ある令嬢の裏切り
…………どうぞお入りになって。
まあ、陛下。こんな埃臭い所に良く来て下さいました。それにしてもこんな狭い所にそんな大所帯で来るなんて予想していませんでしたわ。
陛下を初め、王妃様、神官長様、騎士団長様、宰相様、魔術師長様、まあこの国一番の商会の会長様まで!? 言っては何ですか平民の貴方様が何故こんな所に……?
え? 『商会の長は表の顔で、本当の顔は暗部の長』? ……確かに商人と言うのは色々動き易い職業とは思いますが、まさか虫すら殺さない様な方が国の暗部を司る方とは……
成程。国を揺るがす様な秘密を私に言うと言う事は私の処刑はもうすぐ何ですね。
……そう。明日、日が出た時に始めるのですね。
此処は窓一つも無い地下室でしたから中々曜日の感覚も分からなくって。見張りの看守様も少しお話をするのですが、中々世間のお話はしてくれなかったのでちょっと困りましたわ。食事が来る時で何とか曜日を把握していましたが……あの日から今日で一週間経っていますよね? 合っている? なら良かった。
でも、看守様との話は中々の気晴らしになりましたわ。此処では何もなくてぼうっとしているしか何もすることがなくって。
……ああ! 私ったら陛下達を立たせたままにするなんて。でも椅子はあまり四つしかありませんのでどうしましょう……えっ? 『陛下と王妃と神官長に座らせて自分達は立ってる』と? 私も座っても宜しいと? ……お気使いありがとうございます団長様。
貴方様方がこの様な所に来ると言う事は全ての処分が終わったのですね。
妹は? ――魔術師長様の術で、処刑される者が全員処刑にするまで生きたまま責め苦をおっていると? 『内容は聞かないでくれ』と言う事はそれはおぞましい目にあっているのですね。
いいえ。仕方がありません。あの子はあまりにも罪を重ねてしまいました。
恐れ多くも婚約者持ちの殿方を惑わし、挙句の果てに王位第一位――陛下の同腹の弟君――様まで毒牙を伸ばし婚約者様を無実の罪を着せて婚約破棄をさせるなんて。
しかも結婚に反対した先代国王夫婦様を暗殺する様に唆したと聞いた時は、もうショックのあまり死ぬのではないかと思いましたわ。
――――改めて謝罪させて下さい。
陛下、王妃様。本当に申し訳ありませんでした。
私の愚かな妹のせいで王妃様に言われ無き罪を着せ、しかも処刑しようとするなんて。陛下も妹のせいで優秀だった弟君を愚王にまで堕とし、挙句の果てにご両親まで殺させてしまって……
謝って済む問題ではない事は分かっています。ほんの短い間とは言え、国民まで飢え死しかける程の高い税率を掛けた。それを止めなかった私達も同罪です。どうか私が処刑する時は火刑の様な苦しい刑を。せめての罪滅ぼしに。
『もう良い』? 『貴女も罪がないとは言えないが、私達に謝ったのは貴女だけだった。だから私達は貴女だけを許します』……寛大な御心感謝します。
大御祖母様と大御祖父様は憤死なさったと。
予想出来ましたわ。あの二人にとって家の取り潰し・財産を全て没収。しかも一族の人間は全員処刑は家柄を人一番気にする二人にとって怒り狂う事だったでしょう。
お父様とお母様は最初に処刑なさった? どの様な方法で? ――ギロチンですか。ならば苦痛も無く死んだのですね。それは良かった。
逆らう人間は大御祖母様達が洗脳して支配していましたから、筆頭だったお母様達は御祖母様達の洗脳で動く解けない駒と化していましたから……殆ど自分の意思はあったか分かりません。
せめて苦しみも無く死を迎えただけでも良かったのでしょう。
その他の一族の人間は全員死刑になったのですね。……あの、まだ幼い子供達は?
