ミッション11 『真夜中の訪問者』
過去に海に沈んだYR―20145型事、現在は運行艦ノーチラス。
作成名『星の一号』と名づけられた作戦は地球に弾道ミサイルに見立てたノーチラスを墜落させる事が頭の悪い火星軍首脳部の第一の目標だった。
しかし、月で建造中に作戦がばれてしまい運行中に数多くの攻撃も食らうも墜落せず最終的には特務部隊が手動操縦で海の其処へと沈めた。
もちろんニュースにはならず、試作機自動操縦の不具合で海に沈没としかニュースにはなっていない。
マックスの下で引き上げを行なった依頼主、引き上げされたはずなのに用済みになり売りに出された艦、そして『星の二号』としての作戦名。
元々はヤマトには家族が無かった。物覚えが付いた時には火星軍基地に居た、一般の兵士と違い異なる訓練を受けたヤマトは地球へと向かい『平和の為に』と命令されるままに潜伏期間得て軍に入った。しかし、火星での特殊部隊の全滅でヤマトに命令する者も報告する者さえ居なくなり、成績を一般以下と偽造していたヤマトは退官への道と辿ったのだ。
「星の二号……」
再び同じ言葉を放つ、元上官が発言していた言葉だ。ベッドに横になると天井を見上げたまま呟いた。
短いノックが室内に響く、部屋の明かりをつけ扉を開けると相変わらずのメイド姿のカルメンが立っていた。
「夜分に失礼します。少しお話があります、宜しいでしょうか」
「ふむ。狭いが中へ」
カルメンを自室に招きこんで辺りを見回すヤマト。簡易冷蔵ボックスから飲料缶を座っているカルメンの前に差し出す。
「すまんがコレしかない」
「御気にならさずに。単刀直入に聞きます、貴方は何者ですが」
唐突な質問に言葉を無くすヤマト。
「ヤマト=フジ。元地球連合軍所属最終階級は軍曹、成績はオールC。しかしながら数ある特殊任務に参加。軍の圧縮により退役、その後お嬢様と出会う」
「ほう、良く調べたな……」
「一週間でコレだけです情報が無さ過ぎるのです、其処までの任務に就きながら成績が平凡以下。本日も街中での発砲これは私がもみ消しました。さらにお知り合いの向日葵様の正体など。不明が多すぎます、ヤマト様に至ってはまるで意図的に過去を消しているように思えるのです」
「だとしたらどうする」
ヤマトの言葉に周りの空気が張り詰める。
「お嬢様は好意を持っているように思えますが、此処に三百万ルピがあります。今夜にも船を降りてください」
カードと一緒に小さな銃を握り締めているカルメン。
確かにヤマトには船に執着する事もない、元々は働く為、金を稼ぐ為に入ったので船を降りるほうが楽ではある。
ヤマトが口を開きかける時に部屋のドアが再びノックされた。
ヤマトとカルメンが御互いに顔を見合わせると小さな声が聞える。
「遅くにごめん、ヤマト寝ちゃった?」
カグラの声がすると、一気に青ざめるカルメン。小声でヤマトに相談しはじめた。
「ど、どうしましょう。お嬢様にこんな場所を見られたら勘違いされます、先ほどの話は取りあえず置いておいて隠れる場所は無いでしょうかっ」
辺りを見回し小さな冷蔵ボックスの蓋を開ける。頭すら入れない、次にテーブルの下へと隠れようとするがまるで隠れ切れてない、オロオロとし始める。
ヤマトに肩を叩かれクローゼットが開いているぞと合図を受けると、人差し指を当てて静かに中に入るカルメン。
黙っていてくださいとのお願いのポーズである、ヤマトは静かに頷くと扉をそっと閉めた。
「起きてるぞ」
短い返事で扉を開けるヤマト。
部屋の中をキョロキョロと見回すカグラ。
「あれ、やっぱり居ないか……」
「何がだ?」
「いやーカルメンがさ、さっき寝る前に何か思いつめた顔していたから何処に行ったのかなーって思って、見て回れる場所は全部見たんだけど、まさかと思ってヤマトの所に来たのよ」
