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11話 ミミズとバケツ

「坊ちゃま!」



「うわぁぁ!! ってサーシャか!」



 急に後ろから声を掛けられたので驚いてしまつまた。

 あ、動かしてた魔力が戻っちゃった……。



「急に後ろから声を掛けないでよ……。ビックリするじゃん」



「私は既に三回程坊ちゃまをお呼びしたのですが……。随分と集中していたようですね」



「え、そんなに呼んでたの? ごめん、全く気付かなかったよ」



 抗議するような視線をサーシャに向けたが、今回は僕が悪かったみたいだ。素直に謝っておいた。



「サーシャがここに来たって事は、もう2時間が経ったの?」



「そうですよ。正確には10分前に2時間が経ちました」



「そうだったんだ。集中していたからか、時間が流れるのが早く感じたよ」



 体感ではまだ30分ぐらいしか経っていない気がする。ここまで集中したのは前世も含めて初めてかも知れない。



「坊ちゃまは魔力を動かす事は出来ましたか?」



「うん。けど、まだ防衛本能による魔力の動きを真似するぐらいしかできないよ」



 魔力を注入された時の動きは完璧と言っても過言ではないほど、上手く動かせるようになった自信がある。動きだけでなく、速さも同じくらいに動かせるようになった。

 しかし、それが出来るようになっただけで、自由自在に動かせるかと言われれば、そうではない。



「それで充分ですよ。どんな動きであれ、この2時間で魔力を御自分で動かせるようになることが目的ですから。実際に坊ちゃまはもう『魔力が動かせない』とは思わないのではないですか?」



「……そうだね。サーシャの言う通り、それはもう思わないな」



 自由に動かせないとは言え、確かに自分で魔力を動かせたんだ。さすがにもう『魔力が動かせない』なんて考えは頭の中に存在しない。



「それはよかったです。では少し休憩を挟んで次の訓練に移りましょうか」



◇◆◇◆◇◆



 十分程お茶を飲みながらサーシャと雑談し、次の訓練に入る。



「次は魔力の動きを明確にイメージする訓練です。これが出来たらいよいよ魔法の訓練に入るので頑張って下さいね」



「そうなんだ! 頑張るよ!」



 後もう少しで憧れの魔法が!

 よし、さっさとこの訓練も終わらせよう!

 なんだかさっきよりもやる気が沸いてきた!



「坊ちゃまはもう御自分で魔力を動かせるようになったのですから、どれくらい具体的なイメージをすればいいのか理解されているはずです」



「うん。さっきの2時間でいろいろとイメージして動かそうとしたけど動かなかったからね。けどあの動き、防衛本能のよる動きをイメージした時だけ動いたんだ。それもだいぶ具体的にイメージしてやっと動いたんだから参ってたんだよ……」



 どれくらい具体的にイメージしたかというと、うねうね動いている触手を前後左右だけでなく上下から見た様子まで鮮明に頭の中に思い浮かべた。これだけイメージしてやっとあの動きを再現出来たのだから、自由自在に動かすことはどれだけ難しいか嫌でも理解させられた。



「大丈夫ですよ、坊ちゃま。大変なのは最初だけですから。魔力を動かすときも魔法を使うときも重要なのはイメージと経験です。動かし続ければ続けるほど熟練度は上がります。つまり慣れればどうって事はない、ということです」



「そうなんだ。それを聞いてちょっとだけ安心したよ。あの辛さを考えると、魔法が使えるようになるまでに挫折するんじゃないか、って思ってたからね……」



「ですが今の坊ちゃまの段階では、まだまだ経験が浅いので、魔力を動かす事に慣れるのは大分先の話です。今は辛い時期ですが続ければ必ず結果が追いついてきます。なので、たとえ坊ちゃまが途中で挫折したとしても、私が全力でいじ……ゴホンッ! 支えますので安心してください」



