ミッション27 『パーティー会場』
月面ドックには大小様々な船が入っていた。惑星レース決勝まで二週間前その調停式が月面ホールで行なわれる事となった。
きらびやかなホールに各々の正装をした人々が談笑している、この時ばかりはレース場の因縁も忘れ友好関係を築くというのがルールであった。
「やっほーカグラーちゃん」
「京子さん」
カグラの名前を呼ぶのは太ももギリギリまでスリットの入ったチャイナ服を着ている京子。動く度に生足が見え男性人がその姿を眺めている。対するカグラは純白のパーティドレスを着ており動く度にフワフワとスカートが動いている。
「ふむ、寒くないのか?」
カグラの隣に居たヤマトが京子に意見を言うと京子の眉がハの字になった。タキシードを着込んでいるヤマトを睨みつけると話を続ける京子。
「鼻の下を伸ばせとはいわないが、たまにこういう格好をしているのにその感想はおかしくないかい」
「普通の感想だ」
「あーもう、はいはい。ではお二人ともごゆっくりしてくれたまえ、本日の調停式ででる飲食は全て無料だ」
テーブルには豪華な食事が山ほど並んでおり月面じゃ手に入らないような物まで並んでいる。
「おー逃げずに来たか」
「おー逃げずにきたか」
はもる声で振り向くと正装着用というのにタンクトップを着ているマルケン兄弟が盛りきれないほどの料理を皿にもって近くによってきた。
「『逃げる』とう意味がわからないな、前回の戦いの事なら俺達が勝ったはずだ」
「ふんっ、減らず口を。所で今日は女神様が見えないんだが何処だ」
「天使ちゃんもいねえぞ」
キョロキョロと見回すマルケン兄弟の問いにカグラが溜息を付く。しきりに何かを探していてカグラのスカートに手を掛けた所で京子に殴られるマルケン兄弟。
「何処触ってるのよっ。本当は全員で来たかったんだけど、皆仕事よっ」
「残念だ、なぁ兄貴」
「ああ。弟よ」
「代わりに食え。これは旨いぞ、なぁ兄弟」
「お前はこっちを食え。これも旨いぞ、ああ兄弟よ」
カグラには巨大なエビ、ヤマトには巨大な肉を差し出すマルケン兄弟。それじゃあ、とカグラがお皿から渡された食べ物を口に入れると溜息を付く。
「おいしい……」
「ふむ、まぁまぁの味だな」
「あんたねぇ。でも、美味しかった有難う、えーっとマルケン兄弟さんだっけ? 今日は絡んで来ないのね」
「おう。出航前の酒場じゃ船乗りは皆仲間だ、仲間に絡む奴が居たらそいつは船乗りじゃねえ。それじゃ今度はレース場でなっ」
足早に次の料理へと突進していく二人、他の人々はぶつからない様に道を明けていく。
「にしても、全部ただって凄いわね」
「まぁね。あいつ等も言っていただろ、元々は長い出航に備えた晩餐会これから先長い航海が待っているからね」
「ふむ、まさしく最後の晩餐だな」
暗い事をいうヤマトの腹にカグラの肘鉄が当たるが気にもしてないヤマト。その姿をみてクスクスと笑う京子。
「若いお嬢さんを失礼するよ」
シルクハットをかぶった眉毛すら白い老紳士がカグラ達の側へよってくる。背は高くとても丁寧に礼をすると自己紹介を始めた。
「私の名前はジョン。通り名であるが簡便してもらいたい、本名は星の中置いてきたもんでね。予選一位と聞いて見に来たかとても可愛らしい」
「可愛いだなんて、そんなっ本当の事を。私の名前は」
カグラが名乗る前に人差し指を口の所に持っていきチッチッチと口を鳴らす。
「カグラ・クリッサお姫様だろう、新しい船乗りに乾杯ではまた星の海で」
老紳士の後姿を見送る三人。それまで黙っていた京子が大きく息を吐く。
「ん。京子さんどうしたの」
「どうしたのって、ジョンだよっジョンっ」
「コードネーム・ジョン、本名不明の宇宙船乗りだな、定かではないが五十年前から船を操っているといわれてる怪物だ」
ヤマトが説明するも『凄い人なのね』としか認識してないカグラ。隣の京子はしきりに『サイン貰っておけばよかった』と呟いている。
「そもそも、あの人は普段こんな調停式なんかに出た事がないんだ。うわ、あそこでジョンと一緒に話している人ってフローレンじゃないかっ」
「知り合い?」
カグラが先ほどきた老紳士事ジョンの姿をさがす、見た目がカルメンと同じぐらいの女性と話し込んで談笑していた。
「絶景の美女フローレン。あの外見でジョンと同じく古くから居る船乗りなんだ。ジョンとは旧知の仲で、しかも十数年前からあの見かけがかわらに。わわ、こっち向いた」
フローレンがカグラ達に気づき。京子、カグラ二人に個別に手を振り、最後にヤマトには投げキッスを送って来る。ヤマトは迷惑そうに眉を潜める。
その表情を見て楽しそうに笑うフローレン、人気物らしく直ぐに他の人達に手を引かれていった。
「あの人も普段調停式なんかに出た事がないんだ、はぁやっぱり、皆新しい船乗りに興味があるんだね。本当こんな事なら色紙貰ってくればよかった……」
残念そうに喋る京子に、さほど価値がわからず『そーなんだ』程度にしか思っていないカグラ。その姿を見ては余計に悔しがる京子であった。
一時間が過ぎた頃会場の中にある壇上にスタッフの人が手短に舞台を設置している。
来る人来る人に挨拶をしていたカグラは少し疲れた顔で京子に聞く。
「ああ、あれかい? 会長の挨拶かな。それにしても凄いなカグラは」
「ん、何が?」
「来る人来る人に笑顔で受け答えをするからさ、どうもアタシは顔に出るらしく。アタシも最初の時は数人の人が来たんだけどさ。その内誰も挨拶に来なくなったよ」
「そ、そうかな」
照れているカグラに背後にいるヤマトが京子に話す。
「没落貴族らしいからな、受け答えする機会も多いのだろう」
「其処までの貴族じゃないわよっ。ちょっとメイド数人を雇えるぐらいのこじんまりとした、普通の家よっ」
普通の家はメイドなどは雇えないが其処には突っ込まないヤマト。無言のまま顎で壇上を指すと小さな老人がマイクの前へと歩いていく。
「ほらほら主催のスピーチが始まるよ。アタシはちょっとこの間にお花詰みにってね。長いんだあの爺ちゃん」




