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『もしも――――』
「茉奈さん!!」
バイト終わり、私服に着替え終えた後休憩室ですぐに電話をかける。3コールと少しの後、電話に出た瞬間に奏音は叫んでいた。電話に出てくれるか少し不安だった分、電話に出てくれた安堵からさらに声が大きくなってしまっていた。
『んっ……くくく、どうしたの?』
「どうしたも、こうしたもありませんよ。茉奈さん、デティールの店長さんと話しましたよね?なに余計なことまで伝えてるんですか!」
『あー、ブラインドサッカーは確かに余計だったね』
「そっちじゃありません!いや、そっちもだけど、それだけだったらそこまで怒りませんよ」
『えー、じゃあ、何のことかわかりませんねー』
あくまでも白を切るつもりらしい。声が白々しすぎる。ここまでくると怒る気力も沸きづらくなってしまうが、言いたいことは積もっているのだ。
「とにかくですよ、お願いしますから変なこと広げないでください」
『はいはい。でも、あたしとしても心配なわけよ』
少し笑いながら茉奈が言う。キィーという椅子を引く音が聞こえた。伸びでもしたのであろうか。
「まぁ、私のほうはそんな感じです。茉奈さんが余計なことを言うまでは万事順調に進んでました」
『ごめんってば』
「ところで、茉奈さんのほうはどうなんですか?いろいろと」
もちろん、そのいろいろには華央とのことも入っている。直接は尋ねる機会がなかったがついでだ。
『別に何もない。アタシは奏音ちゃんたちと違い、本当に純粋にただのアルバイトだから特別覚えなきゃいけないこともないし……。まぁ、華央さんのほうはそれなりに忙しそうだけどね』
「へぇ……。そうなんですか。それで?」
『あれ?今日の奏音ちゃん少し意地悪?』
「さぁ、なんのことか……」
今度はこっちがとぼける。仕返しをされるということを覚えるべきだ。
『それじゃあ、答えを言うと、アプローチをすることはあっても、向こうは気づかないという感じかな』
「そうなんですか。そういう意味では大変なんですね」
『ラブレターで遊ぶことがあっても、ラブレターを渡すことはないということかな』
そのちょっとした遊び心に思わず笑ってしまう。
『それじゃあ、そろそろ休憩も終わるから、電話切るね』
「バイトの休憩中だったんですか。すみません」
「まぁ、アタシがまいた種だからね。じゃっ、そっちも頑張って」
「はい、茉奈さんも頑張ってください」
お互いにそんなやり取りをし終えた後電話を切る。ふぅと息をつくと少し視線を感じる。
「あっ、一奈ちゃん、あがりだっけ?」
「はい……。先輩はさっきの電話……。前のバイト先ですか?」
「うん、私にとっての先輩かな」
「あの、先輩がよければ……ボクにバイト先のこと教えてくれませんか?」
「えっ?いいけど……?」
「先輩がボクと同じぐらいのときどんな感じで覚えたのかなって」
「そっか」
一奈は見た目でいえばダウン系であるが、そのうちは結構熱いものをもっているらしい。奏音は笑顔でそれを受け取ると二人並んで外に出た。