『幼い子供や赤ん坊達は神殿が経営している孤児院に扱っている。一族の人間だと分からない様にしているから迫害は起こらない様配慮している』……と言う事は先日私が産んだ息子も? 『勿論』……良かった。本当に皆様の寛大過ぎる御心に感謝としか言い様がありません。
ええ、もう充分です。聞きたい事全て聞けたので。次は私が御話する番ですね。
何故我が一族は世界征服を目論んだが。
我が一族はこの国が建国当初からある数少ない名門の家でした。そして指に数える程度の数しかない女性が当主になる家系です。
私の家の様な組織を『母系社会』と言うそうですね。
母系社会では家長の娘が余所から来た貴人の男と一夜限りの契りをする。そしてその時に出来た子供を次の家長とするのです。
そのせいか私の家に限ってでしょうが、男の人の地位は低かったです。まあ、逆の方が世間では多かったと思いますが、私の家ではソウでした。
貧乏な家の三男坊と白い結婚して、種は他の男から貰う当主もいたそうです。簡単に言えば托卵ですね。幸いと言いますか大祖母様達から私の両親までは配偶者と子供を作ってました。つまり私も今の両親が血の繋がった父親と母親です。
ただ……やはりこの状況を面白く思っていない男の人はいました。それが大御祖父様です。
大御祖父様は大御祖母様の事を大切にしてはいたのですが、母系社会の事を快く思っていませんでした。そりゃあ女性を当主の方が産まれてくる子供もその家の子である事は確実なのですが、男が当主だとお腹の中の子が自分の子だと信じるしかありません。本当にその子が当主の子かどうか知っているのは母親しかいません。
『まあ、確かに今はある程度調べられるけど昔は分からなかったからね。探せばその家の血を引いていない人間はゴロゴロといると思うよ?』流石に沢山いるとは思いたくはありませんが、一軒二軒はいるかもしれませんね。
『だけどどうして貴女の家はそこまで女系一族に拘っているの?』はい。王妃様の言う通り私の家は他の家と比べれば異常と思う所が多だあると思います。他にも女性当主の家はありましたが、最低でも一人は男性の当主がいたり親戚の家から娘を養子にしたりしましたが、私の一族は代々その家の実の娘を当主とし、今日に至るまで男の当主や親戚から養女を取ったりしませんでした。
此処まで血縁に拘るには訳があります。
この国で最初に女王となったジュリー様と我が一族で初の女性当主となったエリザベータ様はご親友同士だった事はご存知でしたか?
陛下と神官長様はご存じだった様ですね。ジュリー様が女王就任する際かなりの騒動だったと記憶しています。何せジュリー様の弟君がいたのですが、その弟君が国王陛下の血を引いておらず、しかも当時敵対していた国の王が実の父親だったあの事件。ジュリー様は女王に就任した後もその件で大変苦労なさったとお聞きしています。
親友だったエリザベータ様はジュリー様の苦労を真近で見ていました。『それもこれも国王の子ではない子供がいた事が原因。最初から女が当主になればこの様な事態にはならなかった』と考える様に成ったのです。
ですからエリザベータ様の代からその家の実の娘が当主になる事が決定したのです。女を産む為には夫以外の男と寝る事も厭わない、と一族全員がいる前で話したそうです。
話を元に戻しますと、大御祖父様の生家は公爵家。しかもかなり男性の権利が強い家です。しかし長年贅沢な暮しをしていたせいで家計は火の車。仕方なく三男であった大御祖父様が我が一族に入り婿として来ましたのです。
大祖父様の若い頃はとてもハンサムで、しかも公爵家の出身でしたから教養も良かったので大御祖母様は大そう大御祖父様を気にいり、他の男には見向きをしませんでした。
それで満足すれば良かったのですが、大御祖父様はある事を思いつき大御祖母様話したのです。
『なあウチの人間を王族に嫁がせれば良いんじゃあないか? そうすれば我が家は王族の仲間入り、しかも産まれてくる子は間違いなく一族の血を引いている。もしその子が他の王族に嫁げ続けば、最終的に世界中の王族はお前の一族の血を引いている事になるぞ?』
恍惚無形過ぎる話です。そんな夢物語を誰が本気になると思いますか?
