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プロローグ 1話 今と昔


 はぁ……。

 もう、この仕事をやめてしまいましょうか…。

 毎日毎日あの方の我が儘に付き合わされて、いくら御領主様の御子息とはいえもう我慢の限界です。

 今洗っているこのお皿もあの方の物なので、見た目だけ綺麗にして終わらせてしまいましょうか。

 少しはストレスを解消できるでしょうし。



 雑に洗って食器洗いを終了させます。


 

 ……しかし、何故でしょうか。罪悪感を感じてしまいます。

 やっぱり綺麗に洗い直しましょうか……。



 あの時は、毎日が楽しかったので、まさかこんなストレスが溜まる日々を送ることになるとは思いませんでした……。



◇◆◇◆◇◆



「おぎゃあぁーー!! おぎゃあぁーー!!」


「ルシア様! 産まれましたよ! おめでとうございます! 元気な男の子です!」


 待ちに待ったこの日。

 とうとうこのノルド家に元気な男の子が産まれました。


「ルシア! 大丈夫か!? 赤ちゃんがう、産まれたのか!?」


 分娩室の外から、このノルド領の御領主様である、マルロ様が大声で心配そうに聞いてきます。

 普段はこのような大声を出さない温厚な方なのですが、今は相当慌てていらっしゃるようです。それほどマルロ様にとって出産という出来事は衝撃的なことなのでしょう。

 そんなことを考えながら、事前に指示された通りに分娩室のドアをそっと開け、マルロ様に出産の報告をします。


「マルロ様、元気な男の子が産まれました。 母子共に健康です!」


「そ、そうか! 良かった! 本当に良かった……!」


 私は落ち着かせるように少しゆっくりとした口調で出産の報告をします。するとマルロ様は先程までの緊張が解けてほっと胸をなで下ろしたようです。


「どうぞこちらに。ルシア様と坊ちゃまがお待ちですよ」


「あ、あぁ」


 マルロ様をルシア様の元へ案内します。

 すると出産直後であるためぐったりしつつも、坊ちゃまを抱え笑顔を浮かべているルシア様が、マルロ様が入ってきたことに気づいたようです。


「あら、あなたのお父さんがきたわよ。抱っこしてもらいなさい」


「おお! ルシア! お疲れ様! 大丈夫かい? 君の苦しそうな声が部屋の外にまで聞こえてきたからすごい心配したよ……」


 いつものマルロ様はルシア様の言葉を無視したり、聞き逃したりしないのですが……。

 それほどルシア様のことを心配していたということでしょう。

 少し、ほんの少しですけれど(羨ましいなぁ)などとぼんやり考えてしまいました。

 ……いけません。今はノルド家の一大イベントの最中ですから次の仕事に集中しなければ!


 と、思いつつ手足を動かしながら、耳を澄ませてお二人の会話を聞きます。


「ふふ、ありがとう。それよりほら、この子を抱っこしてあげて。私たちの子供よ」


「おぉ……。この子がそうか」


 感慨深い様子でマルロ様が坊ちゃまを慎重に持ち上げ抱っこしています。

 いいなぁ……。私も抱っこしたい……。


 ……っは、見られてる!?

 いけませんいけません。そんなことより、今は仕事に集中せねば!

 先輩メイドのサーシャさんからの怒気を孕んだ視線に気づいていないフリをしつつ、手を動かして仕事に集中します。


 ですが、やはり体は正直なもので、ついついそちらに顔を向けてしまいます。


「おぉ……。思ったより重いな。この子が未来のノルド家の頭主となるのか。生まれてきてくれてありがとう。ルシアもこの子を生んでくれてありがとう!」


「えぇ、どういたしまして」


 マルロ様もルシア様も私が今まで見たことないくらい嬉しそうにしています。

 マルロ様なんか、顔のパーツがちゃんと元に戻るか心配してしまうくらいニヤニヤしています。


「アンナ! 坊ちゃまのことが気になるのは分かるけどちゃんと自分の仕事をしなさい!」


「は、はい!」


 いけないいけない。

 サーシャさんに怒られてしまいました。

 これ以上あの人を怒らせると後が怖いので集中して仕事をしなければ!


 心の中で自分に活を入れてせっせと動きます。


「それよりこの子の名前は決めているの? 男の子の場合はあなたが、女の子の場合は私が名付けるって二人で決めたでしょ?」


 む!? 坊ちゃまの名前!? これはきちんと聞かねば!

 そう思い、顔をガバッとマルロ様達の方へ向けます。


「ひぃ!」


 しかし、いつの間にか目の前にはサーシャさんが泣く子も黙るオーガのような形相で立っていました。


「これ以上サボると明日のご飯全部抜きにするわよ?」


「ご、ごめなさい! きちんと働きますのでご飯だけは抜かないでください!」


 ご飯抜きはダメです!

 ご飯抜きだけは絶対にダメです!!

 銀貨一枚分のご飯と金貨一枚どちらが欲しい? と聞かれたら、銀貨一枚のご飯を食べ、隙をみて金貨一枚を盗んで、そのお金でご飯を食べにいくくらい私にとってご飯は重要なのです!

 ……あ、盗みは犯罪と言うことはわかってますよ? 例えばの話ですからね? ホントデスヨ?


「ははは。サーシャとアンナもこっちにおいで。ほら、ライン。あの二人が我が家のメイドだよ」


 サーシャさんに叱られつつ心の中でご飯の重要性を再確認していると、マルロ様が私達を呼んできました。

 どうやら坊ちゃまのお名前はライン様と言うそうです。


 サーシャさんと二人でマルロ様とルシア様のもとへ行きライン坊ちゃまに自己紹介をします。


「ライン様。私はノルド家のメイドをしておりますサーシャと申します」


「同じくノルド家のメイドをしておりますアンナと申します。これからよろしくお願い致します。ライン坊ちゃま」


 ふーむ。近くでみると余計に可愛く見えます。

 特に小さなおて手!

 眠りながらもルシア様の人差し指をギュッと握っています!

 羨ましい……!私も握られたい……!


 それより、遠目から見ると髪の毛はマルロ様譲りの銀髪であることはすぐにわかりましたが、近くで見ると意外とシワが多い赤ちゃんです。

 生まれたての赤ちゃんは皆こうなのでしょうか?

 まぁ、それでも坊ちゃまの可愛さが減る要素にはなり得ませんが。


 これから坊ちゃまがどのように成長していくのか期待を膨らませつつ、心の中でもう一度坊ちゃまに挨拶をします。


(これからよろしくお願いしますね。坊ちゃま)





 余談ですが、次の日のご飯はサーシャさんに土下座&仕事倍増のおかげできちんと三食食べることができました。


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