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滞りなく店が進む。平日と言うこともあるのかやってくる客は主婦とおぼしき存在ばかりでたいした忙しさもない。お昼のピーク直前には茉奈もやってきたのでさらに回転率も上がったので問題なく進んでいった。
「そういや、今日は急に英章さん、急にこれなくなったんですよね?」
「あー、そうそう。なんか用事ができたんだってさ」
「それで、急に私に回ってきたんですよね」
お客さんも後は常連さんだけという状態でそんな雑談を行う。仕事もちょっとした仕入れ業務があるぐらいだ。
「そうそう。何の用事かまではオレも聞いてないな。たぶんコーヒー関係じゃないかなって思ってるけど」
「あの人にコーヒー関係以外の用事ってあるんですか?」
「たぶんないんじゃないかな」
「ふ、2人ともそれある意味陰口ですよ」
ちょっとした悪口にも聞こえるようなことをいう2人に対していさめる。
「でも、奏音ちゃんもそう思うでしょ?」
「思い……ませんよ」
「あっ、目をそらした」
図星である。
「先輩もいろいろ考えてるみたいだからなぁ。バリスタとして、いろいろやっているんだろ。うちも三人のバリスタがいるわけだし……」
「そうですね。副店長さんもいろいろ考えるべきですねぇ」
「うん、そうだねぇ、っておい!」
「ノリツッコミですかぁ。8点」
「一応聞いてみる。それは10点満点で」
「もちろん、100点満点で」
「予想通り過ぎて何とも言えないよ」
イチャイチャと、客観的に見れる様子を確認してするするとホールに戻る奏音。茉奈も華央もかなりコミュニケーション能力が高いので二人集まればこのような空間になるのは珍しくない。おそらくだが二人ともいちゃついているという自覚は皆無であろう。むしろたちが悪い。
「これだけでおなか一杯になりそうだね」
常連客である初老の方が奏音に小声で話しかける。
「そうですね。ブラックコーヒーでも飲みたい気分です」
「この店にココアがあったらかなり甘くなってただろうね」
「ビターココアを頼んだはずなのになって首をかしげたくなりますね」
お互いに笑う。その様子にも彼らは気づく様子もない。
「それでも楽しいんだよね、僕はここに通うのが」
「お孫さん、京都のほうでしたっけ?」
「あぁ。よく覚えてたね」
「常連さんの情報だけですけどもね」
「ともかく、だからね、楽しいんだよ。ここはコーヒーもおいしいけど僕たち老人は会話を見てるだけで楽しいんだ。それだけでコーヒー以上の価値がある」
「あはは、そうだね。わしも同意見だよ」
別のカウンター席で会話をニコニコと楽しんでいたお客さんも笑った。ここの常連客の目的の多くは若者の会話らしい。コーヒーのうまみを楽しむのもその会話なのかもしれない。