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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
セーレン・キルケゴール———『とにかく、私はコーヒーを高く評価している』
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 初勤務、という訳ではないが、きちんとネームプレートもはめての勤務となる本日は大盛況のうちに終わった。

 確かに初日ほどの忙しさはなく緩やかに時間が過ぎ去っていった。

「お疲れ様」

「あっ、店長さん。はい、お疲れ様です」

 最後の客が見送った奏音に英章は声をかける。

「はは……別に天童でいいよ。店長ってガラでもないし」

 少し困ったように笑う英章。

 これまで観察してきて英章の性格がつかめてきた。コーヒーに対しての想いは一流だ。だが、確かに英章の言うとおり店長という風貌ではない。

 時折、茉奈や華央が英章をからかったりしていたりと、かなり親しい位置にあるような形だった。二人とも丁寧さのそがれた敬語を使っている。

「でも、天童さんだと……、京ちゃんと」

「まぁ、そうだけど」

「じゃあ、英章、さん?」

「まあ、茉奈ちゃんもそう呼んでるし、それで奏音ちゃんが嫌でないならね」

「わかりました。では、英章さんで」

 奏音は笑顔で頷く。奏音にとっては初めてのバイトの場所。それを提供してくれただけでもうれしいのだから呼び方に不満などあるはずもなかった。

「……と、そうだ。アイツらに怒られるな」

「はい?」

「あー、いや」

 少し困ったように英章は頭をかく。そして口を開く。

「この後って、なにか用事でもあるのかな?」

「いえ、とくには」

「だったら少しいいかな?」

「いいですけど……?」

 少し不審に思いながら返す。どこか口ごもった答え方をするのは度々あったのだが、どうしたのだろうか。

「えっと、それじゃあ。どうぞ」

 英章が軽く右手を宙にあげて降るとバックヤードから今日共に働いていた茉奈に華央、さらにはいなかったはずの京まででてくる。

「えっと?」

「さあ、歓迎会だ!」

「うんうん。ようこそ、センブリへということで」

 困惑する奏音を置いて華央と茉奈が話を進める。

「ふ、二人とも。奏音さん、困ってるよ」

 慌てて注意をする京。奏音は茫然とするばかりだ。

「いやさ、せっかく来てくれたんだから歓迎会しようって。実をいうと開店以来新しくアルバイトに来た人がいなくてね。だから歓迎会をって」

 あー、そうなのか。思わず奏音はほっとする。慣れない環境。いまだに緊張もしていただけにそんなことだったので思わず息をついた。

「あっ、もちろん奏音ちゃんが忙しかったらいいんだけど」

「い、いえ。せっかくですし、お願いします!」

 奏音はかぶりふってその申し出を受け取る。笑顔の花を咲かせ奏音をエスコートしテーブルの一つに座る。椅子が一つたりないので京は別テーブルから一つ椅子を持ってきて座った。

「よーし、じゃあ歓迎会開始ということで。まずはこれをどうぞ」

 そういって華央は手際よくコーヒーを並べる。

「先輩に比べたらまだまだ俺は二流だけど、一応オレがいれたコーヒー。まあ、味わってよ」

差し出されたコーヒー。それをコクリと飲む。

「美味しい」

確かに英章のものと違い香りは劣るものがある。だがそれでも微かな差。非常に美味しいコーヒーに感じれた。

「おっ、嬉しいねぇ」

「うん、確かに少しうであがってるな」

「本当ですか?」

「嘘を言ってもしかたないだろ?」

「ありがとうございます」

 その後の英章の感想に顔をほころばせる。なんというかこの二人、信頼し合っているように見える。見ていて微笑ましいやりとりだった。

「はいはい、うちにBL趣味の人はいないから話し戻そう」

「誰がBLだよ!」

 思わずツッコム華央。いきなりのBL―――ボーイズラブという単語に苦笑いを浮かべる奏音。

 言われてみればお互い違うタイプのイケメンであるためにそういった想像はしやすいのかもしれない。

「まったく、と。それじゃあ、ここでだべってもいいんだけどせっかくだからゲームを持ってきた。ジャン」

テーブルの上にボードゲームを置く。そこに書かれていたのは。

「キャット&チョコレート?」

「うん、それの幽霊屋敷編。まず簡単にルール説明をするね」

 華央は一つ笑って説明を始める。かいつまんで説明するとつまりこういうことだ。

 プレイヤーはさまざまなトラブル、例えば『入った部屋から出れなくなった』や『廊下の先から骸骨走ってきた』などの幽霊屋敷にて起きるものを回避しなければない。その回避にはプレイヤーにランダムで配られるアイテムカードをきちんと使用しなければならないのだ。ちなみにアイテムカードは常に三枚持ち、うち何枚使用しなければならないといった規定はランダムで決まる。

 ただし回避できたかどうかは答えを発表したプレイヤー以外のメンバーが投票を行い、過半数が回避と認定すれば回避とみなされる。そのことを念頭に置く必要性がある。

「まぁ、まずは先輩からやってみよう」

 説明をしながら場のセッティングを終えた華央は唐突に英章にふる。

「えっ?僕?」

「店長ですから」

「意味わからないけど……わかったよ」

 奏音以外のプレイヤーはやったことがあるのか手つきは慣れているように思えた。

「それじゃ、引くよ」

 問題が書かれた山札から一枚引き場に出す。

「えっと……『扉の前で小さな女の子がすすり泣いていて部屋から出ることができない』か。で、使用アイテムは2と。うぅ~ん」

 まず、その小さな女の子がすすり泣いている状況というのが想像できないのだがそこからどう回避するのかと考える奏音。

「よし、じゃあまず」

 英章は決めたように一枚のカードを出す。そのカードにはシャボン玉と書かれていた。

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