↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退廃の街へようこそ  作者: ぺんぎん
PR
1/6

退廃の街へようこそ(1)

ぺんぎんです。楽しんで頂けたら幸いです。

「あのー起きてくださーい?」

 声が聞こえてきた。けど、ぼくは眠っていた。どうせすぐ諦めるだろうと思っていたからだ。

 が、予想に反して声は、ぼくを起こそうと呼びかけてくる。

「生きてることは分かってるんですからね」

「自己紹介ぐらいさせてくださいよ」

「さては私をからかって楽しんでいるんですか? そういうの悪趣味って言うんですよ」

 文句や説教だけでなく、次第にぼくが眠る『カプセル』まで叩き始める始末。

「……」

 正直起きたくなかったが、これ以上この『騒音』に付き合うのもめんどくさかった。

 だからぼくはカプセルの蓋を開けて、起き上がった。

 直後、ゴツンと鈍い音がした。

「痛いじゃないですか!」

 見れば、半ば涙目で睨み付けてくる少女の姿があった。どうやら蓋を開けた拍子に頭をぶつけてしまったらしい。が、ぼくにとってはどうでもいいことだった。

「あんた、誰?」

「……私ですか? 私は『いきたがりの街』から来た者です」

 体勢を整えた少女はぼくをまっすぐに見つめながら、

「お兄さん、私と一緒に死んでください」



「――は?」

 今、なんて言った?

「ですから、私と一緒に死んでくださいと――」

「やだよ」

 即座に断り、ぼくが再び『カプセル』の中に入ろうとした直前。

 少女がすかさずガシッと蓋を掴んできた。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「……何?」

「ここって『退廃の街』で合ってますよね?」

「はぁ?」

 ぼくは素っ頓狂な声を上げた。今更何を言っているのだろうか、この少女は。

「そうだけど」

 というか、ここが『退廃の街』でなくて何なのだろうか。

 すると、少女はぼくの答えを聞いて安心したのか、ほっと胸を撫でおろした。

「よかったです。看板も何もないし、話を聞こうにも皆さん――って、無視して寝ようとしないでくださいよ!」

 油断している隙に『カプセル』の中に入ろうとしたものの、惜しくもそれは阻まれてしまった。

 少女がぼくの腕を引っ張ってくる。

「寝るんでしたら、一緒に死んでくださいよ!」

「やだよ、めんどくさい」

「寝るんでしたら、死んでもいいじゃないですか!」

 一理あるとは思った。とはいえ、死のうとすること自体がめんどくさかった。

 少女の誘いを断る理由はなかったが、死ぬ理由も特になかった。

「――分かりました」

 少女の手がぼくの腕からゆっくりと離れていった。ようやく諦めたかと思い、ほっとしていると、

「私、お兄さんを説得してみせます!」

 とんでもないことを言い出した。

「お兄さんが私と一緒に死んでくれるように、私、とことんまでお兄さんを説得してみせます!」

 これには、さすがのぼくもぎょっとした。

「ちょっ……!」

 こんなわけの分からない少女に付きまとわれるなんて、冗談じゃない。

 慌てて止めようとした矢先。視界がグニャリと歪んだ。

「う……」

「お兄さん?」

 そのまま、ぼくは倒れてしまった。


※ ※ ※


 『退廃の街』とは、ぼくが住んでいる街の呼び名である。

 ここに住んでいる者は皆、めんどくさがり屋ばかりだった。

 生きるために必要なことさえ放棄し、ぼくらは眠りを欲した。

 特別好きというわけでもなかった。

 ――何もしなくてもかまわないから。

 そんな理由からだった。

 けど、目覚めてしまっては何の意味もない。だから、カプセルが造られた。

 どういう構造をしているのか。よく分からなかったけど、とりあえず中に入れば、半永久的に仮死状態でいることができるらしい。そして、期限を過ぎれば、そのまま死ぬ仕組みになっていた。

