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ミッション4 『何にもない』

 『さてと』と掛け声をかけ車から降りるカグラ、ヤマトもそれに続く。

 大きな倉庫と思われていたのは海岸にあるドックであり、巨大な白い塊が海面に浮んでいた。全長百五十五メートル、高さ四十メートル。先端は弾丸のように丸みを帯びており、折りたたんだ翼が特徴的であった。


「これは……、色は違うがYR―20145型。試験宇宙艦」

「あれ知ってるの? カタログでは民間の試作機な筈なんだけど私が最後のお金で買った大きな買い物よっ!」


 後ろではハンカチで目を軽く押さえているカルメン、実際は涙など流しておらず芝居をしている。ヤマトが振り向くとカルメンは説明をしてくれた。


「お嬢様の家は没落したのです」

「ま、まだ没落してないもんっ、軍人の名前を使った詐欺にあったせいよっ。レア鉱石の権利書を高値で引き取るって預けたのに二束三文で横流しして悪びれもしない、次はお金が無くなったら使用人所がペットのシロでさえ私達の前から居なくなる始末。金輪際軍人という人間は信用しない事するわっ」

「お嬢様……」

「でもカルメンは最後まで付いて来てくれたじゃない。これからバンバン稼ぐわよっ」

 

 大きく手を上げて指を挿すカグラ。その横では納得の云っていないヤマトが居た。


「しかし、俺の記憶では沈んだはず」


 それに気づいたカグラがヤマトの独り言に応える。


「そう。別の船と間違えてない? 普通に売ってたわよ。掘り出し物でお値段なんと三千万ルピ」


 一般の平均年収が四百万、通常の宇宙船が一隻二億以上する中、破格の値段である。

 

「そのワイアールなんちゃらかんちゃらってどんな船だったの?」

「当時、月で作られた突撃軍用艦だ、新型エンジンと特殊装甲を使い体当たりをする為に作られた船であったが自動操縦の不具合の為に地球上の海に沈んだ船だ」

「やけに詳しいわね、ヤマト、貴方の前職はなんなのよ……」

「軍人だ」

「…………」


 ヤマトの前職を聞いて思わず黙るカグラに、妙に納得するカルメン。


「なるほど、それで……」

「それで、何が問題あるのか?」

「いいえ、特に、お嬢様さえ良ければ」


 カルメンの問いに肯定も否定もせずに真っ直ぐに宇宙船を見つめるヤマト、カグラは溜息を付いた後『まぁいいわ、拾っちゃったんし』と首を振りヤマトの背中を軽く叩く。


「今は猫の手も借りたいぐらいに人手不足なのよ、所で安月給でも良いかしら」

 

 上目遣いに聞いてくるカグラに仏頂面のヤマトは頷く。


「元より高い給金は望んで居ない、住む場所と食べる場所が在ればそれで良い」

「案外欲が無いのね、いやーさすが私が拾った人物なのね。さて、我が社に案内しましょうか」


 海面に浮いている船へ自動で繋がる桟橋、三人が乗ると船の中へと折りたたまれていく。

 薄暗い廊下に光が伴っていく、カレンを先頭にヤマトにカルメンと廊下へと歩いてく。大きな扉の前付くと自動で扉が開きブリッジが見渡せた。

 二層に別れておりカグラ達が居るのは二層目の艦長席。豪華な椅子に、その前方には緊急時に船を動かす円形の舵。眼下には各船員が操作するための複数の席が並んでいる。


「どうっ凄いでしょ!」

「ブリッジはどの船も似たようなもんだ、少し触るぞ。現状の使える設備を知りたい」

「別にいいけど」


 自信満々の笑みで二人に話すカグラ。ヤマトは目を細め艦長席の横にある機械を作動させる。小さいモニターには船全体の骨組みが映っており各場所に何があるのか映し出されてる。

