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ミッション7 『旧友の趣味』

 仏壇の前で手を合わせるカグラとヤマト、場所は先ほどの裏口から入ったマックスの家。今では向日葵一人で暮らしているせいもあって荷物は少ない。

 二人の後ろではお茶を入れている向日葵。二人が黙祷を捧げるのを終わると話を続ける。


「間が悪いヤマ坊。マックスが死んでから残した借金を返済するのに順番に物を売って生活してたんじゃ、ほら。もう何もないじゃろ」


 向日葵の言うとおり開き棚はあるが商品が乗っていない。あるのは設計図や未完製品と思われる物ばかりだった。


「それに後一日、いいや半日でも早ければのー」

「は、早ければあったのっ!?」


 思わず身を乗り出すカグラに、短く頷く向日葵。


「ああ見えて、マックスは評判良かったからの。丁度今朝に重力空間ユニットと軽量エンジンシステムを買いに来た人に売ったのじゃ、お主らの惑星空間レースにでるのじゃな?」

「なんだそれは?」


 聞きなれない言葉に聞き返すヤマト、隣のカグラも答えは知っておらず向日葵を見ている。



「商品を買いに来た。嬢ちゃんが言っておったぞ、どーしてもこのエンジンが欲しいと。何処で知ったのかこんな小さな店までご苦労なこったのじゃ。しかし、賞金総額二十億と言っておったからのー無理はあるまい」

「優勝でっご、二十億っ!」

「お主聞いておったか? 総額じゃ」

「いや、俺達は惑星間の宅配便だ」


 ヤマトの横では一人二十億、二十億と呟いているカグラがいる。返事をしない代わりにヤマトが向日葵の問いに答えた。


「なぬ、お主ら惑星間の宅配便なのに重力ユニットを買い付けに来たのか? 宇宙船なら標準のはずじゃが……」

「中古らしくてな格安の品物を買ったら付いていなかった、それで正規品を買う資金も無く此処に来たわけだ。だが結局は無理だったな、よしカグラ。素直に廃業の手続きをするか水上運搬に切り替えるべきだな」


 廃業というヤマトの言葉を聞き顔を上げるカグラ。ヤマトの襟首を掴むと力いっぱい前後に揺らす。


「もう進むしかないのよっ、従業員も雇ってるし保険も入った登録手続きも済ましたし、今から廃業の手続きしたら違約金の借金だけが残るじゃないのっ、それに水上運搬と宇宙運搬じゃ単価が違うのよ単価が。その差三十倍よっ」

「何度も言うが俺に言われてもな」


 二人の漫才を横目に、顎に手を当て何かを考えている向日葵。気づいたヤマトが質問をする。


「何か手はあるのか?」

「えっ、何か手があるの? 本当にっ」


 藁をもすがる勢いでカグラも小さな向日葵の顔を見る。


「折角のヤマ坊の頼みだし。知り合いに重力ユニットが余っていないか聞いてみるのじゃ、嬢ちゃん設計図は何処じゃ」

「本当っ、エンジンユニットの規格があるから持って来てる、まってね」


 鞄から印刷されたエンジン部分の設計図と船全体のデーターが入ったメモリーを向日葵に渡す。

 メモリーを小型の機械に取り付けると小さな画面には船の分離図が現れる。設計図と共にそのデーターを真剣に見入る向日葵。


「YR―20145型、ほう……運命かのう」

「何がだ?」


 向日葵は嬉しそうな声をあげ背後でモニターを見ている二人に振り返る。


「ふむ。この艦の重力空間ユニットなら何とかしよう」

「本当っ! 売っている場所があるのね、其処を是非紹介してっ」

「ちがう。この船はレアな艦だから普通の重力空間ユニットは規格外なんじゃ、市場には出た事がない、いや出る事はあるまい」


 市場に出ない、特注品。既に道は閉ざされて来ている、何とか成るかもと期待を込めた分、諦めきれないカグラは質問を続けた。


「え、じゃあ何とかって?」

「この艦の奴ならワシが作れる」

「は?」


 作れる、と聞いて思わず口を開けて間抜けな顔をしていた。みっともない顔をしていたと気づいたカグラは慌てて口を閉じ二人を見た。

 一人納得の行かないカグラを他所にヤマト達は話を続ける。

 

「ふむ。いけそうか?」

「うむ。そもそもこの沈没艦を再びレストアしたのはマックスとワシじゃ、重力空間ユニットを取ったのもその時じゃ。依頼主に頼まれたからのー、無造作に宇宙に飛び立たないようにと」

「ちょっとまったああ」


 ヤマトが『またか?』という顔で振り返る。控えめに手を上げいるカグラが其処に居た。

 

