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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
エリオット――――『私は私の人生をコーヒースプーンで測ってきた』
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3

 デティールの営業時間は9時~19時となっている。店長である山苗は別として、ただのアルバイトである奏音は労働基準法などの関係上1日、8時間、週で40時間の決まりを守らなければなるまい。そういった関係から奏音の出勤時間は13時~19時までとなっていた。

 カランと裏口から中に入る。ちらりと店内を確認したがそれなりにお客さんが入っているようだ。食後の一服という形としては素晴らしいのだろう。

「おはようございます」

 カランと裏口からはいる。中には見慣れない女性が一人休憩中のようだ。バイト2人の顔写真は見せてもらっているので――――うち1人はちっひーだから元から知っているが――――消去法でこの人物が誰なのかがわかる。

「うん。あー、キミ。もしかしてセンブリの?」

「はい。ここでバリスタとして活動させていただきます。二谷奏音です」

「あー、いいよ。アタシ堅苦しいのとか嫌いだから気軽で。と、その前にアタシも自己紹介だな」

 雑誌を机上に投げ捨てて意識を奏音に戻す。

「まぁ、もう察してると思うが……、アタシは古木栞。一応ココの副店長としてバリスタ資格も持ってるけどまだまだ半人前。正直なんで山苗先輩がアタシを引っ張ってきたのかもわかんねぇぐらい。コーヒーより料理系のほうが好きだ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

 差し出された手を受け取り握手を返す。

 改めて上から下まで観察をする。ボーイッシュに切りそろえられた髪は明るい茶髪に染められているが化粧っ気は最低限に抑えられておりかっこいいという印象をそのまま受ける。しかし、女性の象徴というべきか、その胸にあるものは茉奈以上の大きさのものが乗っていた。そしてなにより、かなり若い印象を受ける。

「あの……失礼ですけど今年齢は?」

「うん?アタシは今21。今年で22」

「えっ!?」

 想像以上の低年齢で失礼承知で驚いた声を上げてしまう。見た目が若いだけでなく実際にも若いようであった。

「まぁねー。高校も面倒になって途中で中退してさ。音楽でしばらく喰ってたんだけどアルバイトでcafe.gustoに勤めてる最中にコーヒーにもはまって―って感じ」

「は、波瀾万丈な人生を歩んでますね」

「アタシみたいになっちゃダメだよー。結局音楽もうまくいかなかったし山苗さんに拾ってもらってなかったらどこかでのたれ死んでいたよ」

「あはは……。そうですか」

「ま、そんな感じ。てか、話し込んじゃってごめんね。さっさと着替えてきな」

「あっ、はい。わかりました」

 古木の声を後ろにききながら慌てて絵がえる。デティールでは決まった制服がないため私服にエプロンでもOKなのだが慣れた衣装ということでセンブリの制服をもってきていた。その服の袖を通して休憩室の方に戻るがもうそこには山苗の姿がなかった。おそるおそると店内を確認する。

「あ、あら、着替え終えたのね。こんにちは、二谷ちゃん」

「こんにちは。今お客さんは……」

「うん、注文も混んでないし大丈夫。栞も2時まで入ってるから1時間ぐらいは店の雰囲気に慣れるのを最優先で考えてもらったらいいよ」

「わかりました」

 軽く頷く。レジカウンターの方にはもう一人のアルバイト定員が作業をしている。その横に立ち声をかける。

「こんにちは、初めまして」

「うん?あー、もう一人のバリスタさん……でしたっけ?」

「はい。二谷奏音です。よろしく」

「ボク……あー、私ははやし一奈いちな。よろしくおねがいしますー」

 けだるけで瞳も丸っこく……なんとなく猫を連想させるような少女だ。奏音も微笑み返して挨拶を済ませる。

 ちっひーはまだ出勤していないらしい。おそらく一奈と入れ替えだろう

「うん、よろしく。それから別にボクでも大丈夫だよ?」

「そうー?まぁ、初めましてだから一応……。年上だし」

「気にしなくていいって」

 初めましての時からフレンドリーを通り越して少し失礼でもあったちっひーもいたのだから無問題ともいえる。

「とにかく、よろしくね」

「はい、よろしくおねがいします」


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