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「ふぃー、つかれたつかれた」
「ちっひーお疲れ様」
「おー、バリスター。お疲れー」
「その呼び方何よ……」
思わず温度が冷たくなる。19時を回り閉店時間を迎えたデティールは作業を全て終了しそして休憩室ではちっひーが一足先にのんびりとしているのだった。林、古木は先にあがっている。
ちっひーはというとそのハイテンションで客の心をつかんだのは間違いないようで瞬く間にデティールの人気者になっていた。その様子に山苗は隠れ家的なお店として開かなくてよかったと小さく苦笑もしていた。
確かにこんな人気な隠れ家的お店は存在しないであろう。
「というか、コンビニの時よりは楽なんじゃないの?」
「うぅーん、でもレジうちとかそういうのが変わってるし覚え直すまでが大変というのがある。後、コーヒーの名前がわからん!」
「そんなに堂々と宣言されても」
とはいえ、その戸惑いは奏音も経験したことがあるのでわからなくない。確かに妙に長々しい名前のコーヒーやデザートの名前も存在するのでそれを復唱するだけでも大変だろう。
「そういうカノンの方は憑かれてないの?」
「うーん、エスプレッソマシン自体はセンブリと同じセミオートタイプだからかなり大きな変化があるというわけではないのが助かってるかな。でも、何杯か作ってる最中に感じたけどブレンド系はどうしても個性がでるからその個性に合った淹れ方というのは難しいな……。それに同じセミオートといえどそこでも微妙に機械の個性が違うし、カフェラテ系統もミルクの配分なんかも違うから覚え直す必要がある。あとはやっぱりシアトル系カフェだからお待たせしてはならないというプレッシャーは結構あるかも」
「ごめん、何の話してんのか全くわからない」
「あはは、まぁ、そんな意気込みがあるなら二谷ちゃんは大丈夫かな」
「あっ、山苗さん」
「てんちょー、お疲れ様でーす」
「うん、お疲れ様」
休憩室に入ってきた山苗は笑いながフォローのような認めるような言葉を残す。
「エスプレッソマシンはわかるよね?そのエスプレッソマシンには手動式、セミオート、フルオートとあってうちで使ってるのがセミオートというタイプなの。センブリもそうだったんだよね?」
「はい、セミオートです」
「うん、だからその点に関しては大きな変更はなくて助かったというのがあるけども、うちでブレンドしているコーヒーは当店オリジナル。当たり前だけどそれがセンブリと同じというわけでもないからおいしいコーヒーを淹れるのは少し工夫が必要であると言うこと。で、極めつけに同じセミオートでも機械の癖は違うから難しいなーと、簡単に訳したら奏音ちゃんはこういうことを言っていたわけ」
「ほへー、やっぱり話の半分くらいしかわからないけどすごいんですねー」
「あなたも自然にわかるようになってくるわ」
ちょっと笑って返す。その後山苗は自然の流れとして席に着き奏音を見下ろす。
「でも、二谷ちゃんに言ったとおりその向上心があればコーヒーはますますいい物になると思う。少し聞いてみたいんだけど大学でもこんな感じなの?」
視線はちっひーに向いていて奏音にはしゃべらせる気がないことがその様子から理解できる。
「そうですねー。まじめですよ。いいいじられキャラでツッコミが輝きます」
「まって、何も褒められてない」
「あと、マゾ疑惑が出てます」
「ちっひーっ!?」
最後の余計すぎる一言に全身全霊を込めたツッコミをしつつ、なおのこと自分の頬を叩くという癖をやめようと決意をした。




