、としか答えられないですね。詳しい数までは存じ上げません」



 ふと疑問に思ったことを質問したのだが、サーシャも知らないらしい。



「何故そんなことを?」



「何となく気になっただけだよ」



 先程この本の中を見たときに気づいたのだが、これに記されているのは魔法陣だけじゃない。発現した魔法の種類ごとに纏められ、さらに大きさや形などの特徴が一つ一つ纏められていた。

 それを見たとき、この本を作成した人の魔法陣の謎に対する執念のような物を感じた。



 だが、いくらこの本を作成した人が執念深くても、この謎は解けなかった。



 その人達が悔みながら死んでいき、さらに今ではその人達の努力が無駄になっている状態だと思うと、なんだかやるせない気持ちになる。



 だけど…………だけれど、僕ならもしかしたら解けるかもしれない。この魔法文明とでも呼べる文明の真反対、科学文明の知識をもつ僕なら。

 いや。かもしれない、じゃないな。さっきチラッと中を覗いた時、殆ど確信したじゃないか。



 だから過去の人達の努力が無駄じゃなかったと証明するために、僕は僕が積み上げてきた経験を基にこの謎を解き明かす。



「サーシャ。僕は魔法陣の謎を解明してみせ「お止めください」」



「……え?」

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