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ミッション10 『運営方式』

「遅かったのーヤマ坊」

「ああ、すまない」


 あれからヤマトは向日葵の家へと行き頼まれていた材料を積んでノーチラスへと帰ってきた。真っ直ぐにエンジンルームへと機材を運んでいく。

 其処では耐火ゴーグルをつけた向日葵が工業用アームを使い部品を組み立てていく。

 素人目には判らない物体が艦のエンジンへと組み込まれていく。


「後少しで完成じゃ。所でヤマ坊何があったのじゃ」

「何もない。気のせいだ」

「ふむ。伊達に何年もヤマ坊を見ていたわけじゃないのじゃがのー……まぁ本人が話したく無いなら別にじゃの、それにしてもこの船は相変わらず素晴らしい、レストアした時に重力空間ユニットを外す時はマックスと意見が合わなくて喧嘩したもんじゃ」


 嬉々として喋る向日葵を眺めるヤマト、その顔を見ながら質問をなげかける。


「この船の引き上げを頼んだのは誰だ」

「ワシに聞くでない、詳しくわからないじゃよ。依頼を受けたのはマックスだしのー確かデーター収集としてだっけかー。他の船と変わっていたからの、綺麗にレストアして渡しただけじゃ」

「何かこの船で変わった事があったのか?」


 それまで機械を弄っていた向日葵が手を止めヤマトのほうへ向き直す。


「ふむ、船内は思ったよりも綺麗じゃったな、何より驚いたのか装甲じゃ。今まで見た艦より分厚い、それにこの素材じゃ。学会で発表されてない素材じゃ。ワシは行った事ないけど地球じゃ取れない材質を使ってる、恐らく火星の物質じゃの。あとあと」


 話の止まらない向日葵を手で制するヤマト。

 

「熱い思いはわかった。作業中すまんな」

「なんだヤマ坊。話の途中と言うのに、まあええわい。相談事なら婆に相談せえよ」


 軽く手を上げ直ぐに出口に進むヤマトを不思議そうに見送ると一人になった向日葵は首を傾げた後に座りなおし作業を再開しはじめる。

 ヤマトのほうは足早に廊下あるくと曲がり角で人とぶつかった。相手は食器を持っていたらしく辺りに散乱した。尻餅を付いたマリーがお尻を押さえていた。


「痛たたたた」

「すまん」

「ふえええ。ヤ、ヤマ……」


 尻餅を付いたまま数メートル下がるマリーを目で確認すると、散らばった食器をまとめ始めるヤマト。端に食器を固めると『此処に置いていくぞ』とマリーの横を通ろうとする。

 突然ヤマトの服を引っ張るマリー。何事かと足を止めマリーのほうへ向き合った。


「怪我してるじゃないですかっ」


 マリーは震える手でヤマトを指差すと、確かにヤマトの手には切り傷が出来ており血が滲み出ていた。


「かすり傷だ」


 一言喋り進もうとするヤマトの身体を両腕を使って止めるマリー、服が目一杯伸ばされて、溜息と共に立ち止まるとマリーを見つめた。その手は震えておらず真剣な目をしてヤマトを見ていた。


「注意一秒怪我一生です、それも原因はマリーにあるし、直ぐに消毒しますので動かないでくださいっ」


 マリーはポケットからスプレーを取り出すと複数回上下に動かしヤマトの傷口へと吹きかける。傷口表面が白い粉末で固まると新品の包帯を取り出し器用にヤマトの手へと巻いていった。かすり傷に大してはかなり大げさな治療である。


