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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
ジャン・ジャック・ルソーーーー『ああ、これでコーヒーカップを手にすることが出来なくなった』
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 車中、体の揺られる音を感じながら頭の中で色々議論をしていた。古木との会話で愛や恋というものが必ずかなうと言うことや、甘い物でないということは理解していた。それでも感情は先行するし、ロジックではどうしても止められない。今回の出来事も決して善の行いではないだろう。だからといって悪ではないのかもしれないけども……それでもこの行いは独善だ。

 そんなことは理解した上で気がつくと車内アナウンスが到着を告げていた。

「京都、か」

 奏音のつぶやきは京都の町に消えていく。

 結局は後悔をしたくない、ただそれだけの事でこの暴挙を決めた。

 ゴールデンウィークを終えたばかりの週末、それでも京都の町は観光客でごった返していた。とはいえ、今日の目的は観光ではない。一見すれば女子大生の一人旅なのだが。

 今回の調査には茉奈だけでなく華央、そして京と京音里まで手伝ってくれている。奏音の視察を知らないのは英章ただ一人だけだ。そのために、普段はあまりしない化粧道具もばっちりともってきて、変装道具として茉奈や京からウィッグや、やや派手目な装飾品まで借りたほど。これではおそらくバレないであろう。絶対とは言い切れないが。

 作戦としてはどこかのお手洗いでこれら変装道具を使い変装した後、リンドウに向かう予定だ。

「まずは、朝食かな」

 さすがにおなかの音を聞かすのは恥ずかしいし、夜行バスのせいでお尻もやや痛みがあった。深い眠りにつけたわけでもなかったので、頭も覚醒をしきっていない。

 とりあえず、適当な店に入りモーニングを頼む。モーニングはパンとコーヒーのセットのようだ。それを待つまでの間に手ぐしで髪を直しながら茉奈と京が所属しているグループにメッセージを送った。

 茉奈からのメッセージの返信は意外に早くモーニングがやってくるのとほぼ同時だった。京はまだ眠りの中だろう。そういえば、京はあまり朝が得意ではないことを、この京都旅行に行ったときに知ったのを思い出す。

 モーニングはオムレツとバターの塗られたパン、そして野菜が少しとブレンドコーヒーがついていた。そのコーヒーの味は苦みばかりが出ていてあまりおいしくは感じなかったが、朝の目覚めにはちょうどいいだろう。

 茉奈からのメッセージは簡潔で頑張ってという言葉とスタンプが押されていた。私は小さく微笑み、今は朝食をとってますと写真を載せた上で、先ほどのコーヒーの総評を送った。

 茉奈からは悪戯心からか、英章の淹れたコーヒーをダメだししてみては同かと提案されたが、さすがにそんなことをする勇気はないし、ダメだしをするとなればかなり長い間しゃべらなければならなくなり、そうなると声で気づかれる可能性もあるので止めることにする。ただ、そのときに思い出した声というワードのおかげで注文時などには声音をいつもより低くする必要を考え出せたのには感謝だ。

「だけども、一番の心配は英章さんが元気にやっているか、だよね」

 窓越しに歩く人々を見ながらそんなことを考える。朝だからか、それともそもそもそんなに町中を歩いているわけではないのか舞子の姿は見えなかったが、レンタルと思われる和服を着た観光客の姿は何人か見えた。やはり、和服は人をかわいらしく見えてしまうのか、一番の心配である元気かどうかを追い越し、小さな嫉妬心を抱いている自分をコーヒーの苦さで洗い流した。

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