しかし私の曾祖母はその話になりました。大変な高齢であった事と、大御祖母様も大祖父様と負けず劣らずの野心家でした。二人は王家乗っ取りに手を出したのです。
それに曾祖父の野望はそれだけではありません。曾祖母は最後まで知りもしませんでしたが、曾祖父には隠し子、その隠し子の孫が何人もいました。大御祖父様はその子達をこの国の王族や他国の王族の娘を襲わせて自分の血を引く子供を作ろうとしたのです。
あの人は畜生よりも劣る化け物。女を暴力で脅すか・薬か魔術で娘を昏睡状態にして襲おうと計画なさっていました。その女性が国王の妻であろうといや、王妃だからこそ狙おうとしたのでしょうね。
私も看守様から聞いた時恐ろしさの余り気絶してしまいました。……看守様は気絶した私の世話をして本当に感謝しています。
大御祖母様達の計画に反対したのは祖父母と両親です。
『その様な大それた事をすれば一族諸共処刑にされます!」
『どうかその様な恐ろしい事を捨てて下さい。必ず一族に災いを呼びます』
『しかも今の王族は病弱で他の国に療養している第一王子を除く全ての王族は既婚者や婚約者持ちです』
『第二王子の婚約者であるロレッタ様は我が一族と同等の力を持つ一族です。そんな事をすれば国が乱れてしまいます!』
そう言って大御祖母様達を説得したのですが……先程言った通りです。
此処から先は皆様のご存知の通りです。
妹は大御祖母様達の手引きによって第二王子や高位の令息達出会い、手練手管で堕としました。そして王妃様を無実の罪を着せ婚約破棄をし、ソレを反対した先代国王陛下達を大御祖父様の隠し子達によって暗殺。
そして国を乱すだけ乱し、そうして二人の野望が次の段階に移そうとした時に陛下が他の国と手を組み、王妃様は国内にいる心ある貴族達を纏め上げ、そうして我が一族の悲願は露の様に消え去ったのです。
あらあら何の事ですか?
私が貴方方に協力したと? 一体何を言っているのですか?
『私の病気が良く成る様に東洋にしかない漢方薬を密かに渡したのは偽名でしたが貴女ですね?』
『私が牢から脱出してくれた貴族を手引きしたのは貴女付きの侍女でした』
『兵の位置を書いた紙を俺の所に送ったのはアンタが懇意している商人からだ』
『ワシに匿名で主犯達の計画を書かれた告発書を送られてきた。勿論貴女様の曾祖父の野望も。神官長であるワシは直ぐに他国にこの事を話、警護を厳しくした。そのお陰で奴の身内を何人も捕まえる事が出来たそうじゃ。……ワシに告発書を送ってきた人間は貴女様の特徴に良く似ていた』
『城に掛かってある結界にヒビを入れた奴がいたんだ。そのお陰で城に乗り込んだ際、妨害もなく革命を成功出来た』
『何より私が送り込んだスパイ達をスパイと知りながら雇い、しかも重要な場所に配置したのは次期当主だった貴女だ。お陰で笑える位証拠が簡単に手に入り、懐疑的だった他国の王族を味方付ける事が出来ました。流石に血統乗っ取りを企てでいると知ったら協力します』
私が陛下の為に漢方薬を手に入れ、王妃様を脱出する手伝いをし、兵の位置と告発書を渡し、城の結界にヒビを入れて、しかもスパイを屋敷に雇った?
皆様私を買いかぶり過ぎですわ。そんな事をすれば一族だけではなく、私や息子まで殺される可能性が高いのに?
私は祖父母達が殺される姿を、両親が洗脳される姿を黙って見ていた弱虫。そんな大それた事は出来ません。
……御話はそれだけですね。今日はもう遅いですのでお帰り下さい。明日の朝まで心の整理をしたいので。もう気にする事はありません。
……どうしてお帰りにならないのです魔術師長様?
――――子供は誰の子? さあ? 私も結構淫乱ですから色んな男と閨を共にしたのですからね。
はぁ? 『それなら僕の子だ』とは何の根拠に……
『貴女の相手をしていた男達は皆変身した僕ですから』
……気持ち悪いを通り越して呆れるわね。
私が最初に貴方を選んだ理由? 簡単よ。顔が良くて魔術師の才が一番優れている貴方なら良いなーと思って誘ったのよ。婚約者持ちじゃあなかったし。
そりゃあ貴方の噂を知っているわよ? 強力な魔力を持っていて時に人を危害を加えるって。
だけど今の貴方はとうに魔力を扱えるし、危害を加えるって言っても幼い頃に癇癪を起こして暴走しただけ。しかも短時間で終わったから特に被害がなかったけど、ソレが尾ひれがついて誰も貴方に近づかなかった。
それに貴方の御世話をしていたのは、私が上級生で貴方は下級生。しかも私はある程度魔術に対して知識があったから貴方の世話を任されただけよ?
