ミッション31 『チームワーク』
月面と火星を結ぶルート、そこに浮んでいる給油ドック。何十隻も同時に着艦できる宇宙ドックでは何隻もの宇宙船が停泊していた。
空いている場所に入るとモニターに通信がはいった。
『お疲れ様です。こちらGチェックポイント、此方では船乗りに大切な頭を鍛えてもらいます』
「それでしたらわたしが行きましょう」
メイド服で自信たっぷりなカルメンが名乗り出る。カグラと共に船を降りて数時間、船に緊急コールが入った。
ブリッジに待機していたマリーが慌てて通信回線を開く、そこには蒼白な顔のカグラが映っていた。
『あ、マリーちゃん? 急いで救急キットをもってきて、あと。ヤマト、そうヤマトもつれて来てっ』
一方的に喋ると通信が切れた。マリーは慌てて着替えるとヤマトを連れて会場であるロビーへと走った。
会場の入り口でおでこを押さえて寝ているカルメン。カグラが膝枕をしている。
「社長っ」
「マリーちゃん、こっち手当てを」
「で、ですからお嬢さ、だいじょうふれふ。こうみええもあたまはきたふええ」
舌が回ってないカルメンが手を振っているが誰の目にも大丈夫に見えない。
急いで手当てをしているマリーの側でヤマトがカグラに聞く。
「どうしたんだ」
「いあ、それが」
カグラが話し終わる前に会場のほうがから大きな拍手と歓声が起きる。直ぐに出入り口からマルケン兄弟が出てきた。
「おう、さっきのメイドじゃないか、何。暫く休むんだな」
「女神様じゃねえか……俺の勇姿を、こら引っ張るな」
「兄貴今はそんな暇はねえ急ぐぞ」
この場に留まりたい兄貴レッドを弟のブルーが引っ張って連れて行く、ヤマトが会場を覗いてい見ると無残に割られた瓦を係員が片付けている所だった。
ヤマトがカグラへと向き直る。カグラは既にヤマトを見ておらず手を合わせてヤマトを拝んでいた。
「そう、頭を使う競技だったのよ。頭のみで瓦を八十枚、パスしてもいいけど一枚に付きやっぱり八時間のペナルティ。カルメンはそれでも六十二枚までは割ってくれたんだけど……ヤマト、選手交代よ後は任せた。お願い」
若干引き気味なヤマトであったが、女性であるカグラにマリーそして倒れて手当てを受けているカルメンを見ると頷くしか他に無かった。
数時間後、ヤマトは頭のみで残り八十枚の瓦を割り切り、ペナルティはカルメンの兆戦分の六日間で済んだ。
怪我が治るも船の中で気落ちするカルメン。自信たっぷりに船を出てった分ショックは大きい、見かねたカグラがヤマトへと相談する事にした。
トレーニングルームで汗を流しているヤマト、隣でランニングマシーンを使っているカグラがヤマトと話すために走っていた。
「と、いう事なのよ。何か無いかな」
「ふむ。最近元気がないのはそのせいか。とはいっても此処は中継ステーションだ気晴らしに観光とうのも無いぞ」
「そうなのよねー」
中継ステーションにあるのは非常用の食料や水、それ以外は燃料と休憩できるホールしかなかった。現在はそのホールもレース会場の為に使用されていて気晴らしにはならないだろう。
「マリーちゃんに相談したら、『時間です』で、向日葵ちゃんに相談したら『酒じゃな』なのよ。んでヤマトはどうなのかなーって」
「どちらもいい案とは思う。俺としては何もかも忘れるほどトレーニングをするのが良いとは思うが、言った所で薦めないだろう」
「あー。確かに、こうやって身体動かしてると気持ちは良いわね、でも。今のカルメンじゃ……」
カグラは想像する、落ち込んだカルメンをトレーニング室へ連れてくると運動には付き合ってくれそうであるが乾いた笑顔で対応してくれる姿を。
ブンブンと頭を横にふり『ダメね』と呟く、賛同するようにヤマトも『だろうな』と返事をした後にさらに無言で走り出す。
「カルメン的に話せばだ」
ベンチブレスでブレスをあげているヤマトが隣で見ているカグラへと話かける。
「慰める好意というのは、それを押し付けた本人が自分に酔い快感に浸る自己満足だ。受けるほうは気分次第で惨めになるぞ、逆に嫌われる事もある」
「はー……考えてもいなかったわ」
暗い顔になるカグラ、ヤマトはチラリと顔をみると続けて喋る。
「だが。其処まで人の事を考えるのは悪い事ではないな、カルメンの好きな料理でも作ればいい」
上半身を起し隣で見ていたカグラの頭へ手で軽く叩くヤマト。驚いたカグラがヤマトへ聞き返す。
「もしかして、ヤマト。私を慰めてくれた?」
「さぁな。シャワー浴びてくる」
ヤマトは振り変える事なくトレーニング室を出て行く、残されたカグラは頭に手をあて一人にやけた顔をしていた。
ヤマトがシャワーを浴びてから数時間、夕食前に食堂へ向うと食堂から大声が聞えてきた。
「お嬢様っ! な、なにを」
「いやー色々考えた結果、何故だが知らないけどこうなったっ!」
狼狽するカルメンの声に自信たっぷりのカグラの声が聞えヤマトも食堂へと入っていく。そこには五段重ねのケーキ、並べられた日本酒、さらには誰の趣味なのかホラー映画が入った小型メモリーが並べられていた。
「あっヤマト」
「ヤマト様ですか、この入れ知恵は」
「な、ヤマトは関係ないわよ。私が色々考えた結果こうなったのよ」
「しかしですっ」
叫ぶ二人に溜息を付くヤマト。手を大きく上げるとカルメンへと振り下ろす、カルメンはその手を腕でガードし反対にヤマトの頬を勢い良く叩く。
余りの事に叫んでいたカグラも声を止め、叩いたカルメンも青い顔をしていた。
「す、すみませんヤマト様。条件反射でつい」
「いや、いい。気合の入ったビンタだったな。この結果は全部カルメン。お前が招いた事だ、酒は向日葵。ケーキはカグラ。ホラー映画は……マリーか?」
首を縦に振るカグラ。医者がホラー映画とかどうかなもんかと口に出しそうになったヤマトは口を閉じ別な事を言う。
「だそうだ。常に気を張る事もあるまい、失敗もある。俺はそう教わった、それでも考えるなら倒れるまで走ればいいだろう」
「ヤマト様、慰めてくれてるのですか?」
「さぁな。所でカグラ、流石に夕食がケーキだけじゃ辛いぞ。たまには俺も作ろう。カレーぐらいなら俺も作れる」
言い残すとさっさと厨房に入っていくヤマト。残ったカグラとカルメンは顔を見合わせ驚く。
「ウソウソっヤマトが作るのっ。私マリーちゃんに知らせてくるっ」
「それじゃわたしは向日葵様に連絡してきますっ」
バタバタと廊下に消えていくカグラの足音。残ったカルメンがもう一度ヤマトへと声をかけた。
気づいたヤマトがカルメンをカウンター越しにみた。
「色々とご心配かけました。お嬢様達に心配されるようじゃわたしもまだまだですね、それでは向日葵様を呼んで来ますっ」
ヤマトへ軍隊式の敬礼を初めて見せると廊下に消えていく足音。残されたヤマトは器用に材料を刻んでいった。




