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ココアのない喫茶店  作者: 椿ツバサ
モンテスキュー―――『カフェこそ、そこにじっと座り続けながら、会話がリアリティを創出し、雄大な計画やユートピア的な夢想やアナキスティックな謀反が生み出せる唯一の場所』
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「お待たせしました、茉奈さん」

「うぅん、待ってないよ」

 ペコリと頭を下げて茉奈に挨拶をする。

 衝撃の告白から一週間。あの宣言は後に茉奈と京にも伝えられていた。一番ごねたのは京だった。

 どうして、なんでという疑問文ばかりの言葉を発しつつも、最終的には奏音も含め全員が認めていたこと、華央が突きつけた半年という期限があることから渋々といった様子で認めていた。

 そして今日はセンブリ一時閉店の三日前。バイトの入っていない茉奈と併せて街へと繰り出していた。本当ならば京も誘いたいところであるのだが、残念ながら彼女は高校生であり未だ3学期が残っている。

 奏音らはそのまま、確信にはふれないまま、目的地であるスイーツバイキングの店に着くと、適当にデザートと飲み物をとってくる。

 茉奈はケーキ系統の物が多く、対して奏音はチーズフォンジュやアイスと行った物を多くとっている。好みが出る物なのであろう。

「とりあえず、いただきまーす」

「いただきます」

 茉奈の合唱に少し遅れてついて行く。町中によくあるスイーツバイキングなのでそこまで感動を覚えるほどの物ではないが、それでも女子大生らしくというべきか甘みは脳内に快感と似た情報を与える。

「……それにしても、急だったよね」

「そうですね。もしかしたら英章さんの中では急な出来事ではなかったのかもしれませんが」

「あー、確かに。表で笑って飄々としているから、わかんないけどもね」

 本日の議題は英章の休業宣言の話し合い、そしてたまる鬱憤をスイーツを食い荒らすことで晴らそうという物である。少々腹回りに着く肉が気になるところであるが、まずはストレスを発散する方が先決だ。ストレスもまた太る原因の一つなのであるのだから。

「茉奈さんは休業したらどうするんですか?」

「別の喫茶店に移るつもり。行ってなかったっけ?」

「はい、初めて聞きました。どちらに?」

「cafe.gusto。イタリア語で味って意味の店だって」

「あれ?gustoって確か……」

「そっ。華央さんと同じところ。それとなく探ってみて一緒のところにいれてもらったの」

 ちゃっかりとしている。茉奈としてはダメージが最小限になっているところであろう。

「京ちゃんは学業に専念するってことだし、そもそもセンブリもお兄ちゃんのために働いてるものだしね」

「ホントホント、兄思いのいい子だよ。だーいすきなのはあ、おーにいちゃんーって」

 ここにいない京をネタにするのは少々気が引けるが……少々である。たいした問題ではない。もしこの場に京がいればイチゴソースより顔を真っ赤にして怒りを示したところであろう。

「奏音ちゃんはどこに?」

「私はデティール・オン・カフェです。英章さんの同僚が新規開店したばかりのお店でバリスタを探していたと言うこともあるらしくて」

「なるほどねー。じゃあしばらくは競合店としてしばらく敵対しないとね」

「敵対って……。それに場所も離れてますし」

「あはは、そっか」

 プレート上のスイーツを食べ終えたのでお代わりに動く。一応軽食も用意されているが今日の目的はあくまでもデザートだ。

 たらふくとって席に再び戻る。

「とりあえず、三日後のセンブリラストを乗り切ってそこからしばらくは力をためることに精進します」

「あたしはただのアルバイトだから気楽に行くけどねー」

「それ言い出したら私もただのアルバイトなんですけどね」

 微苦笑をする。忘れがちだが自分は大学生でありセンブリの正社員でもなければトップバリスタというわけでもない。バリスタを志したのも、コーヒーをうまく淹れたいという気持ちもあるが、英章に近づきたいという気持ちもあったのは隠すことが出来ない。

「でも、あたしはとかく奏音ちゃんはやきもきだよね」

「……あんまり考えないようにしていたんでそれについては触れないでください」

「京都の舞妓さんかわいかったよねー」

「茉奈さん!!」

 泣きたくなるような気持ちのまま茉奈に怒る奏音だった。


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