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「なんだか、あっという間だったね、一泊ぐらいすればよかったのに」
京都駅まで送った英章は少し名残惜しそうな声で奏音に言う。その気持ちは奏音にだって覚えがあり、むしろこの京都の町でやり残した、もとい調査したいことは残っている。ただ、まぁ……おそらくはその懸念は大丈夫だろう。彼のような朴念仁に、そういう色気を見いだすことはできなかった。まるで、部活に青春を捧げる高校生のごとく、コーヒー以外には無関心にすら思える。
「でも、大学もありますし……デティールも。まぁ、0泊3日なんて無茶をやれるのは今だけかなって」
「それもそうかもね。そうだ、デティールの方は? 山苗さんとかもどうなのかな?」
「元気ですよ。まだまだ勉強することだらけだって言ってましたけど……、でも店長としてしっかり働いていると思います。なんて、私が言うのもおこがましいですけど」
肩をすくめて笑う。ただの大学生が生意気な言葉だろう。それについては特別な否定をせずに英章は目を細めて笑う。そのときになって、ようやく少しやせたかもしれないと感じた。笑ったときによった皺のせいなのかもしれない。ほんの少しだけ不安を抱くが、危険になれば京音里さんらのサポートがあるはずだから、心配は無いかもしれない。
「英章さんも体調、気をつけてくださいよ。コーヒー飲みすぎて中毒にならないでくださいよ」
とはいえ、一応忠告はしておく。今までは家に帰れば京というストッパーがいたが、ここでは違う。1人の時に暴走してしまって、止める方法がないのだから。
カフェインの致死量は成人男性でおよそ12グラム。エスプレッソコーヒー100グラムのでのカフェイン保有量が200グラム程度なので、致死量までいくのには相当量飲む計算となるのでよっぽどだろうが。
「一応気をつけるよ」
「一応じゃなくて絶対です! もし守れないようならば次は京ちゃんと茉奈ちゃんを送り込みます」
「あ、あの2人同時に来たら、それはそれで怖そうだね」
苦笑いを浮かべる英章さん。2人ともいい人間ではあるが、同時にこられてあれやこれやとやられたらうまく他所する自身は提案した奏音にもない。
「そろそろバスの時間なので。帰ってきたら、最高のココアを"教えて"くださいね」
あえて強調して告げると、少し目を丸くしてから朗らかに頷いた。
ただでさえ、デティールではココアの修行は積んでいないこともあり、淹れてない。さらには山苗の提案でココアの修行に関しては行わないようにしている。
「それじゃあ、さようなら。待ってますよ」
「うん。それじゃあ」
奏音は手をふって、待ち受けるバスに走り着席する。一番後ろの窓側だった。その時にスマートフォンにメールが来ていることを確認する。京音里からのものだった。その内容は非常に簡潔でそれでいて、そのときの奏音には意味が分からなかった。
「私ならば、英章さんが失っている物を取り戻せる……?」
メールの内容はそれだけであり、全くもって意味を形成することが出来なかった。しかし、京音里さんがなにかを奏音に求めていることが伝わる。英章が失っているなにかとは一体何なのだろうか。バスの座席で首をかしげた。




