ミッション26 『彼なりの思い』
夕食後に其のまま食堂に残るように言われたメンバー達。各々の前にはお茶や茶菓子が配られている。
スーツ姿のカルメンが立っており、悪い事をした児童のように立たされているカグラとヤマト。
すまなそうな顔をしているカグラと、なぜオレが立っているのか判らない顔つきのヤマト。その姿を観てマリーがクスクスと笑う。
「もう、マリーちゃんなんで笑うのよっ」
「でも、何か社長が悪い事をしたみたいで。でもヤマトさんは普通の顔をしているのでなんだか可笑しくて」
「確かにじゃな。ワシは行った事ないが学校の放課後じゃな、この場合はカルメンが教師じゃな」
向日葵も同調してうんうんと頷く。
「教師でも何でもいいです。お嬢様にヤマト様ご説明を」
「説明っていっても……」
「隠し事はしてるのは知っていましたけど、こう直接危害が及ぶ事があれば黙認できませんっ」
「えー直接って私何も被害受けてないけど……」
まったくと呟くと溜息を付くカルメン。状況のわからないマリーと向日葵は二人の仕草に興味深深である。
「いいですか、昼間来た人はヤマト様の叔父でもなんでもありません」
「えーっ、んじゃ誰よ」
「それを説明してもらいます。ヤマト様どうぞ」
カグラが座りやすいように椅子を引くカルメン。残されたヤマトは立ったままに喋り始める。
「オレとて全部を知っているわけじゃない。今度のレースで参加する船の中に混乱を好む奴がいると言うだけだ。昼間に来た自分物は、俺の元上官で今度のレースに出れば俺達の命は無いらしい」
「はいはーい。混乱ってどんなのですか?」
「レース後のドサクサに紛れて乗っている艦を地球に落す事だ」
マリーの質問に即答するヤマト。場が静かになった。
「ふむ。確かにレース後なら中継もあろうし、派手な宣伝にはなるのう。恐らく、それを合図にして他の事もするのじゃろう。大きな陽動じゃのー」
納得するように喋る向日葵。お茶を飲みながら煎餅を食べる。
「で、ひょんな事からその事を知ってしまったわけじゃな。それを相手に知られて襲撃を受けたと」
「ふむ、その通りだ」
「難儀じゃのー……ワシは何処で無くなってもいい命であるが、時にカグラ」
「ふあい?」
口に煎餅をいれているので返事が変な具合だ。直ぐ横に居るカルメンにお茶を出されて口の中の物を一掃した。
「お主はどうしたいんじゃ?」
「ん、んーうーん。出来ればそんな事は辞めさせたいわよね、だって沢山の人が死ぬじゃないのよ、それを知っていて見過ごすのは偽善なのは解かっているんだけど……」
「ですがお嬢様、他人の命を助ける為に自らの命を差し出すのは自己満足です、残される人達は過大な迷惑です」
すばっと言い切るカルメンに小さくなるカグラ。
「で、でもその京子さんとレースを頑張るって約束もしたし、そうよ。此処で棄権なんてしたら信用問題にもなるし今後の仕事にも関わってくるのよっ」
「しかしです、命を落としてしまったら何もなりません」
「別に落すって決まったわけじゃないじゃないっ」
「ですからっ」
段々とヒートアップしていくカグラとカルメン。マリーはオロオロと周りを見始めていたが、ヤマトは黙ったままであるし、向日葵はお茶を飲んでいる。
「まぁまて二人とも、喧嘩したいわけじゃあるまい」
向日葵の言葉を聞いて黙る二人。
「確か最初はヤマ坊がこの件を持って来たのじゃな、何か意見はあるかいのー? そもそも何で一人で操作してたんじゃい」
「俺か、俺はそのなんだ……」
珍しく歯切れが悪いヤマトに全員の視線が集まる。
「はよ言わんかい」
「む。考えをまとめて要る所だ。ただ、実際にテロが起こるとしてこの船に迷惑が掛かりそうなら事前に排除しようとしたまでだ」
「ほっほー、それは皆を巻き込まず一人で船を守る事で、皆を守ろうとしたって事なのじゃけ?」
「別にそういう積もりはないっ」
向日葵の驚いた声と共にはっきりと答えたヤマト。しかし向日葵の質問は続く。
「じゃが、ヤマ坊。ヤマ坊一人なら、こんな会社に居なくても暮らしていく事はできるじゃろ? あの京子嬢ちゃんの所にだって行く事は出来るじゃろうに、なんでこの船に拘ったのじゃ」
「それは、その……」
困惑するヤマトの顔を見つめるメンバー、ふいにマリーが笑い出す。
「ヤマトさんでも困る事があるんですね」
「そーね。珍しいもんだわ」
「まったく……わかりましたお嬢様。レースには参加して危険そうなら棄権って事にしましょう、向日葵さん。船の最新の情報が知りたいです後で耐久度などを教えてもらいますか」
「あい、わかったのじゃ……ほれ。ヤマ坊も何時まで立っている解散じゃぞい」
黙ったまま固まっているヤマトに声をかけた向日葵。一人困惑したヤマトが食堂に残された。




