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ミッション19 『社員旅行・前』

 輝く太陽、青い空、青い海。生えわたるヤシの木。大きなパラソル傘を浜辺に立ててその下に背もたれ着きの椅子に寝そべるビキニ姿のカグラ、隣には浜辺だというのに、何時ものメイド服姿のカルメンが簡易椅子に座り慎ましくすわっている。


 周りには人がおらずプライペードピーチとても言うのだろうか。小さな砂浜に背後には熱帯森林が生い茂っており。沖のほうでは巨大な船が二隻並んで停泊している。


「まさに地上の天国ね」

「それにしても、良かったですねお嬢様。こんな場所没落してから中々これませんですし」

「うぐ、痛い所を付くわね、カルメンも水着に着替えればいいのに……」

「失礼しました。いえ、わたしに取ってはこの服の方が安心しますので」


 自信たっぷりに言うカルメンに、京子が提案する。


「そう。そだ、後で一緒に泳ごうよ、それなら着替えるわよね。まさか持ってないとかっ? 何はともあれ京子さんに感謝しなくっちゃ。でその京子さんは?」

「いえ、一応水着は持っています。京子様ならあちらに」


 手の平で先を促すカルメン、その先に赤いビキニ姿の上にシャツを着込んだ京子が走ってきた。こちらに気づくと手を振っている、その後ろには重たそうな荷物を担いだカグラ達の知らない青年の姿も見えた。


「あっ京子さん」

「やぁ、楽しんでいるようだね。こっちも今付いたばっかりだ」


 京子の後ろにサラサラの赤髪をショートカットにした青年が白い歯を出していた。

 以下にも軽そうな男に思わず身構えるカグラ。

 心底残念そうな顔の京子が指を挿し紹介しようとした。その手を遮って突然カグラの手を両手で握り締める青年。


「初めまして、おれっち。コイツ、京子っち従弟でゴウ・ゴウ たちばなっていいます、今後とも深い付きあいを、いや伴侶になって……」

 

 ゴウが最後まで言う前に足元に大きな魚付きのもりが突き刺さる。思わずその場を離れるゴウ、離れてなければ刺さっていただろう。遠くからマリーの声が叫んだ。


「ご、ごめんなさーい。飛んでいっちゃいました」


 此方も胸を隠すようにシャツを着ながら泳いでいたらしいマリー。シャツが身体全体に張り付き色っぽさをかもし出している。

 その後ろでは紺色のレオタード型水着を着用している向日葵が居た。胸の部分には白い生地がはられており、ひまわり、と書かれている。


「うお。あっちにも美女がっ。お嬢さんうぐ」


 走り出すゴウのシャツの首元を後ろから押さえつける京子。ゴウの姿を確認するマリーは固まり、半歩後ろに下がるも懸命にふんばった。なんとか前に行こうとするも砂浜に足が取られて前に進まない。


「あ、あの。ど、どちら様でしょうか」

「ごめん。マリー、アタシの従弟でゴウって馬鹿。迷惑はかけないと思うから、いや、迷惑だったら此処の海に沈めるか船に監禁して置くんだけど、どうかな? ほらアンタも無理やり付いてきたんだから……」


 姉が弟を叱るように京子が言うとゴウも軽く頷いた。


「いやー若くて美人揃いの新人レーサー達って話を聞いてキョウっちに頼み込んでつれて来てもらいました。普段はメカニックとして。あっちの船にのってるんですよ」


 カグラ達止めてあるノーチラスの横にある船を指差して喋るゴウ。ゴウを避けるように円を描いて近くによって来たマリーと真っ直ぐに寄って来た向日葵もその話を聞いている。

 最近はヤマトのお蔭で男性にもちょっとだけ体性が付いたマリー、異性から美人と言われると顔がほころんでいる。

 完全ににやけた顔のカグラがマリーのほうへ向き質問をする。

 