「途中で止めた部分が凄い気になるんだけど……」



 "弄る"なのか"いじめる"なのかが気になるけど、どっちみち挫折した瞬間にサーシャの餌食となるのは確定だな。そんな事になるのはごめん被りたい。

 ……心を強く持たねば。



 それにしても経験を積めば積むほど楽になるのか……。なんか筋トレとか運動に通じるものがあるな。

 


「最初は比較的簡単なイメージで魔力を動かしてみましょう」



 おっと、本格的に訓練が始まったみたいだ。余計な考えを捨て、目の前のことに集中する。



「まずは自分の魔力を凪いだ湖面に見立ててください。この時に湖の周りの景色や水中の魚など余計な物は一切考えないでください」 

 


 言われたとおりに魔力を凪いだ湖面に見立て……ようとして、ふと気付く。

 サーシャは余計な物は一切考えないようにと言った。なら必要なのは凪いだ湖面だけのハズだ。

 湖なんて前世を合わせても直接見たことがないので、身近にあった水入りバケツの凪いだ水面を思い浮かべる。

 先程の触手のイメージをした経験から、テレビやネットで見た画像ではいまいち具体性に欠けるみたいだ。しかし経験を積めば楽になるらしいのでこんな思いをするのは今だけだろう。ちなみに触手はミミズの動きを参考にしたら上手くいった。

 

「次にそこに石を1つ投げ入れた様子を思い浮かべてください。投げ入れた場所を中心として円形の波面が広がっていきますよね? その広がる様子をイメージしながら魔力を広げて下さい」



 なるほど。全方位に広がる波を魔力で再現すればいいわけか。それくらいなら簡単にイメージできる。

 小学生の時に、友達と少し離れた所に置いた水入りバケツに石を投げ、どれだけ水しぶきを上げられるかで競ったことがある。その後先生に見つかって怒られたのは懐かしい思い出だ。

 まぁ、こんな回想をして何が言いたいかというと、全方位に広がる波の様子を思い浮かべるなんてちょちょいのちょいということだ。

 始めてすぐに胸全体がじんわりと温かくなったのを感じる。魔力が広がった証拠だ。



「できたよ。思ってたよりも広がらなかったけど」



「そうですか。ではその湖面に先程イメージした石よりも大きい石を投げ入れて下さい」



 なるほど。要するに小石程度を投げ入れて小さな波が出来たとしても、遠くまで行かないという事か。この認識を持っているだけでも魔力の動きに影響するらしい。……うーむ、なかなか厳しいな。

 サーシャの言に従い先程イメージした石より大きな、手のひらいっぱいくらいの石を投げ入れるイメージをする。手のひらいっぱいとはいっても、大人の手のひらではなく今の自分、つまり六歳児の手のひらの大きさで考える。目の前に実物の手がある方がイメージしやすいからね。



「サーシャの言うとおりにしたら、さっきより広がったよ」



 魔力が広がっている部分がポカポカする。



「そうですか。ちなみにどこまで広がりましたか?」



「えーっと、頭のてっぺんから大体お臍の辺りまでかな」



「それなら今度は更に大きい石を投げ入れるイメージをして魔力を広げて下さい。具体的には頭のてっぺんからつま先まで魔力が広がるような大きさの石を投げ入れて下さい」



 手のひらいっぱいの大きさより大きくて、更に爪先まで広がるような石、か。

 ならば両手で抱えてやっと持てるくらいの石をイメージする。

 その石をバケツの中に入れ……れないな、これ。石の大きさがバケツの直径を越えちゃってるわ。

 いやいや、これは現実じゃなくてイメージなんだ。単純にバケツの口を広げたらいいじゃん。こうガバッと口を広げて……あかん。そんな大きいバケツなんて見たことないから曖昧なイメージになってしまう。

 どうしようか……。まさかこんな所で躓くとは。

 ……あ! 小学校にあった池があるじゃん! あの大きさなら充分でしょ。

 凪いだ池の水面に……池メンに先程の石を思いっ切り投げつける! おっと、力が入りすぎたかな? ハッハッハッ。決してイケメン憎いとか思ってないですよ? ホントデスヨ?