 ぼくら住民は次々とカプセルの中に入っていった。

 ようやくめんどくさいことをせずにすむと思いながら――。


※ ※ ※


 なのに、なぜぼくは起きているのだろうか。

「お兄さん、大丈夫ですか? 全くだめですよ、寝てばっかりいたら」

 そして、なぜぼくは説教されているのだろうか。

 どうやらぼくは気を失っていたらしい。いつの間にかカプセルの外にいて、辺りはもう真っ暗だった。

「大変だったんですよ? お兄さんをここまで運んでくるの」

 倒れたぼくを一旦カプセルの中から出して、引き摺るようにして木陰があるところまで運んだ。

 たき火で暖を取りながら、少女はそう説明した。

 説明を受けている最中、自力で起き上がったものの、まだ頭がくらくらとしていた。

 そんなぼくに対し、少女がおもむろに何かを差し出してきた。

 水とパンだった。

「食べてください」

「めんどくさ――」

「食べてください」

 少女のわけの分からない迫力に押されるがまま、ぼくは水を飲み、パンを口に運んだ。

 途端、ぼくは渇きと空腹に後押しされる形で、水を飲み干し、パンをがつがつと食べた。

 そのせいでむせるぼくに、少女は水とパン、両方を渡してきた。

 今度は何も言わず、受け取った。ようやく食べ終わったとき。ぼくは無意識にほうっと息をついた。

「全くお兄さんは……」

 自分も食事を進めながら、少女は呆れたとばかりにため息をついた。

「日頃から食事をきちんと取っていれば、こんなことにはならなかったはずですよ」

「……余計なお世話」

 ぼくはぼそっと呟いた。

「大体あんたこそ、一体何なの? 死にたいとか言ってたけど」

「はい、死にたいですよ」

 食べ終わった後、少女はこくりと頷いた。

「私は『いきたがりの街』から来た者です。一緒に死んでくれる人を捜していたら、偶然お兄さんを見つけたんです」

「……ぼくには何の関係もないと思うんだけど」

「はい、関係ありません」

 意外な反応が返ってきたと思ったら、

「なので、お兄さんと親睦を深めたいと考えています」

 顔を引きつらせるぼくに、少女はにっこりと笑いながら、

「まずは食事です。食事をしたら、少しは打ち解けてくれたんじゃないですか?」

「全く」

「そうですか、喜んでもらえて何よりです」

 勝手に事実を捻じ曲げるなと思った。

 ――このままだと少女のペースに巻き込まれてしまう。

 ある種の危機感を覚えたぼくは少女に言った。

「一緒に死んでくれる奴なんて、他にいくらでもいるだろ」

「……? どこにですか?」

 首を傾げる少女に、ぼくは若干苛立たしげな声を発した。

「だから、ぼく以外にも眠ってる奴なんて、たくさん――」

「え、無理ですよ」

 少女はぼくの言葉を遮った。

「だって、お兄さん以外皆さん、死んでますし」

「は?」

 間抜けな声が出た。

「私、お兄さんを見つける前に、他の人のも見て回ったんです。そうしたら……」

「死んでいた、と……?」

「はい」

 ぼく以外全員、カプセルの期限が切れたということだろうか。

 黙り込むぼくを見て、少女は何かを勘違いしたらしい。

「あ、疑うなら見てみます? 中にはウジ虫が湧いてて気持ち悪いのが……」

「いい、見ない。めんどくさい」

 そうだ。ぼくにとって重要なのはそこではない。

「あんたの言い分は分かった。けど、それなら他のところに行けばいいだけじゃないの?」

「いいえ。お兄さんを見つけたんです。なので、お兄さんに決めました」

 勝手に決めるな。思わず言いたくなったが、結局めんどくさくなって止めた。

「それにしても……変な人たちですね……」

 カプセルがあるであろう方向を見ながら、少女はぽつりと呟いた。

「死ぬまで寝ようとするなんて……」

「あんたにだけは言われたくない」

 ぼくはつい少女に言い返した。

「あんた、死にたいんだろ?」

「当たり前じゃないですか」

「だったら、なんで飲み食いなんかしてるの? 必要ないだろ」

 死にたいなら、さっさと死ねばいい。なのに、なぜ水や食料を持っているのか。

 すると、少女はきょとんとした後、

「別にいいじゃないですか」

「……は?」

「死にたがりだって、お腹すくんですよ? のどだって渇くんですよ? 食べたいときに食べても、飲みたいときに飲んでも別にいいじゃないですか。罰が当たるわけでもないんですから」

 ぽかんとするぼくを置いて、少女ははっきりと言い切った。

「生きているときは生きたいように生きるべきなんです」

 ぼくにはよく分からない感覚だった。

 第一、それが正しいなら、ぼくが寝て過ごしていたところで何の問題もないじゃないか。

 そんな風に反論すると、

「お兄さんはなんとなく生きていない気がするんです。だから、ちゃんと生きてください」

 真顔で諭された。

「そして、私と一緒に死んでください!」

「……あんた、さっきぼくに『生きろ』って言ってなかったっけ?」

「はい。ですから、ちゃんと生きた後で、私と一緒に死んでください」

 頭を抱え込みたくなった。一方、少女はぶつぶつとひとりごとを呟き始めた。

「困りました……。どうしたらお兄さんと親睦を深めることができるんでしょうか……。謎です……」

 謎なのはあんたの思考回路のほうだ。

「あ! 思いつきました!」

 突然立ち上がったかと思えば、そのまま勢いよく、ぼくのほうへ身を乗り出してきた。

 その目はとてもキラキラと輝いていた。……なんだか嫌な予感がした。

「探検しましょう! お兄さん!」

「は?」

「ですから、明日この街を探検するんですよ。そうしたら、親睦だって深まるはずです」

 早くも乗り気になっている少女に、ぼくは言った。

「……一人で行けば?」

「いいえ。それだと親睦を深めることができません。何より、私はこの街のことをほとんど知りません。なので、お兄さんに案内してもらいたいんです」

「なんで、ぼくが」

「お兄さん以外いないからですよ」

 正論で返されてしまい、ぼくは黙り込むしかなかった。

「明日が楽しみですねー!」

 全然楽しみなんかじゃない。明日なんか一生来るな。

 心の中で(のろ)いながら、ぼくはため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。