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その店は、いわゆるシアトル系と呼ばれるコーヒー屋と同様のシステムをとっておりカウンターでコーヒーを注文し代金と引き替えに商品をお渡しして席に着くという形をとっている。これによりわざわざ客の元へ行く手間が省ける。その点はセンブリとは違うので間違わないように気をつけなければなるまい。
「それにしても、聞いていたとおりの腕前ね、二谷さん」
「そう、ですかね」
小さく笑って返す。話しかけてきたのはここ、デティール・オン・カフェの若き店主となった山苗華。
英章との関連性を聞いたところ、リンドウ時代の同僚で今ではcafe.gustoの店長をしている人物の一番弟子だという。系譜で言えば英章からしたら姪弟子となるわけだ。つまり、その英章を師事しているということになる従姉妹となる。妙にむずがゆさもあるわけだ。
とはいえ、彼女も元を正せばリンドウの元で働いていたメンバーであり、cafe.gustoの立ち上げの際に引き抜いたのであって、状況から考えると華央のそれと同じである。
「こうしてみると、リンドウっていうか……京音里さんはすごいんですね」
「うん、先生は本当にね。私は専門学校に通ってた口でその時にリンドウを紹介させられたのよ。必ず独り立ちできるように育てるって。結局私は途中でcafe.gustoの方に移ったけども、実際にこうしてディールを立ち上げることが出来たしね」
「それで、私の師匠がまた師事し直すために京都の方に行ったって言うんだから、アレですけども」
「二谷さんも大変よね。仲間内でもコーヒー馬鹿として有名だったから天童さんも困った物ね」
「あはは」
その点は完全に同意ではあるが、とりあえずデティールで働く間は山苗のことをしたい、そして稽古をつけてもらえばいいだろう。
「ともかく、二谷さんならうちのコーヒーも任せられると思うからうちでもバリスタとして働いてもらうよ?いい?」
「もとよりそのつもりで来ました。むしろ、ダメだと言われたら納得してもらえるまで稽古をつけてもらうつもりでしたし」
「頼もしいなぁ。それじゃあ、うちのバリスタは私と二谷さん、そして今日は休んでいるけど副店長扱いの古木栞の三名ね」
「オープニングスタッフとしては?」
「2名雇ってる。一応初日に紹介はするつもりだけど……この2人だよ」
住所などの大切な部分を隠して履歴書を見せる。両名とも女性のようなので狙ってか否かこそわからないが女性オンリーのスタッフとなったようだ。だが、そんなことを確認している暇はなかった。
「ち、ちっひー?」
「えっ?あぁ、この子?知り合いなの?」
「大学の友達です……。なんていうか、明るくて天真爛漫というタイプの女の子でしたよね?」
「そうそう。元気もよかったからこの子ならうちの看板といか明るくやってくれるかなって思って」
「あー、そういやちっひー新しいバイト始めるといってたなぁ。ここだったんだ」
「偶然ね。驚くかもしれないわね、明日」
「今から少し頭が痛くなってきました」
その一言で普段の奏音とちっひーのやりとりをなんとなく認識して優しく笑われる。もう一名のスタッフがこの春大学生となる従順そうな女の子だったためその子が京に変わる癒やしになることを願うばかりだった。