「ふむ。特に何も無いがお茶代わりだ、で居たらどうしたんだ」
飲料缶をカグラに差し出すヤマト。
「あら、ありがと。案外気が利くのね。あれ、もう一本あるけどコレは?」
「ああ、俺のだ」
「そ」
特に気にした様子もなく話しを続けるカグラ。
「そうそう、それでね。まさかとは思うけど、カルメンがヤマトを辞めさせようとしないが心配で……」
「ほう」
今まさにその話をしていたとは夢にも思わずカグラはテーブルの前にある椅子へとすわった。
「前も不思議な事が合ったんだけど、昔住んで居た所にいた場所に憎たらしい男の子が居たのよね。まだ小さかった私は苛められて帰ってきたんだけど、その時に屋敷に居たカルメンに問い詰められてね。『怪我はしなかったか』『痛い所はないか』でね。何故か次の日からその男の子は私を避けるようになったのよ」
「ただの偶然だろ」
ぶっきらぼうに答えるヤマトに納得の行っていないカグラ。
「それが五件も続いてまだ偶然と言えるのかしら? 実はヤマトの前にも求人を出して何人か男性を雇ったんだけど、私が社長でカルメンも女性、マリーちゃんに居たっては押しに弱い上にナイスバディ」
ナイスバディを強調しなから続く。ヤマトは思わずカグラの胸元をみるが、カルメンやマリーと比べると貧相な胸であった。視線に気づかず話を続けるカグラ。
「入社したとたんに何て言うか……」
「ふむ。好奇の目で見ていたか」
「そうっ。それよそれ、設備を説明するんだけど。ほら地上に居る間って暇じゃない? 『トイレは何処ですか?』『お風呂は何処ですか?』『洗濯は共同ですか?』など何か引っかかる言い方ばっかりの人達でね。私としても困ったなーって考えていたんだけど、まだ何もしてなかったし、いやされても困るんだけど。考えていたら全員が次の日の朝には逃げちゃった」
「ほう、何故だ?」
答えはわかってはいるが聞いてみるヤマト、予想通りの答えが返ってくる。
「んーあんまり身内を疑いたくないけどカルメンが一役何かやってるのよね……」
「気のせいだろう。偶然は良く重なるからな」
「あーのーねー……」
引き続き不満げな声を出すカグラ。ヤマトは表情を変えずにカグラへと質問をする。
「で、結局の用事はなんだ。愚痴を言いに来ただけか?」
「違うわよっ。もしカルメンが来てヤマトを辞めさせようと提案しても受け入れないで欲しいの。私の事を思って動いている見たいだけど私も何時までの子供で居られないし、私も少しでも立派になってカルメンから受けた恩を返したいのよ」
「ふむ、本人が聞いたら喜ぶだろうな」
ちらっとクローゼットを確認するヤマト。カグラは言いたい事が言えたのかすっきりした顔をしていた。
「内緒よ。っと、遅くまでごめんね。別な所をもう少し見てみる、ヤマトの部屋から出てくる所を見られたら、また何か言われるかわかんないし」
掛け声をかけて立ち上がるカグラ。扉を開けて部屋を出ようとすると立ち止まった。
「そうそう、私コレでも少しはヤマトに感謝してるのよ。なんだかんだで助けて貰っているからっ、じゃっ、おやすみー」
此方を振り向きもせずに扉を閉めるカグラ、沈黙だけが残された部屋でヤマトはクローゼットを開ける。
其処には目を押さえるカルメンが居た。
「お嬢様、ご立派です……」
「ふむ。それは良かったな。で、俺はどうする」
「そうですね、非礼をお詫びし、匿ってくれた事を感謝します。お嬢様がああ言った手前、直ぐに船を降りられると困ります。誠に勝手とは思いますが暫くは残っていて貰いますか?」
「了解した」
カルメンも部屋から出て行きベッドへと腰を下ろすヤマト。ドタバタの騒ぎで数時間前までの苦悩が嘘のように思え思わず唇が歪む。其のまま毛布を身体に巻きつけると静かに目を閉じた。