「はい、出来ましたー痛くないですよー」


 子供をあやすようにしゃがみ込みに喋るマリーを立ったまま見つめるヤマト、視線に気づいたのか慌てて距離を取り始めた。


「あ、あの出来ました」

「人嫌いなのに人に触って平気なのか」


 ぶんぶんと首を大きく横にふるマリー、しかしヤマトを見つめたまま口を開いた。


「私が医者になったのは人嫌いを直すためでもあるんです。怪我はほっとけません」

「そうなのか?」

「はい。それと別に人嫌いというか、突進してくる男性が苦手なだけで。子供とかは好きなんですよ」

「なるほどな。治療の礼を言う」


 深く腰を曲げお礼を言ってから、その場から離れるヤマト。その背中を黙って見送るマリー。

 社長室と書かれたドアの前にヤマトは立ち止まった。ドアに付いているインターホンを軽く押すと、カルメンの声が機械から響いた。


「はい、社長室です」

「俺だヤマトだ、聞きたい事がある」

「ん、なんだろ……今更賃金の値上げとかだったらやだなー、それとも、もう辞めたいって話かしら」

「お嬢様どうします? 居留守を使いますか?」

「そうも行かないじゃない。私が開けるわよ、暇だし」


 機械からカルメンの声と共にカグラの声も混ざって聞えてきた。

 直ぐに開かれる扉、ヤマトの視線の少ししたカグラの顔があった。


「な、なにかなー」

「安心しろ。賃金の値上げでもないし退職の願いでもない」

「あれっ聞えてたっ、じゃぁ何の用事なの。はっまさか自分で言うのもなんだけど美人な私に惚れて求婚とかっ」

「それもない」


 即答するヤマトの前に自動扉が閉まる。数分待ったヤマトは再びインターホンを鳴らした。今度は直ぐに扉が開きカルメンが室内へと招き入れる。


「どうぞ。お嬢様は心労がたたって膨れていますが御気にせずに」

「ああ」


 全く気にしないヤマトに社長と書かれたディスクからカグラが『ちょっとは気にしなさいよ』と叫ぶ。

 ヤマトはちらりと見ただけで顔をカルメンへと向けた。


「この船を買った時の売り手を知りたい」

「理由は?」

「それは言えない」


 二人の間に静かな火花が散った。助け舟を出すようにカグラが横から声をかけてくる。


「何が知りたいのか知らないけど、オークションサイトで落としたから解からないわよ。突然尋ねてきてどうしたのよ。それに手どうしたの?」

「ああ、これか。マリーとぶつかり怪我をしたら治療された」

「おー思ったよりも仲良くできてるのねよかった……」

「では帰るぞ」


 ヤマトが振り向きドアの取ってへと手をかける、扉は硬く閉ざされておりヤマトの力では開かないようになっている、振り返るとカグラを見た。


「おい」

「いやー丁度私もヤマトの意見を聞きたいと思っていた所なのよ。これどうかな?」


 プリントアウトされた紙をヤマトに手渡す、その紙は『惑星共同レース、トップウォーズ』と書かれていた。地球から月を目指し、さらに火星を一周して最後に地球に戻ってくるレースである。優勝賞金七億ルピと大きな文字で書かれていた。

 先日であったレーサーの京子もこのレースに出る予定である。


「いやね。ウチには知名度がないのよ知名度が、いくら新規で宅配業を営んでも全然依頼が来る予定ないのよね。此間あった京子さんだって毎回頼むわけじゃないだろうしさ。このレースに出る事によって箔が付くじゃない。一般予選会を勝ち残れば、なんっと本戦へ無料でいけるのよっどうかな?」

「ふむ、船の耐久値などを考えれば出ても大丈夫とかおもう。ただ相手はプロだ、そう簡単に優勝は出来ないとは思うぞ」

「それに此処を見てよ。船のサイズもなんとばっちりの規格サイズに適してるの運命と思わない」

「運命か……」


 いくら艦が良くても操縦技術が無いとどうしようもない。現在運行する艦はほぼ自動操縦だ。しかしレースとなると各レーサーが巨大な艦を手足のように操縦する。大きければ大きいほど操作は難しく迅速に行なわなければいけない。

 開催中に起こるハプニングで死者が出る事もある、そのために年々賞金が膨らんでいった。なぜレースが中止に成らないのかというと、娯楽の少ない火星や月で熱狂的なファンもあり、地球側でも色々な政治的要素が絡んでいるからである。



「それに、いいのよ優勝は。知名度上げるためだから本戦さえ出れれば、最悪出れなくても『銀河をまたにかけるレースに出た運送会社』って売れ込みできるじゃない。よしカルメンいけそうみたいだし予選会の応募よ」

「判りましたお嬢様」

「で。誰が操縦するんだ?」


 カグラは真っ直ぐにカルメンへと指をさす。


「僭越ながらわたしです」

「カルメン一級手動操縦士の免許も持ってるのよ」


 車を運転するのですらあんなノロノロである事を思い出しながらも口にはしないヤマト。

 社長室から出ると真っ直ぐに自室へと帰る、直ぐに小さな荷物から古い通信機を引っ張り出した。

 ダイヤルを操作し耳に当てるもノイズしか聞えず役に立たない事を痛感する。苛立ちをおぼえ、壁に投げつけると通信機は音を立てて壊れた。

 無造作にベッドに横になるヤマトは過去を思い出すように『星の一号』と口に出した。


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