ミッション13 『発進っ』
荷物も積み込み作業が終え、ブリッジへと集まる艦員。二階にある艦長席にはカグラが座っており、眼下である一階部分にはカルメンとマリーそしてヤマトが座っている。向日葵はエンジンの調子が見たいとの事で一人別の場所にいた。
「いよいよね」
「お嬢様いつでもいけます」
カグラの意気込みに拍手でこたえるマリー。二階ヘリへと足をかけ号令をだす。
「ノーチラス発進っ」
「ノーチラス発進します」
小さなサブモニターが画面上に出て向日葵が笑顔で答える。
『カグラ嬢ちゃん。こっちのエンジンシステム問題なしじゃ』
「ありがとう、向日葵ちゃん、ヤマトも見なさいよ、この私の勇士を」
名を呼ばれ斜め後ろを振り向くヤマト。口を開きかけたヤマトが口を閉じ前を向いた。
「おい」
突然横にいるマリーに声をかけるヤマト。
「ひゃいっ、な、なんでしょう」
「驚かなくていい、貸しドックへの手続きは俺がやる、アレを教えてやってくれ」
前を向いたまま親指で後ろを指差すと、黙ってキーを操作するヤマト。マリーが言われた通り後ろを振り向くと短い悲鳴をあげた。
カグラが不思議そうな顔でマリーとヤマトを見ていると、顔を赤くしたマリーがカグラに向かって指をさす。
指を挿されたカグラはその先を確認すると……膝上まであるピッタリのスカート姿、その片足を元気良く台の上に置いていたわけで、一階にいる人達からスカートの中身が丸見えであった。
直ぐに足を下げ赤くなっていくカグラ。
黙って艦長席に座ると両膝で足を組み小さくなった。
「手続き完了した」
「わかりました、発射施設まで自動操縦に切り替えます」
宇宙への発射施設、海面から数キロにも及ぶ巨大な滑り台。といっても宇宙から滑っていく訳ではなく滑り台を下から上へと発進させるカタパルト方式である。
世界の各国がお金を出し合って作られた物だ。
もちろん、誰コレ構わず使えるわけではなくその近くには管制塔があり申請許可が必要である。
「こちら、ノーチラス。管制塔聞えますか? 予約していた、20054番を確認お願いします」
『こちら管制塔どうぞ。申請許可を確認、指定の場所へ行き起動を許可する。良い旅を』
カルメンが管制塔へと通信を入れ、ノーチラスが発射台の一番後方へといくと艦を挟むようにカタパルトがロックされた。
「発進体勢に入ります、各員対ショックへと備えてください」
各艦員が近くにあるシートベルトを身体につけ始める。軽減されたとはいえ発進する時の衝撃事故を防ぐ為である。
「カウント入ります。十、九、八……」
カウントが零になると同時に微量なGが艦内に響くと直ぐに身体が通常と同じになる。
モニターに向日葵の顔が出ると、親指を立ててサインをしてきた。
『重力ユニット正常作動じゃ、エンジンも絶好調。報告終了じゃ』
「艦内設備もオールグリーンです。お嬢様命令を」
「ふぁっ。私っ? ああ、そうかそうよね……ごほん。臨機対応事があるまで艦内待機自由時間っ、八時間後にマリーちゃん、交代ね。他のメンバーはっと。えーっとあとは、そうそう地上と違って水や食料に限りがあるので各自ほどほどに以上、解散っ」
宣言すると、どかっと船長椅子へと座るカグラ。
「はー、初めて自分の艦での宇宙なんだけど特に感動も何もないわね。ヤマトは?」
「俺か。そんなもんだろう、休憩に入るぞ」
「はーい」
問われたヤマトは短く答えると廊下へと足早に進んだ。ヤマトが始めて宇宙に出た日。まだ少年、いや子供だったヤマトは宇宙船から見えた青い地球の姿を観て感動し、一日中窓に張り付いていた。
暇になったヤマトは艦内にあるウォーミングルームに行く事にした。
特に問題もなく月の軌道上へ付くノーチラス号。月の管制塔からの指示によりドックへと着艦する。
事務手続きはカルメンが全てチェックをし、指定された倉庫へと荷物を送り出す。
社長室には暇そうにしているカグラと忙しそうに書類をチェックしているカルメン。インターホンが鳴るとヤマトの声が聞えてきた。直ぐに席を立ち扉を開けるカグラ。
「はいはいはーい」
「カグラが、すまんが……」
「一時下乗でしょ。さっきもマリーちゃんに向日葵ちゃんが申請してきた所よ。此処は私がいるから観光でもしてきなさいって」
「そうか。すまんな」
カグラとカルメン二人になった社長室で書類をまとめ終り立ち上がるカルメン。
「お嬢様」
「んー? あっカルメンも見てくる?」
「いいえ。それよりも、お嬢様にお願いがあるんですけど、これを」
「はいはーい」
元気良く答えるカグラに茶色い安い封筒を手渡す。
「この書類を管制塔に届けて欲しいのですが、あと序に……」
市街地とは離れた殺風景な場所をヤマトは歩いていた。近くには月面管制塔があり立ち並ぶ施設は巨大なドックえと成っていた。
一つ一つを確かめるように名前を調べるヤマト、その背後から後を付けるように足音が近づくと物陰に身を潜めた。
先ほどまで自分が居た場所でキョロキョロする人物を直ぐに物陰へと引っ張り喉を締め上げながら身体を拘束する。
「なんだ。カグラか」
喉を押さえていた手を退けカグラの拘束を開放すると、カグラはその場で激しく咳き込んだ。
「こ、殺すき……げっほ」
「すまん、誰かか俺の後を付けていたからな」
「そ、そうね。ヤマトが居たから驚かせようと偲び足で来たのに逆にこっちがだわ。こんな辺鄙な所で何をしてるのよ。市街は反対側よ、私はほら、お使い」
「特に何もない」
即答するヤマトをジーっと睨むとため息をついて話すカグラ。
「あのねー、後ろから見てたとき施設を確認するように調べていたじゃないのよ、そりゃ言いたく無いならいいんだけどさ。一応は従業員なんだし、余り変な事をされると会社としても(・・・・)心配だし」
会社の部分を強調していうカグラであるか何故か声がうわずっている。気にもしないのがヤマトにしては珍しく歯切れが悪く説明をした。
「そうか、ちょっとな。しいて言えばこの辺で新造艦を作っているはずなんだが、それを捜していた」
「ふーん。よしっ」
人差し指を立ててヤマトへと指を突きつけるカグラ、顔色を変える事も無くヤマトが喋る。
「断る」
「まだ、何も言ってないじゃないっ」
「言わなくてもわかる」
「あのねーむぐ」
突然カグラの口を塞ぐと物影に身を潜めるヤマト。役人風の男が横を通り過ぎ近くのドックの前で止まった、ポケットからカードキーを出すとロックを外して中へと入っていった。
その様子を路地裏から黙って見つめるヤマト。
ヤマトの腕を叩くカグラに気づき、口から手を離した。
「し、死ぬっ」
「大丈夫だ、軽い酸欠でまだ生きている」
「そ、そりゃ。どうもって成る訳ないじゃないのっ毎回思うけど、ヤマト、あんたは私に恨みでもあるのっ」
「特にはない」
食って掛かるカグラに仏頂面のまま答えるヤマト。
余りにも淡々と話しており毒気を抜かれたカグラは深呼吸をして気分を落ち着かせた。
「そ、そう。ならいいんだけど……。あっさっきの人直ぐ出てきたわよ」