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111話 塩と抽出

 地面の中、ということは岩塩のことを言っているのだろうか。




「それって岩塩のこと?」




 するとネイは訝しげな表情をして答えを返してきた。




「むしろそれ以外にあるの?」




 やはり、ネイは岩塩のことを言っているようだ。それと同時に彼女は海水から塩を作ることができるのを知らないと悟った。こうなったら口で説明するより、実際に見せてあげた方が早いな。




「あるよ。塩は海水からも作れるんだ。[ストレージ]」




 そう言って僕は、先程ネイが露天風呂に入っていたときに作った魔道具を[ストレージ]から取り出す。




「それは何?」




「これは海水を汲み取るための魔道具だよ。そうだな……魔道ポンプと名付けようか」




 魔道ポンプは石材をパイプのように円筒形にしてそれを長く伸ばしたものだ。内部に海水だけを吸い上げる魔法陣を刻んでいる。

 見た限りではとても前世の世界にあったポンプとは比べられないが、利用目的はそれと同じで水を上に汲み上げるというものだからこの名前でも別にいいだろう。




「ちょっとこの空気穴を広げるね」




「え、うん。別にいいけど……」




 僕がいくつかある空気穴の内の一つを魔法で広げようとすると、ネイは一瞬躊躇った後、了承してくれた。急に空気穴を広げようとしたら誰だって先にその目的を聞き出そうとしてくるものだろうけど、ネイはそんなことはせず、すぐに了承してくれた。これが信頼されてるって事なのかな。

 そんな風に一人考えて嬉しくなりながら、僕は魔道ポンプを外に設置し、水が出てくるパイプの出口をL字形に曲げてこの地下空間の中に持ってくる。

 そしてさらにその出口の前に海水を入れる大きめの桶を設置する。これで準備は完了だ。



 早速魔道ポンプに魔力を流して海水を汲み上げる。




「これが海水だよ。少しだけ舐めてみて」




 たった今汲み上げた海水をネイに差し出しす。この世界には化学が発展していないから工業廃水やその他諸々の心配はしなくていい。綺麗な環境ってのは最高だね。

 そんなネイは僕の言葉に一度首を傾げたあと、桶に入っている海水に指を突っ込み、そしてペロリとその指を舐めた。




「!? しょっぱ!?」




 ネイは海水のあまりのしょっぱさに舌をベーッと出して驚いた。そんな彼女のリアクションを見て笑いながら、僕もネイと同じように指を海水に浸けて舐める。うん。しょっぱい。これだけしょっぱいなら塩を作るには十分だろう。




「ネイも舐めたから分かったと思うけど、海水はしょっぱいんだよ。知ってた?」




 いまだに舌を出しているネイを見て笑いながらそう問いかける。するとネイは、うー、と唸りながら首を横に振った。やはりネイは知らなかったみたいだ。




「この海水にこうやって魔法をかければ……」




 僕はネイの目の前で魔力を海水に馴染ませる。そしてそこから塩化物イオンとナトリウムイオンをくっつけて塩化ナトリウムだけを抽出するイメージで魔力を海水から引きあげる。するとそこには白いキラキラとした小さな結晶がいくつも現れた。




「なに、この白い粉は?」




 するとネイが、浮かんでいる塩を見てそんな質問をしてきた。再び僕は彼女に笑いかけながら手のひらの上に持ってきたこの結晶達の正体を明かす。




「これが塩だよ」




 そう言ってそれをネイに差し出す。すると彼女は僕の手のひらに乗っている塩をひとつまみしてそれを口に……あ、それはちょっと量が多すぎるんじゃないかな?




「しょっぱ!? なにこれ!? すごくしょっぱいんだけど!?」




 すると彼女はやはりと言うべきか先程とは比べものにならない、段違いのリアクションをしてみせた。思わず両手で腹を抱えて笑ってしまう。あ!? 塩が服についちゃった!?



 そうして二人でわちゃわちゃと過ごした後、僕は改めてこの地下空間の利用方法をネイに提案した。




「いいんじゃない? 調味料が一つただで手に入るだけじゃなくて、お金も手にはいるんだから」




 するとネイはその提案に乗ってくれた。

 しかしネイは後ろを振り返り、けど、と続ける。




「この地下空間をその塩作りのためだけに使うっていうのももったいないわよねー」




 僕らの後ろにはまだまだ広大な地下空間が広がっている。

 ネイの言う通り、この空間を塩作りの為だけに使うのはもったいない。

 これを行うには壁際に桶を置くことができる少しのスペースがあればそれでいいのだ。




「それは追々考えていこうよ。今すぐにこの地下空間を全て使い切らないといけないって訳じゃないんだしさ」




「それもそうね」




 焦る必要は無いのだ。今はゆっくりとお金を稼いで……あ、お金稼がないと。あれ? 焦る必要があるのでは? い、いや、手持ちのお金はまだ少し残ってる。だから……明日の朝、早速塩を売りに行こう……。塩が売れればお金は手に入る。だからやっぱり焦る必要は無いな。うん。

 ちなみに塩を抜いた海水は斜め下に傾けた空気穴から外にポイしました。








「あたしもやってみる!」




 夜が明けて次の日。

 僕は起きてすぐにこの地下空間にやってきた。今日売りに行く塩を確保するためである。するとネイも地下空間にやってきていきなりそう言ってきた。

 どうやら昨日塩を作りたかったが、あの時は夜が遅かったため挑戦するのを諦めたらしい。だから今日になってネイは海水から塩の抽出をすることにチャレンジしたいと申し出てきたのだとか。

 時間もまだ夜が明けたばかりだし、最終的に今日売る分の塩を確保できたらいいので、どうぞ、と言いながらたった今桶に汲み上げた海水をネイに空け渡す。




「ねぇ、この魔法に名前は無いの?」




 するとネイがそんなことを聞いてきた。




「うーん。あえて名付けるとするなら[塩分抽出]になるんだけど、こんな海水から塩を取り出すだけの魔法に名前を付けてもなぁ」




 正直に言うと考え方がイオンや原子の考え方を基にしているので[塩分抽出]を使っても魔法を使ったという気があまりしない。そのためわざわざ[塩分抽出]なんて大層な名前を付けるのは気が引けるのだ。




「[塩分抽出]ね! わかったわ!」




 だけどネイにとって魔法の名前という物は大切なものなのだろう。僕がその魔法に名前を付けると、彼女は両腕の袖を捲り上げ、フンスと気合いを入れる。

 そして昨日僕がやったように魔力を海水に馴染ませ始めた。




「うー……[塩分抽出]!」




 昨日僕がやったよりも丁寧に魔力を馴染ませたネイは一気に魔力を海水から引き上げた。するとそこには少量の塩が。

 まさかとは思ったが一発で成功させるなんて……。やはりネイのイメージ力とでも言うべき物は卓越しているな。

 そう僕はネイの凄さに関心していたのだが、彼女自身はどうやら不満があるらしい。




「もー、何でよ!」




 僕はネイが浮かべた塩を海水に落とさないように横から素早く空の桶を差し出す。ウガーと怒っているネイは怒りながらも抽出した塩だけは丁寧にその空の桶に入れてくれた。




「いやいや、初めてでこれだけの量の塩を取れるなんて十分凄いと思うけど」




 僕が持っている桶を傾けて塩を端っこに集め、それをネイに見せる。しかしそれでもネイの機嫌は直らなかった。




「ラインが昨日やった時より半分も無いじゃない!」

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