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SNSでのやりとりのあとちっひーがデティールに勤めるようになったのは、全くの偶然であったらしいということを知った。というよりSNSを送って数分以内に電話がかかってきたのだ。
「にしても、なんでデティールというか、カフェに?」
「前勤めてたコンビニがさー、契約更新をしないということになって……。そのことを伝えられてたから慌ててバイト探してたところで偶然にここのオープンスタッフの募集を見つけたというわけ。そのままとんとん拍子に面接も受けて私のおしとやかさで合格をもらったのだ」
「……そう。にしてもそんなに慌ててバイト探さなくてもいいんじゃないの?」
おしとやかさではなく明るいという方針で雇うことを決めたのだがそこは黙っておく。下手の所をつくのも蛇が出たら面倒くさい。
「デートとかぁ~、プレゼントとかぁ~、なかなかにお金ってぇ~、必要になってくるのぉ~」
どうやら蛇はこちらの方から出たらしい。砂糖が多すぎて非常にまずい。一瞬で糖尿病になりそうである。
「とにかく、私はコーヒー淹れる作業が基本になると言うことだけど時にはレジの方に立つと思うからそのときは援護よろしくね」
「この前とかぁ~、プレゼントでぇ~……えっ、なに?」
「とにかく、私はコーヒー淹れる作業が基本になると言うことだけど時にはレジの方に立つと思うからそのときは援護よろしくね」
やり直し。のろけもほどほどにしてほしいものだ。
とはいえ、プレゼント云々に関しては奏音も人のことはいえないことを重々に理解している。普段バイト先に行くときやコーヒーを淹れるときなどは汚したくないためつけていないがプライベートの時ではつけているときの多い、クリスマスの時にもらったネックレス。わがままを言えば自分だけのプレゼントならもっと嬉しいのだが実際はセンブリ女性従業員全員同じ物である。加えて英章からではなく、華央との連名であることも留意が必要だろう。
「カノンがこっちに来ることってあるの?」
「んーと、うちってシアトル系カフェでしょ?」
「当たり前のように用語を出さない」
「デティールで働くんだから少しは覚えていきなよ?でまぁ、ともかくうちって前払いでコーヒーを購入する訳じゃん。そうすると多少はお客様をその場でお待たせする時間が出来てしまうわけ」
「あー、ファーストフードとかでもそうだよね。たまーに、待てど暮らせどって時あるし」
「それは言い過ぎな気もするけど……。ともかく、センブリとしてもゆっくりしていたわけではないけど、とにかく迅速な対応というのが必要になってくることになると思うの、デティールでは。で、デティールのバリスタ3人のうち基本2人が働くことになるんだけど……やっぱり待ちのお客さんが多少でもいると立てないと思う。だけど、最優先でオーダーを聞いた方がいいと言うときは私もレジ打ちに行くと思う。後はバリスタ3人が同時に働く日も同様の処置をとることは多くなるかなと感じる」
これは伝えられたわけではないが、センブリでの時のことも考えるとそうなることは予想に難くない。さらに、センブリで提供されていないコーヒーに関して一から勉強をする必要性があるだろう。後、ココアも。
「ほへー、なるほど。あっ、そうそう。ついでだから色々聞きたいんだけど」
「私に答えられることならば」
「答えられる答えられる」
何をもっての勝手な判断なのだろうか。確かにコーヒーについては人より詳しくなったと自負している。おまけにボドゲも。とはいえ知らないこともまだまだある未知の世界。もしかしたら完全な素人だからこそ気になる深い部分があるかも――――。
「お給料ってやっぱりそっちのが高いの?」
「あー、確かに私なら答えられることだね。うん、でもそれに関しては黙秘を貫くからね」
「いいじゃんいいじゃん。うちの給料が安いよーなんてよくある話だしー」
「それじゃ、明日楽しみにしているから。遅刻しない出来てよ?じゃぁね」
「ちょ、カノン――――」
試合終了。ゲームセット。
お給金に関しては確かにちっひーたちより高くは設定してもらっている。というよりセンブリの時と同じ給金だ。
実はそれについても山苗から伝えられていた。その裏には英章の陰があり、出来るだけセンブリの時と同じかそれ以上にしてやってほしいこと、もし不可能であるというのであれば、英章個人の貯金から切り崩して差額分を渡そうとしていたことなどが伝えられた。その後の山苗の「愛されているね~」という冷やかしの後、あそこまで頼まれたらセンブリの給料に設定するしかないよねと小さくおどけていた。付け加えられた「それにあの腕前ならもっと出してもいいと思うし」という言葉は素直に嬉しかった物だ。
なにはともあれ。
「デティール・オン・カフェ。頑張りますか」