 おっと、今は真面目にやらなければ。

 石を投げ入れたことによって起こる波をしっかりイメージする。

 するとジワジワとゆっくり魔力が広がっていくのを感じる。



「お? 身体中がポカポカしてきた!」



「さすがですね、坊ちゃま。体全体に魔力を広げるまでの時間は結構掛かりましたが、今の段階でそこまで出来るとは。やはり魔力感知に非常に秀でておられるようです」

 


 そう誉めてきたが、彼女は先程の僕の様子の変化を覚えていたようで、今度は単純に誉めるだけではなかった。



「ですが、いくら天賦の才があるとはいえ努力を続けなければ意味がありません。今のままだとすぐに他の人に追いつかれるでしょう。それに坊ちゃまの魔力感知の技量は確かに高いです。しかしそれは坊ちゃまと同年代の子供と比べると、という言葉が付きます。世の中には坊ちゃまより魔力感知の技量が高い人はゴロゴロいますから」



「……え? 今何て言ったの?」



「今の坊ちゃまの技量より高い人は世の中に沢山います、と言いましたが……?」 



 それを聞いた僕は愕然とした。

 僕の魔力感知の技量が高いのは、前世の魔力がない自分の体と比較して、違和感を見つけ出せたからだ。なのでこの世界の全人類よりは、魔力をはるかに敏感に感じ取れると密かに思っていた。

 しかし実際は、魔法の無い世界から転生してきただけで一番になれる、なんてことは無いらしい。そこまでこの世界は甘くなかったようだ。

 恐るべし、この世界の人間。



「例えばこの世界全員の魔力感知の技量を高い方から並べるとします。そして上中下の三つに分け、更にそれぞれの中を上中下と三つに分けたとしましょう。その中で坊ちゃまは下の上の辺りに位置します」



 彼女はですが、と続ける。



「全ての人間は、多少誤差がありますが下の下から始まり、そこから技術を磨き、上に上がっていきます。これは魔力感知の才能があり、普通より短時間でそれを習得した例外の人達でさえ、高くても下の中からスタートしています。それを考えれると、坊ちゃまがどれだけ素晴らしい才能を持っているかがお分かりになると思います」



 彼女は真面目な顔をして僕の目を真っ直ぐに見てきた。



「しかしながら、そんな類い希な才能を持っていても最初は下の上でしかありません。それは努力を怠ればすぐに抜かれるということです。今の坊ちゃまを見る限り大丈夫だと思いますが、慢心などせずに努力を続けてください」



「……うん。分かった。サーシャの言う通り努力を怠らないようにするよ」



 どうやらサーシャは誉めて伸ばすのではなく、別の方向からアプローチをして、僕のやる気を焚き付けてきたようだ。



「これから二週間はずっとこの訓練を繰り返します。実際に魔力を扱うときは、先程のように魔力を何かに例えて動かすような事、間接的に動かす事はしません。時間が掛かりすぎてしまいますからね。なので坊ちゃまにはこれからの二週間で直接魔力を動かせるようになってもらいます」



「魔法は二週間もお預けか……。まぁ確かにここまで動かすのに結構時間が掛かったしね……。ちなみにその二週間が終わると次は魔法の訓練に入るの?」



「そうですよ。坊ちゃまの仰る通りこの訓練が終わればいよいよ魔法の訓練に移ります。そこからは私が放出系、アンナが内包系の魔法、アーツを坊ちゃまに教えていくことになっております」



 魔法を使う事は今日明日でパッと出来るようになる程甘くはないってことか……。いや、ここはポジティブに、たった二週間で魔法を教えてもらえるって考えよう。

 なにせ僕の体はお菓子とジュースで出来ているし、魔法や魔力に関しての知識は全く無かったのだから。

 ま、体の方は二週間もあれば少しは改善されるでしょ。サーシャとアンナも手伝ってくれるしね。知識の方は言わずもがな。これから貯めていけばいい。



 二週間後の僕がどうなっているか楽しみだ。

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