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109話 長湯と床下

「はふぅ……」




 ちゃぽんという音と共に、そんな声が壁の向こう側から聞こえてくる。




「ネイ、どう?」




「サイコー……」




 あれから風呂とは何かや、その素晴らしさを全てネイに語った僕は、忘れていた脱衣所を五十分程で建てた。

 そしてこの素晴らしさを実際に身をもって体験してもらおうとネイに一番風呂を譲った。

 そして壁越しにこの露天風呂の感想を聞くと、ネイの満足そうな声が返ってくる。

 どうやらネイも風呂の素晴らしさを理解してくれたらしい。気持ちよさそうな声が何度も聞こえてくる。




「長く入り過ぎるとのぼせてしまうから気をつけてね」




「はーい」




 僕は風呂の良さだけでなく、もちろん風呂を入る上での注意点などもしっかりとネイに伝えてある。しかし彼女の声からして相当リラックスしているようなので、念のため忘れないようにもう一度注意しておく。

 そんな僕は露天風呂のすぐそばで何をやっているかというと、ネイがお風呂に入っているところを覗いている……ようなことをしている訳では当然なく、とある魔道具を作っているのだ。これが完成すればお金が……あ、そういえば。




「ねぇ、ネイ。さっき僕を呼んでたみたいだけど何かあった?」




「んー? 特に重要な事じゃ無いから後でー」




 たしかネイが露天風呂を見つけて驚く前に彼女は僕のことを呼んでいた気がする。そう思いだして彼女に訪ねたのだが、彼女は気持ちよさそうな声でそう返事をするのみだ。

 ……自分から進んで一番風呂を譲ったから文句は言えないんだけど、正直なところ僕も早くお風呂に入りたいなぁ。




 それからさらに一時間程してからネイがお風呂から上がってきた。のぼせたのではないかと心配したのだが、彼女の顔はとてもリラックスしたような表情をしていたのでそれは杞憂に終わった。

 それと入れ替わりに僕もお風呂に入る。




「ふぅ……」




 この世界では初めてだが、前世から数えて久しぶりのお風呂だ。そのためか思わずそんなおじさんくさい声が出てしまった。

 これまでの濡れタオルで体を拭くだけの生活には慣れきっていたが、いざこうしてお風呂に入るとやはりこちらの方が良いと感じる。



 そうしてある程度満足した僕はお風呂から上がって脱衣所で部屋着に着替え、リビングへと足を運ぶ。

 ネイから先程僕のことを呼んでいた件について話しがあるからそこで待っていると言われていたためだ。




「おまたせ」




 リビングに入ると、そこにはネイが床に座って魔力操作の訓練をしていた。床に座っているのは机や椅子などの家具が無いためだ。

 明日は椅子と机から作ろうか。

 そんなことを考えながら僕は彼女に話しかけた。するとネイは僕の声に気づいて顔を上げ、持っていたスライム紙を[ストレージ]の中に仕舞った。




「早かったわね。もっと時間がかかるかと思っていたわ」




 するとネイは立ち上がりながらそんなことを言ってきた。

 本来ならば僕ももう少しお湯に浸かっていたかったのだが、ネイを長々と待たせるわけにはいかない。なので少し早めに上がってきたのだが、彼女の言葉から察するにさらに長湯をしても良かったみたいだ。

 まぁ、これからは毎日お風呂に入ることができるからその時に長湯すればいい。

 長湯に関する結論をそう脳内で出した僕は、こっちに来て、という言葉と共にどこかへと歩いていくネイの後ろ姿を追う。




「何か問題でもあったの?」




 ネイに追いつき、彼女と横並びになりながらそう聞く。




「そうね……。どちらかと言うとラインの言う通り問題と言った方がしっくりくるわね。とりあえず説明するより見せた方が早いからついてきて……ってもう着いたわ」




 すると彼女はとある部屋の前で立ち止まった。

 この部屋に何かいるのか魔力探知で中を探ってみるが、特にこれといって反応は無い。あるのは地中に住んでいるであろう小さな魔物の反応だけだ。その魔物も驚異となるには程遠い魔力なので無視して大丈夫だ。

