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センブリにこれだけのメンバーが集まったのは、かなり久しぶりの事であった。茉奈と華央、奏音ら女子三人はちょくちょくと会う機会があったが、この5人というとかなり珍しい形となる。というより、久しぶりという形であろうか。
「正直言うとさ、いやな予感はしていた」
口火を切ったのは、年長者としてだろうか華央だった。
センブリのテーブルを、従業員が囲むことはそこまで珍しい事ではない。しかし、そのときは大抵、アナログゲームが広げられているか、コーヒーが置かれているかである。しかし、今日はただのお茶でしかない。
京が適当に入れたお茶だけだ。
そもそも、今日は示し合わせてセンブリに集まったわけではなく、全員が自然に集まった。
まず最初に華央と奏音が出会い、バイトを終えた茉奈が遅れてきて、最後に授業を終えた京がやってきた。
だけど、意外に思うわけでなく、リアクションとしてはやっぱりという苦笑いだけだった。
本来であれば全員が集まるのは来週になる予定だった。それは華央が示した英章へのタイムミリットだから。その期限を堂々と彼は破ろうとしている。
昨日、メールが全員に届いた。中身は謝罪とそして京都に残り続けるという強固な決め事だった。
8月の終わりに、センブリに吹く風は冷たい。
「私が京都行った後は、まだこまめに連絡くれてましたけど、最近はほとんどありませんでしたもんね。ほとんどというか、全くですが」
「うん、でも心のどこかで信じてたところはあるんだけど……。むしろ自身の裏返しというか、ほらっ、便りの無いのは元気の証って言うし」
「そうして届いた便りが、帰ってこないって言うんじゃ……なんだかな。先輩裸子言っちゃ先輩らしいが……。くそっ」
軽く舌打ちをする華央。彼がここまで態度に表すのは珍しいところだ。
そしてまたしばしの無言時間が表出する。その無言は体を荒れさせ、複雑な色合いとなり体に襲いかかる。どうしたらいいとか、なにもわからない。頭がぐるぐると回転して、だけどぼんやりとしている、まるでインスタントコーヒーを間違った作り方をしたような、ぼやけかた。まとまりのない味だ。
「……ごめんなさい」
「えっ、あっ……なにも京ちゃんが謝る事じゃ」
急な謝罪の言葉をだしたのは今までほとんど無言だった京だった。慌ててフォローをいれる華央。大人げなかったかと反省をしているのかもしれない。
「私は少し油断をしていました。なんだかんだいって戻ってくれると思ってました。お兄ちゃん、コーヒー馬鹿だし、ずぼらなところはあっても約束は守ってくれていたし。だから、なんだか、信じられなくて……ごごめんなさい」
ふわふわした、そして冷静さのかいた言葉。もはやお兄ちゃん呼びを隠そうとしないその言い方に、少しかわいそうだが、全員の冷静さがあがった。店の中心を失った今全員がふわふわするのは仕方ないことかもしれない。しかし、だからこそしっかりする必要性がある。
「あっ、ごめん、電話」
華央が立ち上がり携帯を片手に話し始める、かと思いきやすぐに帰ってきて携帯を中央に置いた。どういうことだろうと思い華央を見上げる。
「先生から。スピーカーにしてくれって」
「京音里さん……?」
と疑問を零したがその後すぐにスピーカーがオンになって奏音の疑問を消し飛ばせる。
『みんな、集まってたんだね。ヒデの件、まずは私の方からも謝っておこう』
「そんな、謝ることでは」
思わず否定を挙げる。英章に謝れるならまだしも彼に謝れる筋合いはないはずだ。そもそも誰の謝罪も望んでいない。
『ヒデの説得はすでに私からも行っているんだ。だが、結果はこれだ。ヒデは絶対に譲らないつもりだろう、少なくとも私の説得で華。そこでだ……みんな来週末はあいているかい?』
「来週末っすか?オレは大丈夫だけど……」
「あたしも大丈夫です」
「私も」
「私は……今働いているところの店長さんに頼めば予定は開けられます」
『そうか。ならば全員のチケットを用意しよう。京都まで来てくれないかい?』
「なっ」
思わず声がのまれる。そしてすとんと胸に落ちる。たぶん、京音里に言われるまでもなく全員が京都へ行こうとしていたことだろう。
『今すぐ決めろとは言わないし、何人かだけという形でもいい。もちろん、行かないという選択肢もアリだ。君達に任せる。決まったら教えてくれないかい?』
「……はい、分かりました。オレ達の方で予定を決めます。また、折り返し連絡をいたします」
『そうか。楽しみにしておくよ』
これで京音里からの電話は終わった。プープーという少し悲しい音が響く中全員が顔を見合わせる。
今回の目的は英章の説得。全員で行ってそれは意味があるのか、代表者がいくべきなのか。
とにかく、全員が行かないという選択肢はないようだ。
「さて、話し合いをするとしようか」
華央の声で私たちは議論を重ねることにした。