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一年のうちにここまで京都に何度も行くことになるとは思わなかった――――と新幹線の中で奏音は思う。しかし、楽しみにしていると、そういう感情は一切わかずにぼんやりと外を眺めていた。
特に代わり映えのしない風景で面白みも何もない。ずっと家続きで、ごくたまに川とかが見える、それぐらいだった。
今胸の中にある感情を定義することが奏音にはできずにいて、定義でない感情が胸を焦がすからそれを昇華させることもできずにいる。思い返せば自分はただのアルバイト。ここまでする義理なんてないのかもしれない。しかしそれは立場を優先させた場合のみ。自分の感情は別だ。自分は今英章を連れ戻すために……ここに座っている。
「大丈夫? 落ち着きないけど?」
「えっ? あっ、はは……やっぱそりそう見えますか?」
「十分に。まぁ、俺も人のことは言えないのかもしれないけどね」
隣に座る華央も苦笑いで答えてくれる。それから華央は大きく背をそらさせて天井をみやった。奏音もそれに合わせて天井を見る。シミ一つない白は落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「にしても、先生も指定席どころかグリーン席を用意してくれてるとは、驚きだよな」
「そうですね。というか、もしもこれ全員行くといってたとしてもグリーン席だったんでしょうか?」
「たぶんね。だけど結局は俺たち二人になったわけだけども」
ここまで憂鬱な顔でグリーン席に乗っている人間は彼女ら二人以外にはいないだろう。
結局話し合いの結果、今回京都に行くのは華央と奏音の二人となった。華央が京都までいくのはほぼ確定だったとして、ほかをどうするかはかなりの討論があった。今回行くメンバーを二人に限ろうというのは最初のうちに決まった。あまりに多くの人物で行っても、意固地になるだけだという判断とそして真摯な対応を示すには少ない人物で一人当たりの時間を多く割いた方がよいのではないかという提案からだ。
では残り一つの枠をどうするかだが……こちらは茉奈と京の提案、及び華央の承諾で本人の意思とは無関係に決まった。奏音だ。
奏音としては年長者ということから茉奈か、兄妹という点を生かして京が行くべきであると主張をしてみたのだが、同じバリスタとしていくべきだという言葉に返すこともなく、また一度単身京都へ行っている点から英章の現状を一番知る人物であると理屈で返されたので仕方がない。
その裏で、茉奈と京が余計な……とまでは言わないが気を回していたのも事実である。確かにより熱い思いをぶつけることができるのは奏音かもしれないが……にしても恥ずかしさがあることには変りない。
「……まっ、ここで緊張しても仕方ないよ」
「そうですけど」
「今から気を張り詰めてても疲れるだけ。だからちょっと遊ぼう。コリドール、ラブレター、クイキシオ……どれがいい?」
「あ、はは。たくさん持ってきてたんですね。そうですね……じゃあ肩慣らしでラブレターで。運要素がある方がいいかと思いますから」
華央の提案にありがたくのる。ゲームに熱中をすればこの定義できない感情を一時的にでも忘れることができるかもしれない。それは問題の棚上げなのかもしれないが、きっと一人で考えているだけではいつまでたっても答えなんて見つからないのだから、それならば忘れているほうが心身のためだろう。
「よーし、じゃあちょっと待ってね……えっと、あったあった。じゃあ始めるとしようか」
あえて明るく笑い声をあげた華央。それにつられてこちらも笑う。
ようやく憂鬱な顔が少しは晴れたようだった。




