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ミッション20 『社員旅行・中』

 ヤマトが持って来た動物を指をさす。


「小鹿だ、見た事がなかったのか。主に世界各国の森などに生息していて……」

「見ればわかるわよっ」


 説明の途中で叫ぶカグラ。


「まさか、食べる?」

「ああ、食べもしないのに仕留める事もあるまい、狩って来たと言ったはずだが」

「狩りをするのに。け、怪我は無かったですかっ」

「特に無い」


 マリーがおそるおそるヤマトの腕を触り怪我を確認し始めた。見た所何処も怪我をしていない。ゴウがそれを見て手を叩く。


「いたたたた、マリーさん。オレっちも持病の怪我が……」

「ど、どこですかっ」

 

 決して側に近寄らないマリーが心配そうにゴウを見つめる。見つめられたゴウは胸をかき蒸してその場にしゃがみ込む。

 慌ててマリーが近くへよると、真面目な顔を上げた。


「心の病気なんです。オレは朝隣に女性が居ないとその日は一日何も出来なくて……マリーさん、俺の伴侶になってくれませんか?」

「ゴウ君それ、私にも言ってたよね?」

「はぁ、やっぱ船に閉じ込めるか……」


 ちょっと怒り顔のカグラと溜息を付く京子。慌てて懇願し始めるゴウ。ヤマトのほうへ向きなうと慌てて喋る。


「ほら、この鹿だって捌くには一人より二人のほうがいいっすよね」

「む、俺は一人で……」

「男手が沢山あったほうがいいじゃないっすか。美人で可愛い女性達だけじゃ夜だって心配だし、ね?」

「ゴウ君が一番心配なんだけど……まぁ。しょうがないわね。折角の旅行なのに閉じ込めて置くのも気がひけるし。じゃぁ、私達は夕飯の機材準備するから。ヤマトっ」

「なんだ?」


 指を挿してヤマトを元気良く呼びつけたカグラ、直ぐに両手を合わせて懇願しはじめた。 

「見えない所で捌いて……お願い」

「元よりそのつもりだ。捌いてる時に周りで騒がれても困る」

「あー……そっ……。まぁいいわ、じゃぁゴウ君もよろしくね」


 女性人達がバーベキューの準備に取りかかる、残った男二人は鹿をもって大きな崖の裏へと回った。


 血抜きをしながらナイフ一つで解体していくヤマト、一切手伝わないでゴウはその動きを見ていた。


「うわ、ぐろ……」


 何も言わず黙々と解体していき、銀色のトレイに肉を並べていく。


「ヤマっち、ヤマッち」

「なんだ、俺の事か?」


 手を止めゴウの顔を見る。好奇心旺盛な顔でヤマトへと質問をしはじめた。


「そうそう。ヤマトっち、だからヤマっち。んでさヤマっちで不能? あんな女の子が沢山居る中で誰にも手を出さないなんて変すぎる、オレなら毎晩偲びこんじゃうね。それとも。もしかしてソッチ系? うわー。もしかしてオレ襲われちゃう系? こりゃ、京子っちに言って誰かと一緒に寝てもらわなきゃ……」


 腕を組みながら震える仕草をするゴウ、醒めた目でみるヤマト。


「心配するな、その気はない」

「マジで? ならなんで我慢できるっすか、狭い宇宙船に美女数人と男一人、寂しくないっすか」

「特に無い、集団生活をしている以上そのような事は訓練すれば抑えられる」

「へえ。オレなら我慢できないなぁ、あっでも、確かに京子っちには欲情しないもんな。ソレと一緒なのかなぁ」


 独り言をいうゴウを横目に銀のトレイに肉を全て取り分け終えるヤマト、残った骨や皮を袋にいれてゴウに手渡す。

 

「いくぞ」

「へ? ちょ、やまっち置いてかないくれって」


 浜辺に戻ると女性人が大きなバーベキューセットを組み立てており火を起して居た所である。

 それぞれの手はには飲み物が握られていた。カグラの手には透明なコップがあり水色の液体が入っていた。


「おっかえ……」


 最後まで言う前に言葉がとまる。その目線がゴウが持っている半透明の袋を見つめていた。

 先ほど解体された小鹿の内臓や頭、骨などが入った袋。つぶらな瞳でカグラをみている。首だけで……。


「ちょっと、持ってこないでよっ何の為に解体する時に向こうにっていったのよ」

「しかし海に投げ捨てるわけにも、自然に帰すのが他の動物達の食料にもなるし一番効率がいい」

「そ、そうなんだけど」


 後ろから歩いてきたカルメン。困っているカグラにカルメンが冷静に解決案を提示する。


「では少し穴を掘り燃やすのはどうでしょうか? それならば、こちらの残った物も燃やせますし」

「それだわ! と、いう事でその辺に穴埋めて燃やして頂戴っ」

「了解した」

「なら、オレっちの出番だな。船から道具持ってくるから」


 またサボる者と思っていたヤマトは意外な言葉を聞いてゴウの背中を見守る。気づいたのか京子がヤマトへと話しかけてきた。


「結構性格に難ありなんだけど、根は悪い奴じゃないのよねー。メカニックの腕もいいし」

「なるほどな」


 スコップを二つ持って来たゴウは懸命に穴を掘る、食べれない部分などを穴に放り込こみ、ゴウは穴掘り終了を報告しに女性達の下へと走る。ヤマトは一人残り謎の液体を穴に入れはじめた。

 重労働の差し入れの為に冷たい飲み物を向日葵と一緒に差し入れにくるカグラと向日葵。

 穴の中を覗く向日葵はそっと呟く。

 

「うわーヤマト坊、これまだもっていたのじゃな」

「向日葵ちゃん、何のこと?」

「カグラ嬢少し離れたほうがいいかな。ワシは平気なんだけどな……ちょっとだけ危険かもしれん」

「え?」


 カグラが穴から顔を出し、向日葵に聞きなおすために横を向く。その間にヤマトが火の付いた枝を穴に放りこんだ。

 突然穴から火柱が上空へあがり、カグラの髪をチリチリと焦がした。熱風がカグラやヤマト、向日葵の頬を素通りしていく。


「あっつあっつ」


 火柱は直ぐに収まり穴の底では高温で溶けた液体がグツグツ沸騰していた、先ほどまで入っていた骨などを無造作に溶かしていく。

 仕事が終わったとばかりに向日葵に手渡された飲み物のフタをあけると一口ゴクリと飲むヤマト、初めて気づいたようにカグラへ振り向く。


「カグラ、穴に落ちたら危ないぞ」

「あ……アンタねええっ。落ちる前から危ないわよっ! 何っ今の火柱っ私の髪、髪が焦げたじゃないのよっ」

「ふむ、ちゃんと穴から頭が離れてから火種を入れたんだがな」


 さも安全を確認したと言っているヤマトをよそに向日葵が説明してくれる。


「カグラ嬢、あの液体は濃縮された宇宙船用の燃料じゃ。燃費が良くて人気があったんだけどな……余りに危険で発売停止になったんだじゃよ」

「安心しろ三分もあれば燃え尽きる」

「ああ、もう。怒る気力も失せたわ……肉焼けたみたいだし行くわよ」

「了解した」


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