ミッション8 『令嬢・タチバナ』
帰りの車の中はパンパンであった。デパートに拠り頼まれていた買い物を済ました三人は車に乗り込み帰る事にする。
運転はヤマトで助手席にカグラは変わらず、行きと違うすれば後部座席には大きさが百五十cm以上ある巨大なブラックパンダーとホワイトパンダーのぬいぐるみ、間に埋もれるように向日葵が座り寝ている。
ルームミラーで確認するカグラ、その顔が満面の笑みを浮かべていた。
「気持ち悪いぞ」
運転しているヤマトがチラリとカグラを見ると言い放つ。
「なっ、良いじゃない人がどんな顔をしてようが。可愛い物を見ると皆あんな顔になるのよっ、にしても初めて知ったんだけどロボでも寝るのね」
「オートマチックドールだ。マックス爺さんが作った最高傑作だから人並みの事は出来る、むしろそれ以上を期待すると出来ない事が多いと本人は言っている」
「私良く知らないだけど、そのおーとまちっくどーるって実は沢山いるの? 私初めて見たんだけど……」
ヤマトは運転をしながらカグラへと答える。
「居ないだろうな、俺に言わせれば情報の危機管理がないがな、世界的にばれると人体実験、いやこの場合はオートマチックドール実験の対象になるだろう、本人は最悪は自分で活動を止める事が出来るとは言っているか」
「ふーん……、あっあそこに人とトラックっ」
大声を上げて車の外を指をさすカグラ、大型のトラックが横向きに道を塞いでいた。
道路には若い女性と男数人が止まれと手で合図をしていた。
徐々にスピードを緩めるヤマト。女性達の前で止まると窓から顔をだす。
ヤマトに女性が話しかけた。
「はーい、ボーイごめん。ご覧の通り車が事故っちゃってね、出来れば別の道に行って貰えると嬉しいんだけど」
「今から迂回すると目的地に数時間は掛かる。救援は呼んだのか?」
「さっき呼んだばっかりだから、一、ニ時間って所」
「ふむ。ならば待とう。カグラも問題あるまい」
車内のカグラに確認するヤマト、カグラも『そうね』と頷いた。
後から来る救援の車に邪魔にならないように車を端に止め外にでるヤマト、遠くから女性がドリンクを袋に入れて持ってくる。
「はーい。お詫びのつもり何だけど飲んで、アタシは京子。アンタ達は」
「ヤマトだ」
助手席からカグラも降りてくる、袋に入ったドリンクを貰い、オレンジと書かれている缶を一つ取り出すと口を開ける。
「私がカグラ、で車で寝ているのか……」
「わっふ。向日葵さんね」
「えっ知り合いっ」
「なんていうか。奇遇だねぇ。ついさっき別れたばっかりさ。ほら、あのトラックあれに向日葵ちゃんから買った軽量エンジンを積んでるのさ」
車輪が脱輪し救援を待つトラックを指差す京子。ポンと手を打つカグラは京子を指差す。
「あっ今度開催される二十億のレーサーって」
「アハハ。何か混ざってるね、総額二十億ルピが賞金だね。一位は七億ルピぐらいよ、一応アタシはそのレーサーでね」
「それでも七億」
確認するように指を数えて数えるカグラ。何回も指をおり七本目を見ては呟いてる。
「そ、だから誰よりも早い船を作らないとね。この事故で壊れてなければいいんだけど……あんた達も船乗りなんだろ? この道の先は基本ドックしかないからね」
「ええ、まぁ……」
「倒産寸前の運搬会社だ」
ヤマトがはっきりと京子に伝えると、ヤマトの足にローキックを放つカグラ。その光景を見て思わず笑う京子。
「まだ倒産してないわよっ」
「アハハ、面白いね君達。今度何か運搬する時は頼む事にするよ。これアタシの連絡先」
名刺を差し出す京子に、カグラも慌てて名詞入れから会社の名刺を差し出す。
「運搬会社ノーチラスか、うん覚えたよ。っと、救援が着たみたい、んじゃさっさと道を開けるからちょっとまっててねー。じゃぁね」
片手を振りながら救援に来た大型車へと走り去る京子を見送る二人。
「七億かぁ」
「出るのか?」
「いやいやいや、ウチは普通の、普通の運搬会社よ。そ、そんなレースだなんて……」
ブツブツと言っているが興味津々なのはヤマトから見ても明らかだった。事実だけを述べるヤマト。
「強攻試験型艦YR―20145、強度、スピードならそこらの艦よりも速いだろう」
「ほ、本当?」
「ああ、さて帰るぞ。道が開いた」
さっさと運転席に戻るヤマト、慌ててカグラも助手席へと乗り込んだ。
ノーチラスへと戻る三人。眠たいのか目を擦らせながらカグラと手を握り歩く向日葵。
船の廊下を歩く三人、大きく扉に『社長室』と書かれた扉を開け大声を出すカグラ。
「たっだいまー」
室内にはメイド服姿のカルメンが書類を見ながらデーター入力をしていた。
「お帰りなさいお嬢様、一応ノックはしてください」
「ご、ごめん。それよりも。はい、お土産」
後ろについて歩いていたヤマトが巨大なブラックパンダーマンぬいぐるみをカルメンへと手渡す。
「あの、お嬢様。嬉しいのですが、その子は?」
「ふむ、宜しくじゃ」
「いやね。ちょっと聞いてよカルメンー」
事の起こりを簡単に説明するカグラ、その間もカルメンはぬいぐるみからは手を離さないで聞いている。
「社長おかえりな……ふええ」
勢い良く社長室に入ってきたマリーはヤマトの姿を見ると扉の影へと隠れる。
「お、おかえりなさいヤマトさん」
「ああ。受け取れ」
「ふええ、なんで、あっ。ありがとうございます」
ホワイトパンダーマンのぬいぐるみを渡されて、その背中に隠れるように身体を密着しながら部屋へと入るマリー。
向日葵の存在に気づくとカグラに、
「社長のお子さんですか」
と聞き出した。
「なんでよっ。私の年齢でこんなに大きな子が居たらおかしいでしょ。そんなに老けてないわよ」
「じゃぁ、カルメンさ」
マリーが最後まで喋る前にディスクの上にコーヒーカップを叩きつけるカルメン。割れてないのが奇跡に思える。慌ててマリーが矛先を変える。
「んじゃないですね。ヤマトさんの妹さんですか?」
「そうだな、そんな所だと言いたいが、昔の知り合いの恋人だ。エンジニアとして売り込みに来た」
「どちらかと言えばヤマ坊の保護者かのー……」
「可愛いらしい恋人さんですね、わたしはマリー。お嬢ちゃんは?」
マリーと向日葵が自己紹介し合っている間にカルメンへと両手を合わせ拝みこむ、手早く事情を説明し始めたカグラ。
身振り手振りで説明をし始め、その説明にマリーが驚いて向日葵をみる、向日葵は『ほれ』と言っては手首を取りマリーに手渡して見せたりし始めた。最後は拝み倒すように両手を合わせてカルメンへとお願いするカグラ。
大きく溜息を付くと微笑む。小さくしゃがんでは向日葵へと握手を求めるカルメン。
「どの道それしか方法が無いのなら仕方がありません。顔を上げてくださいお嬢様、よろしくお願いします向日葵様」
「此方こそじゃ」