ミッション30 『本戦からの本戦』
衛星起動上に浮ぶノーチラス、周りにはノーチラス意外の船も浮んでいた。
ブリッジ中で目の下を少し黒くしたカグラは船長席でぐったりしている。
「お嬢様、もうすぐ発進です」
手を上げてヒラヒラとふると疲れた目でカルメンを見るカグラ。カルメンは手動操縦席に立って後ろを見ている。
「了解、もう適当にスタートして……」
「随分疲れているな」
船長席の横にいるヤマトが疲れた顔のカグラをちらっと目視すると再び前を向く。前方のモニターには今か今かと発進しそうな船達が宇宙空間へと浮いている。
「そりゃね。免許取れたのは結局数時間前よ……昨日から殆ど寝てないし」
「ふむ。アレだけ落ちるのも珍しいと職員は言っていたな」
「最後は、このレースに出るからって頼み込んで頼み込んで、それでも三回やり直したわ……」
心配そうな顔でカグラを心配するカルメン。
「お嬢様、本当にスタートはわたしが発進していいのでしょうか? 免許を取ったいまお嬢様も立派な一級免許師です、記念すべき処女飛行を……」
手をパタパタと再度振り出すカグラ。
「大丈夫、大丈夫。それに……」
「そうだな、処女飛行で追突事故は洒落にならないからな」
もう横にいるヤマトを睨む力も残っていないカグラは、『そういうこと』ってぐったりしている。
「では。発進させて頂きます、序盤は迂回ルートを目指してBチェックポイントからEに回って残りを回る予定です」
「了解」
今回の本戦は決まったコースがない。地球から月、火星にあるチェックポイントで特定の競技をし、クリアした物からポイントを受け取り通過する。なので早さも重要であるが途中の競技ポイントも重要であり、序盤でレースが決まらないようになっていた。
各自何処を回っても好きな様になっている為、今回カグラ引き入るノーチラスは先に月を目指し最後に火星裏側をを通って地球に回るという迂回ルートになる。
一階にいるマリーが二階の操縦席へと通信内容を報告する。
「スタートまで残り三分です」
緊張の空気がブリッジに流れていく。画面に映し出された3:00の文字カウントが秒刻みで減っていくさらにランプが赤から黄色に変わり0:00になった瞬間にアクセルを踏み込むカルメン。
他の船も同様で艦隊が一斉に動き出した。
サブモニターではレース開始を中継で写している映像が流れていた。現状は月面へ向う船の中では一位を保っているノーチラス。そのモニターを眺めるカグラ。隣のヤマトへ質問する。
「クラークさんの船はどこ?」
「周りには居ないな。直接火星に向ったのかもしれんな」
「取りあえず何としても何かを阻止したいわね」
結局は打開案はきまらず、レースをしながら動向を探りわかり次第京子を通じて運営に連絡する事にしたカグラ達。これは先に行動を起すと身を潜める場合や先走り他の事を心配するカルメンやヤマトの案だった。
「まっそうはいってもルート違うんじゃしょうがないわね。月面まで休憩ーカルメンも自動操縦に切り替えていいわよ。あっマリーちゃん警報装置だけは掛けておいてね」
「わかりました」
「はい社長」
月面のチェックポイントまで三日である。いくら気張ってもどうしようもない時だ。
大きな欠伸をしながら指示をだすカグラ、その目から涙まで出てきてた。
「少し寝るといいブリッジには俺が居よう」
「ありがとー」
最初のチェックポイントに着くノーチラス。指定された場所へと船を着艦させるとモニターに運営係員の顔が映った。
「御疲れ様です、こちらBチェックポイントです。こちらの競技はこれになります」
ドンッとモニターに映された安そうなスケッチブック、そこにはマジックで利き酒勝負と書かれていた。
「はい?」
思わずカグラが反応に困り返事をした。係員が嬉しそうに喋る。
「現在月面では様々な酒を三十種後用意しています、その中から月面特産の月光酒を探して頂きます。なお一、飲まないでも結構ですが一つ間違う事により九時間のタイムロスをかけています。なので全部間違えても二百七十時間、十日とちょっとですね。さて誰か挑戦しますか?」
モニター越しに爽やかな笑顔の係員。カグラは船長席から辺りを見回す、マリーを見ると首を横に振っており。カルメンも『ワインでしたらなんとかなったんですけど』とすまなそうな声をあげている。
ヤマトは相変わらず何も言わないで起っているのでオロオロしだすとブリッジのドアが開かれる。
「どうやらワシの出番じゃなっ」
自信たっぷりに答える向日葵、全員の視線を受け止め胸を張る。
「ええっ」
「ええっとはなんじゃ。こう見えても亡きマックスは部類の酒好きでのー良く一緒に飲んじゃものじゃ、それにほれ」
モニター越しに係員に何かのカードを見せる向日葵。カグラが横から覗き込んで読み上げる。
「国際利き酒選手権優勝。向日葵殿……って」
「ああ。だから俺が先ほど競技内容を教えておいた」
ヤマトが驚くカグラに話しかけた。
「これで何も問題あるまい、さっいくぞい。カグラ」
早く早くと小さな子が母親を引っ張る様子でカグラの袖を引っ張る向日葵。そうねと言いつつ利き酒競技為に船を降りた二人、一時間もしないで二人は戻ってきた。
通信を担当しているマリーがブリッジに戻ってきたカグラの姿を見ると結果を聞いてくる。
「おかえりなさいー社長どうでした」
「ALL正解だった。相手の係員もちょっと引いてたわ、向日葵ちゃんはエンジン室へ直行。直ぐに発進するわよっ」
「はい。わかりました」
既に定位置と成って来たヤマトの席へカグラは振り返る。
元は副船長の席なのであるが、横に立っていられると邪魔になるけど意見を聞きたい時もあるし、と考えるカグラがカルメンと相談した結果その場所になった。
「それにしても凄いのね向日葵ちゃんって」
「本人もアルコールは好きだが、彼女はオートマチックドールだ。その成分を分解して記憶する事が出来る。本人曰く他の事は余り覚えないが酒と機械だけは完璧なんだそうな」
「あー……なるほど」
「ノーチラス発進準備完了です、発進します」
カルメンの声がブリッジに届くとエンジンが元気良く動いた。