それに貴方はこの国の魔術師を束ねる長よ? 昔とは違って女性達の憧れの的、選り取り見取りなのだから貴方の好みの、地位のある女性を狙ったら如何? 王妃様の妹君様は魔術師の才があるそうですよ?
何より私は国を乱した女の姉。しかも明日には処刑される身ですよ?
もしかして貴方私を連れ去ろうと考えているの? だったら無理よ。
此処の看守様は先代の弟の隠し子。しかもかなりの実力者よ? 一度だけまだ正気だったお父様から聞いたのですけどね。本当ならば貴方の今いる地位にいる筈なのに、ソレを断って此処の看守長をやっているのよ? どうして断ったかは分からないけどね。
それにこの牢にはかなり高度な結界をされている。私が一歩外に出ればきっと木端微塵よ。私が陛下達と話している間、結界を壊そうと頑張っていたみたいだけど結局壊せなかったじゃあない?
それに私が死ななければ妹は一生生き地獄を味わうのでしょう?
貴方達にとってとんでもない悪党だったかもしれないけど、私にとってあの子は可愛い妹なの。
あの子を残して自分だけ幸せになれないわ。
だからどうか貴方も私を忘れて幸せになって。
息子の事は責任を感じないで。ただ、もしかしたらあの子にも魔術師の才能があるかもしれないからどうかその時はあの子の師として導いて下さい。
看守様。どうかこの人を外まで御連れ下さい。
…………おはようございます。
……あの、貴方は何方でしょうか?
えっ? 私の旦那様なのですか? ……申し訳ありません。私記憶がないのです。
事故に合って記憶消失になっているのですか? はあ、そうなのですか。
いえ、あんまり実感湧かなくって。――そうですね。無理して思い出さないでゆっくり思い出そうと思います。
えっ? 貴方との息子がいるのですか? ―――そう言えばいましたね。私と貴方の子が。
ええ会います。息子の事を思い出したら会いたくなっちゃいました。
? どうして泣いているのですか旦那様? どこか身体が痛いのですか?
とある国に一族を裏切った令嬢がいた。
令嬢の一族は国を乗っ取ったが、令嬢が今の国王達と密通し、反逆の手伝いをした。
結果一族は倒されたが、陰の功労者である令嬢も一緒に処刑された。
令嬢を助けるべしと言う意見もあったが、令嬢が一族の次期当主でしかも先王夫婦を暗殺に導いた悪女の姉だった為、下手に生かせば反乱の種になると言う事と、令嬢自身ソレを望まなかった為令嬢は処刑台の露と消えた。
一族は皆殺されたとされているが、まだ幼い子供達は生かされたと言う噂がある。その中で令嬢が密かに産んだ子供がいたらしい。
その息子は魔術師の才能があり、その後この国の魔術師長の養子となり父に負けぬ立派な魔術師になったそうだ。
魔術師長には妻がいたのだが、かなりの病弱で社交界に一度も出る事はなかった。噂では魔術師長が妻を溺愛し、人目に触れたくなかったと言われているが、本当かどうか定かではない。
ただ、奥方を一度だけ見た人物はこう言う。
――養子に来た息子と良く似た髪と眼の色をした女性だったそうだ。
令嬢
ヒロインの姉。かなり癖の強い妹や他の一族の子供達の面倒を見ていた為、かなりしっかり者で面倒見の良い。
本当なら魔術に関する研究に入りたかったが、彼女が後継ぎだった為断念。しかし知識があった為魔術師長の御世話を任される。
魔術師長に関しては恋愛感情があったかと言えば、『間違いなくあった』。しかし自分の未来と彼の未来を考え諦めた。
魔術師長
黒髪黒眼の美少年。性格はヤンデレ腹黒。下手したらラスボスになっていた可能性があった。
幼い頃からかなりの魔力を持っていて、少し癇癪をしたら暴走した。しかし家が魔術師の名家だった為直ぐに収拾し、彼に魔力の扱い方を教えた為これ以降の暴走はなかった。しかし噂が噂を呼んで学園に入学した時は誰も彼に近づこうとしなかった。