 食堂、社長室、各社員の部屋に大浴場やトレーニングルーム。割と小さい倉庫など。ボタンを押しながら画面を切り替えるヤマト。


「なるほどな。これは凄い」

「でしょ、でしょっ」

「所でカグラ。この船で宇宙運送会社をしようとしていくんだったな?」

「え、うん。そうだけど? 主に月と地球の往復ね。あわよくば火星まで行っちゃったりして」

「此処を見てみろ」


 ヤマトが機械を操作すると巨大な立体スクリーンが現れる、先ほどの小さい画面から映し出された骨組み、次にヤマトが操作すると色が変わっていく。

 意たる所が赤くバツ印が付いており、それを見たカグラが不安そうになる。


「殆どが赤いじゃないっ」

「安心しろ殆どが武装の在った場所だ、無くても問題ない。在った方が困る、この国は武器の持ち込みは禁止なんだろ?」

「そーなんだけど……あれ、ヤマトあんた銃もってなかった?」

「でだ、この部分が無い」


 質問には答えないでキーを操作する。

 赤い部分の一部を青い表示にさせた、ヤマトが説明を続ける。


「何か足りないの?」

「ああ、エンジンユニットが無い」

「なーんだ、そんな事エンジンかー、って何でエンジンが無いのよっ! エンジンよエンジン。乗り物に必須じゃないのよっ。そもそもどうやって此処に来てるのよ、エンジンが無かったら、ただの箱じゃないのよ」


 普通のテンションから急にテンションを上げてまくし立てるカグラ、ヤマトに食って掛かった。


「俺に言われても困る。何、無いのは宇宙用パーツだけだな数千万ルピも在れば足りるだろう。そもそも値段の時点で気づくべきだ」

「そっかー数千万で足りるのねってあるわけ無いじゃないっ! あんた今までの話聞いてたのっ。最初で最後の大きな買い物って言ったじゃない。普通気づかないわよっ此処まで数回しか乗ってないんだし、内部改装してまだ宇宙、いいえドックから出た事ないわよ」

「出る前で良かったな。宇宙に打ち上げた瞬間航法不能な貨物船じゃ目も当てられないだろう」


 カグラは後ろを振り向く。先ほどから話を聞いていたカルメンが突然振り向かれたにも関わらず冷静な顔であった。


「カルメンっ」

「はい」

「口座の残高はっ」

「そうですね、少々お待ちを」


 ヤマトの横に立ち、端末を操作する。巨大なモニターに惑星銀行の文字が浮かび上がる、幾つかのパスワードを入れて出た最終画面には数字が浮んでいた。


「当座の運営費と生活費もあるので四百万ルピほどですね」

「見なさいよっ! 足りないじゃない、どーすんのよ」

「だから、俺に言われても困るのだが。当ては無いのか?」

「あるわけ無いでしょっ! あんたは在るのっ無いでしょっ」

「あるぞ」

「ほら見なさい、無いんで。え……あるの?」

「ああ」


 短く応えるヤマトに驚いた顔をするカグラ。隣のカルメンでさえ冷徹な顔を保ってはいるが目大きく見開いている。


「三百万も在れば足りるだろう。ただ、先に言っておく。普通のルートではないぞ」

「うっ」


 カグラが苦虫を潰した顔をしている。正規ルートであれば数千万のユニットが三百万誰かどう見ても怪しさ抜群である。

 一方ヤマトのほうは別にエンジンなんか無くても構わないだろうみたいな顔をしておりカグラの気を逆撫でさせる。


「一応聞くけど……この船が、いいえ。私の事業が失敗したらヤマトはどうするの?」

「俺か? 転職しかあるまい、なに。事が事だ退職金の請求は少なくしてやろう」

「こ、このっ」


 突然両手を振り上げるカグラにカルメンが後ろから破壊締めにした。

 

「ダメです、お嬢様っ従業員に手を上げてはっ慰謝料を取られます」

「離してっ、この疫病神を殴らせてっ関わったばっかりに不幸が押し寄せてくるのよっ最初は不良に絡まれる、次は警察での長時間の拘束、さらにエンジン問題と最後は退職金までっ」

「一つ言っておくが。俺に関係なくエンジンユニットは無かったわけで関わる関わらないと結果は変わらない、むしろ解決策を持ってくるだけいいと思わないか?」


 挑発する積もりもないのだろうが淡々と喋るヤマトに余計に赤くなるカグラ。


「なーぐーらーせーてー」


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