行方
俺はたった今人を殺してきたのだった。そ
れから夜の街を駆け回り、路地裏に彷徨いこ
み、闇と霧と都市の排水にまみれながらいつ
しか地面に臥せっていた。
アスファルトは冷えて心地よかった。火照
った頭が湯気を立てて冷却されてゆく。背中
に降りかかる重力が俺を大地へと押し付ける。
吐き捨てられたガムのような気分だ。なにし
ろ俺にはどこにも行き場がないのだ。
その時目の前を一匹のネズミが通り過ぎた。
俺は知らず這いつくばってそのネズミを追い
かけた。ネズミは蓋のずれたマンホールの穴
に入って消える。俺は誘われるようにして蓋
を押しのけて梯子を伝い、底に降りてゆく。
バカな。俺ははっと気がついて丸く切り取
られた小さな空を見上げた。この街の星空は
これ程綺麗だったのか? 梯子を降りながら、
時折遠い夜空を見上げ、闇が深くなるにつれ
星が輝きを増すのを知った。そしていつしか、
街は闇に浮かぶ一点の光へと変わっていた。