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ミッション28 『貴方が犯人ですっ!』

 杖を突いて歩く老人と介護をするSP風が祭壇の上に立つと長いスピーチをはじめる。最初に会長である老人が長い長いスピーチをはじめ。次にSP風と思われていた男性が喋り始めた。


「名のあるレーサーの皆様、楽しんでいらっしゃるでしょうか。今宵はいざこざを忘れ大いに楽しんで行って下さい。この後も地球で有名なダンサーなどを呼んでおり……」


 口演を聞いていたカグラがバッっとヤマトの顔を見る。ヤマトも目線だけをカグラにあわせ小さく頷く。


「この声って、あの場所で聞いた声じゃ」


 あの場所というのは忍び込んだ月面ドックでの出来事である、現在はにこやかに話している男であるが声だけを聞くとあの日聞いた声とそっくりであった。


「恐らくそうだろう」

「うわー……まって、それじゃ匿名で運営に送ったメッセージも」

「ふむ、握りつぶされているだろうな」


 トイレから戻ってきた京子が隣へとよってくる。ヤマトは京子をみずにそっと呟く。


「臭いな……」


 呟きを聞いた京子が真っ赤な顔をして裏拳をヤマトへと放つも空いている手で見事にガードされた。


「どうした行き成り」

「ヤマト、あんたアタシの事を臭いって、いくら女っぽくないからってアタシだって傷付くんだよ」

「なんだ、その事が。違う。あの男の事だ」

「もう、ヤマトも変な事言わないのっ。京子さんごめんね」


 二人でスピーチをしている男性を見る。京子が交互に男性とヤマト達を見ると説明してくれた。


「あの人は時期会長候補だね、敏腕の持ち主でこの数年で副会長まで上り詰めたカザミ・フルイチ氏だね。でどうかしたの?」

「なるほどな。特に問題はない」

「変な奴だねー」


 副会長のカザミが演説している中、壇上の袖では会長であるお爺さんがこちらに向かって小さく手を振っていた、注意しなければわからないほどだ。カグラの隣の京子は小さくその手を振り返す。

 不思議な顔で会長と京子の顔を交互にみる。


「さすが、京子さん会長にも顔を覚えられて」

「いや、まぁ……そうだね」

「ふむ。さすが孫と言った所か」


 歯切れの悪い京子の隣で隣のヤマトが感想を述べると、二人の女性がヤマトを凝視する。


「えっ、孫って」

「なっ、ヤマト知ってたのっ」

「パトリック・フラン、姓は違うが京子の祖父だろう」


 驚きと共に落胆する声を放つ京子。


「うわー極一部しか知らない筈なのに……」

「何、気にするな。それによってレースの順位に関係もあるまい」

「そりゃどーも。順位と言えばカグラ、凄い走りよね。アレあったら直ぐに一級レーサーになれるわよ」


 話を変えるため様に京子はカグラに話を振った。照れた顔でカグラは京子に説明をする。


「いやー。でも操縦したのってカルメンだし、私は免許も何も無いし」


 京子の持っていたグラスが落ちる、音が鳴りスピーチが中断されて何人かはカグラ達を注目する。慌てて回りに謝りカグラとヤマトをつれて壁際に移動する京子。


「ちょ、京子さんどうしたのっ」

「どうしたの? じゃないよ。カグラ、一級操縦士の免許ないのっ」

「無いわよ」

「そりゃ、抜き打ちはあんまりないけどさ……」


 連れて来れたヤマトが京子に質問をする。


「何か不味いのか?」

「うん。このレース、艦長も一級操縦士以上の資格が無いとダメなんだ、後で本戦の紙が配られると思うけど其処に三名以上の資格者の名前がいるんだよ……」

「なっ……」


 絶句している、カグラ。京子の質問はさらに続いた。


「それにさ、万が一マリーさんが操縦中に倒れたらどーするの。倒れる事が無くても会社辞めちゃったら運転できないんじゃ」

「うっ考えても居なかったわ……」


 ヤマトは腕組をしている。そこに小柄な老人が回りに会釈をしながら歩いてきた。先ほどまでひな壇に上がっていたパトリック会長である。


「ふぉっふぉっふぉ、船乗り達に乾杯」


 手にしたワインを三人に見せ付けるように乾杯し口に入れるパトリック。カグラ達三人が困った顔をしているので『何事なのか』と様子を見に来たのであった。


「ふぉっふぉ。困った顔をしてどうした。京子」

「いや、それが、その」

「ああ、一級操縦士が二人しか居なくて困ってた」


 バツの悪そうな顔をして何も言わない京子を他所に、さくっと問題を発言するヤマト。京子とカグラに両方から肘鉄を食らう。しかし何も痛くないような顔でパトリックを見続けるヤマト。


「ふぉっふぉ。面白い武人殿だ、ゴウの言うとおり変わっておるの……」

「ちょ、爺じゃなかった。会長、ゴウと何を話しているんですか」


 にこやかに笑うパトリックを他所にカグラは興味心身でヤマトを見る。


「ねーねー。二人ってカルメンと誰よっマリーちゃんは持ってないし向日葵ちゃん?」

「向日葵の資格まではわからん。一級操縦士の資格なら俺も持ってる」

「嘘っ本当?」

「ああ、嘘を言ってもしょうがないだろう」


 その間に京子とパトリックは小声で話をしている、二人には見えないように頼み込む京子に、白い髭を撫でながら頷くパトリック、口元が笑っている。


「よし。わかった」

「へ?」


 突然言われて困惑するカグラ。なおも話を続けるパトリック。


「特例で本戦までに三人揃えたらいい事にしよう、書類に寄付する免許のコピーは此方が紛失したという事にするので、それでいいかな?」

「さすが、会長話がわかるっ」

「え、何が何。ちょっとヤマトどういうこと?」


 カグラを他所に話が進んでいく。辺りを見回し顔を確認し最後にヤマトを見た。


「本戦までにカグラが免許を取れ、という事だ」

「ええええええ」


 カグラの叫びはスピーチが終わった拍手の音で掻き消えたのであった。



 宴も終り参加者が各々の船へと帰っていく。ヤマトとカグラも京子達と別れヤマトの運転する車で月面ドックへと向っている。

 車の中でカグラが喋りだす。


「あの人来なかったね」


 ヤマトは黙ってハンドルを握っている。返事の変わりに続きを勝手に話すカグラ。


「あのクラークさんよっ、カルメンが言うほど怖い人には見えなかったんだけどなぁ」

「正体がばれているからな、念には念をいれて出ないのだろう、それに万が一だ。副会長と隊長……、クラークが一緒に喋っている所でも見られたら事だ」

「そーいうもんかしら。でも良かったわ。聞いたら船で残っている船員にも料理が運ばれるだなんて、知っていればこんな会場来なかったのに」


 車の後部座席には幾つかの料理、さらに別に注文した料理が既にノーチラスに届けられている。

 

「このまま何処か遠くに行きたいわね」

「目的地を変えるなら言ってくれ」

「馬鹿ねーそういうのじゃないのよ。こう何て言うか何もかも投げ出して逃避行する男女、ロマンよね」

「酔ってるのか?」

「うーん飲んでは居ないのに少し雰囲気に酔ったのかも、何でもかんでも出来ると思ったら大間違いよ……免許だって取れる自信もないしアタシだって休みたい時あるわよーって」


 黙ったまま車を運転するヤマト、カグラの言葉が止まり隣を見るとカグラは大口を開けて寝ていた。可愛さも何も無い姿に口元を緩めたヤマトはスピードを落とし運転をし始めた。 


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