ミッション32 『レース場の罠、そして……』
中継ステーションを出発してから早二週間地図を見ると次の目的は火星の衛星軌道上にあるE中継地点である。
現在火星では人の住める場所は少なく七つのドームを使い生活をしていた、街のあるドームと真裏のE地点近くには時間によっては磁場嵐もあり通信が不可能になる。
それを回避する為に地図には入っていい時間が書かれていた。
「社長。磁場嵐予定時刻まであと九時間です突入しますか?」
「九時間もあれば中継地点に付くでしょう行きましょう」
「はーい」
大気圏近くをモニターを見ながら操縦するカグラ。少しは操縦になれたほうが良いでしょうとカルメンの言葉を受けてモニターを見ながら操縦していた。
「お嬢様中々旨いですね」
「ほ、本当っ」
「ええっ」
褒めるカルメンに気分を良くするカグラは鼻歌交じりに操縦する。ヤマトが溜息と共に注意する。
「周りのレーダーもちゃんと見てくれ隕石にでもぶつかったら大事だ」
「何よ、人が折角……そうそう訓練みたくぶつかって来ないわよっ」
船体が激しくゆれた。操縦桿を握ったまま転ぶカグラ、船が真っ逆さまに火星へと突っ込んでいく。
カルメンが素早く自動操縦のボタンを押し、船を水平へと持っていく。直ぐにブリッジ二階にあがり操縦桿をカグラの変わりに持ちかえた。
「なに、なにっ。下から隕石がっ」
「下は火星だ。隕石ではない」
慌てるカグラに事実を述べるヤマト、レーダーを監視していたマリーが悲鳴のような声をあげる。
「社長、クラークさんの船ですっ」
レーダーには映らなくメインモニターでの肉眼で発見するクラークの船、ノーチラスと似ているが、その船は黒く塗られていた。
「いたわね……って事はこの衝撃って」
「レーダーに反応。う、撃ってきますっ」
クラークの乗っている船から幾つかのミサイルが発射された。レーダーには赤くロックオンをされたと警告の文字が出始める。
「ちょっと行き成りっ回避してっ」
「緊急回避します」
慌てるカルメンが操縦桿を急速に回転させる。火星圏の重力に引かれているノーチラスは船が大きく傾きヤマトとカルメン意外は必死に椅子に捕まる。
ミサイルはノーチラスを掠めて火星の大気圏で爆発した。
「なるほどな。火星の裏側は唯一死角になっている場所だ。偶然クラークの船が発見したんじゃなくて、ここで俺達を始末するつもりで待っていたんだろう。ポイントEが見当たらないのもわかる」
「そんな事より、通信開いてっ。京子さん達に連絡、マリーちゃん」
「恐らくは……」
呟くヤマトにマリーが悲痛な声をあげてくる。
「高距離通信、磁場により不能ですっ」
「磁場の起きる時間もでたらめだろう、安全時間が入っては居ない時間だったな」
サブモニターに艦内通信が入った。直ぐに向日葵の顔が映し出される。
「なんじゃ、今の揺れは。エンジンがこわれるぞい。お掛けでワシも頭を打ったのじゃ」
「こちらヤマトだ、敵が現れた」
「ふむ……わかったのじゃ。多少のエンジンの無理は任せるのじゃ」
通信を切る向日葵、カグラの顔をみる。
「第二派来ます」
「避けてっ」
船体に衝撃音が走った。ブリッジの照明が赤くなりアラームが鳴り響く。何発かが当り船全体に二度目の衝撃が走る。
「ダメですお嬢様、緊急艇もしくは不時着しましょうっ」
カルメンがカグラに向って叫ぶ。船に積まれている緊急用のダッシュポットで中には薬など二週間は生き延びる事ができる品物だ。
「そ、そうするしかないっ。マリーちゃん自動操縦に切り替えて退避するわよ」
「艦長、自動操縦切り替わりませんっ」
「お嬢様お逃げください」
叫ぶマリーに淡々と話すカルメン。カグラは揺れる船体の中カルメンを見つめる。
「カルメンはどーするのよっ」
「私でしたらご心配なく、後で追いかけますので」
追いかけると言っても自動操縦が壊れた今、誰かか操縦をしないと墜落する船であるカルメンが後から追いかけるのは不可能だ。
「ダメダメダメー」
「しかしお嬢様、このままでは墜落します全員が死亡します」
「だからと言ってねっととっと。置いていける訳ないじゃない」
「ですから、後から追いけると」
喋りながらも対艦レーザーを撃って来るクラークの船、メインモニターに負傷した部分が移されて行く。
「そうだ、ヤマト。何か無いのっ」
「ふむ、無い事は無いがいいのか」
「…………」
急に無言になるカグラ。諦めたように溜息を付き始める。
「そうね。思えばヤマトに頼んだら変な方向にしか行かない気がするけど。命あっての物だし、どうせ旨く行っても船が大破とかんなんでしょ」
「良くわかったな」
「本当にそうなのねっ。いいわ。どんなに成ってもまたやり直せばいいんだから」
カグラとヤマトはアラームが鳴る中で見つめあう。
