『退廃の街へようこそ』(5)
『退廃の街へようこそ』(5)です。楽しんで頂けたら幸いです。
――眠れなかった。
ぼくは適当な場所を見つけて、適当に体を休ませようとした。
けど、眠ることができないまま、目が冴えていた。だから、やることがなくなってしまい。
強いて言えば、ぼんやりとしていることしかすることがなかった。
最初はよかった。別にめんどくさいわけでもなかったから。
前は気楽でよかった、はずなのに。
今は苦痛で仕方がなかった。
暇で暇で、退屈だった。少女といる時は、そんなこと思わなかったのに。
――ああ、そうか。
退屈じゃない。苦痛じゃない。
そう思わなかったのは、少女といると、そんなことを考える暇がなかったからだ。
少女に振り回されるばかりで、時間はあっという間に過ぎて行った。
今は、時間が過ぎるのがやけに遅く感じていた。
少女がいた時が、一番楽だった。
――楽だった……?
一瞬でもそう思った自分に、ぼくは驚いた。
そもそも、ぼくはこんな人間だっただろうか? 違う、違うはずだ。
ぼくは何もしないほうがむしろ楽だった。
――ぼくは、おかしくなってしまったのだろうか……?
ぼくは、気付かない。
考え続けることを止めないこと。それ自体が、ぼくの一番変わったところだということに。
結局、答えは見つからなかった。
あんなに考えたのに、時間はそう経たなかった。
というよりも、ぼくの答えは最初から変わっていなかった。
――暇だ、苦痛だ、退屈だ。
こんなことなら……――少女といたほうが楽だったかもしれない。
そう思ったときだった。
「こんなところで寝ていたら、風邪ひきますよ」
その声に、ハッと目を開けた。そこには見慣れた姿があった。
「お久しぶりですね、お兄さん」
「……そんなに久しぶりでもないと思うけど」
少女と別れてから半日も経っていないはずである。
少女は首を傾げてから、笑って言った。
「そういえばそうですね。でも時間は関係ないと思います。別れていたんですから会ったときにはあいさつをするのが礼儀だと思います」
よく分からない理屈だったけど、なんとなく説得力がある気がした。
「……それで? 答えは出たの?」
「お兄さんと死にたい理由ですよね」
「そうだけど」
「見つかりませんでした」
「は?」
ぼくはぽかんとした。
「ですから、適当な理由が見つかりませんでした。誰でもよかったんです。一緒に死んでくれるなら」
本人に向かって、よく言えるものだと。ぼくはある意味感心していた。
「……それがあんたの答え?」
「いえ、違います」
少女は間髪入れずに否定した。
「むしろ、ここからが本題です」
ぼくを見つめる目は真剣そのものだった。
「誰でもよかった。それは認めます。でも、私はお兄さんがいいんです。なので、もう一度お願いします」
まるで初めて会ったときのような、まっすぐな眼差しで、少女はぼくに言った。
「お兄さん。私と一緒に生きてください」