 僕が思っているとネイはその部屋の扉をガチャリと開ける。




「[ライト]」




 太陽が完全に沈み、月が空に昇っている時間だからかその部屋の中は真っ暗で何も見えない。なので僕はすぐに[ライト]を使い、その部屋を明るく照らす。

 ちなみに廊下や寝室、トイレなど主要な部屋と通路には僕が作った魔道ランプを既に設置しているため特に困らない。

 [ライト]を使って照らし出したその部屋の中には他の部屋同様、一切の家具が無いガランとした部屋だ。特に窓がある以外これといって特徴の無い部屋だけど……。




「こっちよ」




 するとネイは先陣をきってその部屋に足を踏み入れた。僕も[ライト]をさらに追加で発現させ、部屋の四隅に設置しながら、彼女に続く。

 するとネイは扉から一番離れた場所の床にトコトコと歩いて行き、その前でこちらを振り向いて止まった。




「ここの床を叩いてみてよ」




 ネイは何も無い床を指差してそう言った。




「? わかった」




 特に何かあるようには見えない床だけど、何かあるのかな?

 そう思い僕は腰を下ろし、手の甲でその床を叩く。

 すると……



 コツコツ



という空洞音が返ってきた。

 もしかして……と思うも、一応少し離れた床も叩いてみる。が、そこからはコンコンという普通の床を叩いた音が返ってくるのみだ。さらに他の場所を叩いてみるが、ネイが指差した場所の周辺以外は全てコンコンという音が返ってきた。これは……




「ネイ、よくこんなのを見つけたね」




「たまたまよ。掃除をしてたら発見したの」




 ネイもこの床下に何かがあるのか察しているのか不快感を表すように眉根を寄せてそう言った。

 ここだけ他の床とは返ってきた音が違う。つまりこの床の下には何かあるのだろう。そしてそれは魔力探知を使える僕とネイだからこそそう確信できた。

 何故ならこの床の下からはーー




「魔力探知からして弱い魔物だと思うけど……開けてみる?」




ーー魔物の反応が返ってくるからだ。

 数は少なく、強くはないであろう魔物だが、魔力探知からその反応は丁度この音が違う床下からのみ返ってくる。

 これは怪しい。もしかしたら魔物がここに巣くっているのかもしれない。




「開けるのはいいけど、どうやって開けるの? 壊す?」




 ネイは空気を圧縮しながらそう返事をしてきた。どうやら彼女は開ける気満々のようだ。でも流石に[風撃]を使って開けるのは止めようか。

 それに今日この家に引っ越してきたばかりだよ? 流石に初日でこの家に傷をつけるのはなるべく避けたいなぁ。

 とりあえずネイに[風撃]を解除させる。




「とりあえずこの空洞音が返ってくる正確な範囲を探そう。それでその部分の床だけ魔力を使って変形させるのはどう?」




「なるほど。それはいい考えね」




 ネイの賛成も得られたことだし、早速二人で床を叩く作業を開始する。が、それも僅か数分で終わった。




「あれ? この床、よく見たら僅かに切れ目が入ってる」




 顔を近づけてようやく分かるかどうかといった、非常に分かりにくい切れ目が入っているのを見つけたからだ。

 この家の床は全て木張りの床で、それはこの部屋も同様だ。しかしこの切れ目がある場所の木目はズレが一切ない。

 なのでこうして顔を近づけて注意深く観察しなければこの切れ目に気づくことができなかった。




「ホントだわ。たしかにうっすらと切れ目が入ってる」




 ネイもその切れ目を見つけたようだ。顔を床に近づけている。

 そしてこの切れ目を境目に、返ってくる音が違うのだ。

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