「お嬢様っ見詰め合うのはいいですけど落ちますっ」
「ヤマトさーん。対艦ミサイル四発確認されましたっ、私人間治すのは出来ても船は直せないんですーっ」
慌てて目をそらす二人、少しだけ顔の赤いヤマトは操縦幹を渡せとカルメンと交代し始める。
直ぐにサブモニターのスイッチを押して向日葵を呼び出す。
「こちらヤマト。エンジンはどうだ」
「ふむ。ヤマトか、どうもこうもあるまい悲鳴をあげてるじゃよ。出力はMAXの六十%って所かの」
「限界解除は出来るか?」
「出来ない事もないのじゃが、どうするのじゃ?」
眉を潜める向日葵、通信が乱れモニターに砂嵐が混じる。
「まずはミサイルを振り切る、あと持ち場を離れシートベルトを頼む。少々荒っぽくなるんでな」
「了解したのじゃ」
「カグラっ」
真剣な目でカグラを呼ぶと赤い顔のカグラは返事をする、ヤマトは続けて手短に話す。
「全員にベルト着用をっ」
「わ、わかった、全員ベルト着用っ」
「此処まで近いんです聞えてます、後はお嬢様だけです」
カルメンもマリーも既に席に座りベルトを締めている。慌ててカグラも腰のベルトを締めた。横目で確認したヤマトはマリーにミサイル到着までの時間を聞いた。
「ミサイル到着まで後数秒です」
「了解した」
マリーの報告に短く答えるヤマトは操縦桿を引く。船の先端が段々と上昇されていき船全体が縦になっていく。
「なっな……宇宙に逃げるのっ?」
「いや、ただの旋回だ」
大きな弧を描くように宙返りするノーチラス、クラークの放ったミサイルでは火星の重力に捕まり成層圏で爆発した。それをモニターで確認しながらヤマトはノーチラスを旋回し続ける。
サブモニターから向日葵の通信が入った。
「エンジンこのままでは臨界点突破するぞい」
「大丈夫だ。あと少し持つはずだ、もう少しスピードを出すぞっ」
百八十度回転したノーチラス、その船に数度目の衝撃が走る。マリーがカグラへと報告しはじめる。
「相手艦から緊急通信、艦が近いので割り込み通信です。社長ど、どうしましょう」
「開いてみて」
メインモニターに頭を押さえているクラークの顔が映った。
「おい、ヤマト離れろっ」
モニター越しに喋りかけてくるクラーク。
「隊長、いえ。クラーク殿それは出来ません、運搬用アームで船をロックしました。このまま火星まで御付き合いお願いします」
「たっく……おや、皆さん怖い顔をしてどうなされました?」
ヤマトに話しかける時は違い紳士的に話すクラーク。その視線はヤマトに背後に居るカグラやカルメン、マリーの顔を見ていた。マリーが小さく『かっこいい人……』と呟いている意外は睨みつける顔をしている。
「クラークさん……どうして」
「仕事ですからなー。例えばです貴方方だって荷物の運搬を頼まれたら送りますな、それと同じです」
「で、でも沢山の人が死ぬんじゃ」
「それも、仕事です。自分の仕事はこの船をゴールさせる事、次に問題となる船を排除する事、この二つです」
紳士的に対応するモニター越しのクラーク。ヤマトはペダルを踏み込み火星へとクラークの船事高度を下げていく。
「しかし、どっちも失敗ですクラーク隊長、船が潰れる前に投降してください」
「元だろ、元隊長だな。確かに作戦は失敗だ、しかし投降はしない、それにヤマト。自分がこの回線を開いた意味を知ってるか? こっちは、そっちの船の改良型だぞ、つまりはただの時間稼ぎだ、今からじゃどんなに頑張ってもオレに追いつけないからな」
「なっ」
突然通信が切れると船体が激しくゆれた。ヤマト起がモニターを見つめる中クラークの船の先端が取れる。ブリッジ部分だけか小型の船になり視界から消えていく船。
残されたノーチラスの面々はその光景を黙って見つめるしかできなかった。
ブリッジの扉が開く、向日葵が入ってくるとヤマト達をみる。
「なんじゃなんじゃ。そんな顔して、してどうなるんじゃ? エンジンは焼き付いたぞ、あと二時間ぐらいで止まるぞい」
「うわー……なんていうか、逃げられたわね」
カグラが明るい声で笑い出す。カルメンもその姿を観て注意をするが何故か口元が緩んでいる。
「お嬢様っ、そんなに笑ってどうする積もりですか、ヤマトさん着陸はもちろん出来るんでしょうね」
「ああ、出来るとも」
「社長ー疲れましたーこれってボーナス出るんですか?」
ヤマトも普段見せない笑顔で自信たっぷりに答える。普段あまり冗談を言わないマリーも笑ってカグラへと質問する。
「そうねーテロを事前に防いだんだもん、運営から報奨金でもでたらね」
「お嬢様、その前に船の修理ですね。その前に助けが来るかどうかです、目印も無い火星の裏側では見つけにくい事でしょうから」
「来るわよ。悪運だけは強いんだから」