「あのー作れるって向日葵ちゃんみたいな子供が?」

「子供か……まぁ見てくれはそうじゃの。うむ、ワシが作る」

「あのね、いくらお爺さんが凄い人だったからと言って、年端も行かない子供が大型船のエンジンを作るって言っても」

「この船は割りと小型じゃ。大型になると流石にワシでも無理……でもないが手はかかるのう」


 夏休みの自由研究の話をしている兄妹みたいな二人、しかし作る物といえば重力ユニットである。

 そもそも重力ユニットとは人類が宇宙に出るようになり数百年、ある科学者が真空状態で発動する片面の重力装置を作った事が切っ掛けである。

 改良に改良を重ねられ重力の小さい月や火星でも地球と同じ用に生活出来るのはそのユニットのおかげである。

 日曜大工のように簡単に作れる品物ではなく、正規ルートで数千万。今回みたいな闇ルートもとい、個人販売ですら数百万の品物だ。


「いけるのか?」

「うん。どうするの、ヤマ坊」

「最終決定権は社長であるカグラにある、どうする?」

「なんで二人ともそんなに自信たっぷりなのよ」

「あ、そうか……ヤマ坊。嬢ちゃんは事情を知らないのじゃな、ほれ」


 一声終わると、向日葵は自信の頭を両腕で掴むとぐるっと三周ほどまわす。ポロンと頭が抜けると膝のうえにおいて喋る。


「ワシはマックスが全盛期に作りあげた最初で最後のオートマチックドールだからじゃの」

「ああ見えて、マックス爺さんが若い時に作ったらしいから年齢で言えば六十年以上立つぞ」


 子供の首が三週ほど回った事により顔が青くなるカグラ、そしてその頭部が向日葵の膝の上でカグラを見ている。口をパクパクさせてやっとの事喋りはじめる。


「ロ、ロボ」

「カグラ、オートマチックドールだ、ロボではない」

「お、同じじゃないの?」


 青ざめる顔でカグラはヤマトに喋りかける。全自動ロボ、数ある技術者が開発に乗り込んだが未だ成功例は無く。どうしても人間のようには動かない、やはり決められた事しか出来ないはずだった。しかし二人の目の前の向日葵は人間と変わらない仕草である。

 ヤマトが力強くカグラに説明し始めた。


「違う、そもそもロボは決められた事しか出来ない物であって、向日葵は全部自分で考え行動する人間と変わらない、いや人間以上だ。外見だってマックス爺さんが若い時に亡くした幼馴染をモチーフしてだな」


 喋る途中のヤマトを手で制する向日葵。


「まぁ知らない人間が見ればどっちも同じじゃ」

「そ、そりゃ欲しいけど、大丈夫なの……」

「カグラあんまり疑うのは良くないし失礼に値する」


 ヤマトが淡々と事実を述べると赤くなるカグラ。向日葵は既に頭部を首に付けて三回転ほど回し始めその首をつけている。


「ごめんっいいえ、ごめんなさい。そ、それじゃ頼んでもいいかしら。材料費はこのカードに入っている分しかないけど足りる」


 此処に来る前にカルメンから預かってきた会社の運営資金が入ったカードだ。

 残金はおよそ四百万ルピ、それを机の上に置くと向日葵の方向へ差し出す。小さく首を振る向日葵、カードを押し戻して一つ困った顔をする。


「そうじゃのー。今更金など受け取ってもワシには使い道が余りないからのー。マックスの借金も返し終わったし。最後の仕事と思って任せるのじゃ」

「あの……最後って?」


 カグラが心配そうな顔で向日葵に質問をする。


「ふむ、此処を引き払って世界を回って最後はマックスの記憶と共に何処かで朽ち果てようかと思ってじゃな」

「朽ち果てるって……」

「そうじゃ。活動停止、そもそもマックスがワシを作ったのに先に逝くとは何事じゃ。残されたワシはもう必要とされてないからの」

「そ、そんな。ダメよっ。そうだっ。ならウチに来てよっ、エンジニアとして。エンジンユニット組むのにも此処より船の方がいいでしょ?」


 腕を組んで考える向日葵、とても機械には見えなく悩んでいる。カグラの隣にいるヤマトへと目線を合わせると確認をした。


「いいのか、ヤマ坊」

「言いも悪いも雇い主は俺ではない」


 ヤマトに確認をとった向日葵は、カグラに向き直り三つ指を着く。


「ふむ、ではこのワシを宜しくたのむのじゃ」

「何処かの厄病神と違ってなんて可愛いのよ。大好きな人の思いを胸に、こういう話に弱いよの。もうお姉さん感動」


 抱き締めるカグラにバタバタと手足を動かす向日葵。


「うわ、苦しいぞよ。それにワシのほうが長生き、くる……」


 ふと抱き締めていたはずのカグラの顔が真顔になる。それを見ていたヤマトと目が合うと次に抱き締めている向日葵を見る。


「どうした?」

「え、いや。ちょっとした疑問なんだけど、マックス爺さんって人は向日葵を作ったのよね」

「ああ」

「向日葵はマックス爺さんの幼馴染、つまり思い人って事よね。それで一緒に暮らしていたんだし二人はその……愛し合っていた。そのつまりマックス爺さんって人って重度のロリコン?」


 それまで黙って話を聞いていたヤマトが無言で立ち上がると玄関へと歩き出す。抱き締めていたはずの向日葵も『さてと』とカグラから抜け出すと小走りに玄関へと向かっていった。


「ほら、カグラ行くぞ、頼まれていた物を買いに行かないと日が暮れてしまう」

「カグラ嬢ちゃん世の中には秘密が多いのじゃ」


 質問に一切答えない二人は早々に靴を履きだす。


「まって。直ぐ行くってばっ……やっぱし」


 後半は言い聞かせるように呟くカグラであった。


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