ソレが原因で人間不信を起こしたが、そんな時に彼に話しかけて来たのが令嬢であった。そして彼が令嬢の初めての男で、又彼も令嬢が初めての女だった。
彼は令嬢に惚れてから彼に近づく男達を排除し、令嬢が閨に誘った男に変身し本物は金を渡して他の国に留学させた。
令嬢の妹
婚約破棄物のヒロイン。婚約破棄に成功し、邪魔な国王夫婦を消し好き放題したが天罰を食らう羽目に。しかし他と少し違うのは、彼女にとって唯一の家族は令嬢で心を許せる相手だった。本当は寂しがり屋で一人になるのが嫌な性格だった。(コレを知っているのは令嬢だけ)
その為、死ぬ間際まで、いや死んだ後も姉が裏切った事を信じなかった。(そしてソレが令嬢が己の処刑を望んだ)
遺体は令嬢の強い希望で、令嬢と一緒の棺に入れられた。
曾祖母・曾祖父
全ての元凶。彼等が暴走さえしなければ今回の事件は起きなかった。
曾祖母は家の繁栄を、曾祖父は自分の血を確実に残したかったが、やり方が酷過ぎた。陛下直々に一族郎党全員死刑・財産没収を言った瞬間怒りのあまり死んだ。
その後首だけを晒すつもりが、彼等に恨みを持った人間によって遺体を持ち去られ城下町を引きづり回し、その上石を投げられたり蹴られたり棒で叩いたりで、騎士団長達が取り戻そうとした時は眼を逸らす程の凄惨な姿だった。
その後、遺体は火葬され骨は砕かれて海に捨てられた。
祖父母・両親
一族の良心だったが、老害共には勝てなかった。
両親はギロチンに掛けられ、首を晒されたが曾祖母達の様な目に合わなかった。(これは陛下達によって本当の悪党が誰であったかと両親が洗脳されていた事が発表された)
その後遺体は祖父母と娘達が眠っている墓地に一緒に入れられた。
陛下・王妃
王妃は婚約破棄物の悪役令嬢。陛下は第一王子だったが病弱な為弟の方が王太子となっていた。
まともだった弟を駄目にし両親を殺した妹含めた一族全員許さないが、幼い子供と唯一謝った令嬢だけは許している。
令嬢と魔術師長の仲については二人は知っていたが、彼女を生かせば争いの種になると思い処刑となった。
その後の魔術師の奥方の正体を何となく察しているが、知らないふりをしている。
騎士団長・神官長・商会の会長
団長と会長は三十代・神官長は立派な髭を蓄えた七十代の御爺さん。
その後神官長はこの一族の話を後世に伝え『人の解釈次第で良い教えも悪い教えになる。これも我等と同じではなかろうか』と言って戒めている。
団長は僅かな団員達を鍛え、国の混乱を狙った他国の攻撃を防いだ。後任育成に人生を捧げ、陛下に忠誠を誓った。
会長は相変わらず商会の仕事の傍ら、隠密の仕事の二足のわらじ状態を続けている。屋敷に送ったのは隠密の中でかなり優秀な人間だったが、ソレを見破った令嬢の死刑を惜しいと思ったが国の命だから仕方がないと諦めている。
息子以下一族の子供達
孤児院に入れられた子供達の殆どは幼い故に親の記憶がなく、だからこそ国に怨みを持たなかった。その後はそれぞれ自分だけの人生を送ったが、誰一人自分の家について気にしなかった。
因みに令嬢の息子は三歳の頃強力な魔力を持っている事が分かり、その後魔術師の中で一番実力がある男の元へ養子となる、
その養父の傍らにはあまり身体が丈夫ではない妻がいたが、彼は奥方を実の母の様に慕った。
看守
登場しなかったが、彼は先代の弟の隠し子――つまり陛下の従兄弟である。
魔術師としての才もあったが、面倒事を嫌い凶悪犯や政治犯達を専門の看守長となる。令嬢に関しては『平民だったら幸せになれただろうに』と憐れんだ。
彼の結界を必死に壊そうとした魔術師長を気にいり、彼にある禁術を教える。
魔術師長は処刑された令嬢の魂と髪の毛を手に入れ、禁術であったホムンクルスを作り上げる。ホムンクルスを作るのは不可能と言われているが看守に詳しい作り方を教えられたお陰で、三年で作り上げる。
対価として令嬢の殆どの記憶を失う事と自分の寿命の半分をホムンクルスに与えた。