「あーもう口が旨いんだからー、ど、どうする? マリーちゃん」

「べ、べつに良いと思いますし、ねー向日葵ちゃん」

「煩悩の固まりっぽい男っぽいが。ワシは別に構わんじゃの。京子嬢の従弟なら悪さも出来ないだろうしな、カルメン嬢は?」


 向日葵に問われて、眼鏡の位置を直しゴウを真っ直ぐと見つめるカルメン。


「わたしも、別に若くて美人って褒められたからではなく、キャンプには男手も必要ですし良いと思います。しかしゴウ様、あまり不穏な事は避けてもらえると助かります」

「…………不穏な事になったら?」

「成りそうな事が発覚したらちょんぎります」


 心配そうなゴウが質問するとポケットから大きなハサミをだしチョキチョキと動かす向日葵。『嘘だろっ』と思っている顔であるが回りの女性人が誰も笑っていない事に気づき真顔になるゴウ。


「それ以外ならいいんだよなっ。何はともあれ美人達と南の島。ひゃっほーいっ」


 大げさにガッツポーツをするゴウ。呆れ顔で手を顔に付ける京子は溜息を付く。


「あんた、何時かその口で身を滅ぼすよ。所でもう一人の男手は何処?」

「はっもしや。ハーレムの中に居るのに誰も手を出さない、京子っちが好きなホモ野郎の事か」


 大声で叫ぶと後頭部を京子に叩かれるゴウ。京子の手には先ほど跳んできた銛が握られていた。


「お前、やっぱ海に沈めるか?」


 赤い顔の京子がドスの聞いた声でゴウの耳を引っ張りあげる。

 

「痛てて……。冗談、冗談だって。キョウっち怖い。目が怖いって、ノープリーズ。ヘルプミーほら、皆がみてるし」


 ゴウの言うとおり京子は周りをみると、同じく顔を赤くしているカグラが口をパクパクしている。


「なっ、違う違うから、ほら。アタシとヤマトはまだ知り合って間もないし御互いの事まだそんなに知ってないし、ほら。あの……」

「私もべ、べつに何も言ってないし。ヤマトが誰かと付き合うのに社長である私の許可が要るわけじゃないし、そのあの」


 カグラと京子が御互いの顔を赤くして言い訳をしあっていると森のほう茂みがガサガサと動く。

 カルメンがハサミをもち身構え。マリーも大きなモリを片手で扱うと茂みのほうへと身構えた。

 茂みから可愛い小鹿が顔をだしてきた。あまりの可愛さに武器を下ろすカルメンにマリー。カグラが直ぐに小さく口を鳴らし小鹿の気を引こうとし始めた。その様子をカルメンが見ている。

 

「かわいいっ、追いで追いでー」

「野生でしょうか? 余り近くに行くと親鹿がいるかもしれません危険です」


 中々寄ってこない小鹿に向日葵が疑問の声をあげ始めた。


「まて、何かおかしくないかなのじゃ」

「そーいわれると……」


 本来黒いつぶらな瞳が濁った黒色をしている。閉じられていた口が力なく開くと長い舌が力なく垂れ始める。


「ヒイッ」


 思わず短い悲鳴をあげるマリー。小鹿は茂みから身体全体をだすとその場に崩れ落ちた。


「なっ死んでる、どうやってここに……犯人は誰だ」


 思わず呟くゴウ。


「なんだ、騒がしいな」


 茂みから迷彩服のヤマトが出てくる、その姿をみてカルメンが一言。


「犯人です」

「何がだ、取りあえず人数が多いと聞いて仕留めてきた。話し声が森の中まで聞えてきてな、直接こちらに持って来た、所で……」


 ゴウの姿を確認するヤマト。ゴウも軽く手を上げ挨拶をしようとする。


「おれっちはゴウ。ヤマトっちだろ? 京子っちの……」


 先ほどど同じ言葉を言おうとして京子に足払いを掛けられたゴウ、思わず尻餅を付く。


「いててて……」

「何をしてるんだ。俺はヤマト、確か京子の船のスタッフだろう。以前事故の時に走り回っていたな」

「あの時に居たんすね……挨拶もして無いのに良く覚えていたっすね」


 手を差し伸べるゴウに差し出された手を握手する事もないヤマト、その光景を見ていたカルメンが固まっているカグラへとボソっと呟く。


「お嬢様、ここ数ヶ月お嬢様を見て思った事があります」

「ん? 何?」

「これはライバル出現ですね」

「ばっ、ななななにをっカルメンっ冗談でも言って良い事とわ、わる」

「なんだ、カグラも何を騒いでいる」

「な、なんでもないわよ、でこれって」


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